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何気ない会話の中で

「そう言えば気になってたんだけど、リアの服って火光獣の毛でできてる?」


「え? あ、はい… 芸術矮星――王都のドワーフ工房でいただいたものです」


「やっぱりドワーフ製かー 良いよな、火光獣の服。オレが着てるのもそうなんだぜ?」


 嬉しそうに笑いながら、アイは自分の服を見せた。


 彼はダッフルコートのような上着を身に着けており、多少煤のような汚れが目立つがその色は真っ白であった。ズボンは真っ黒であったが、履いているブーツは赤い。

 そして、首に巻かれた長いスカーフと、身につけている手袋も同じく白いのだが、先端に当たる部分が深紅色であった。

 そこまで確認して、恐らく白い上着が火光獣の毛でできているのだろうと推測できる。

 だが、いくらなんでも彼は着込み過ぎだ。

 化物化したクモが活動できる通り、この世界の気候は現在寒くない。火光獣の服は通気性があるが、顔以外の肌を露出していないアイは暑くないのだろうかと、リアは疑問視する。

 リアの訝しげな表情にアイは勘違いして、話を続けた。


「白い所が一応全部火光獣なんだ。赤く変色してるのは、長時間、長期間、熱傷された結果でさ。色が戻らなくなってるんだよ。あ、でも効力はそのままだからさ」


「そうなんですか… 赤くなるのは知ってましたが…戻らなくなる場合もあるんですね…」


「まー大分着てるしな…――数年じゃ…」


 何かを言いかけたアイが口を閉じる。一瞬顔色が変わったが、次には元の状態に戻って話を進めた。リアにはその様子が何かを隠しているように見えた気がしたが、特に追求することもなく彼の話を聞く。


「ドワーフの工房に居たってことは、親父の弟子になりたいとか?」


 どうやら彼はフロイドから、リアのことを詳しく聞いていないらしい。「いいえ」と答えると、隠す必要もないかと思い、彼女は続けた。


「テウルギアについて…」


「テウルギアって…あ、だからルートさんが仲介役だったのか…。だから親父は…オレに―― ふむ」


 アイは少し考え込むと、丁度巻き終わったコガネグモの糸を纏め、背負っていた背嚢にしまい込む。その様子を見て、リアは「あ」と声を上げ、立ちあがろうとした。


「ん? もう少し座ってた方が――」


「い、いえ、荷物がその木の影にあるので…あと、矢も回収しないと…」


 アイの言葉にリアは答えると、「何だ、早く言ってくれれば良いのに」と彼は呟き、荷物を持ってきてくれる。そして、雌のコガネグモの死骸に近づくと、腹部から矢を抜き回収し始めた。抜くのと同時に持っていた別の布で体液も拭ってくれる。


「す、すみません」


「コレくらい気にしなくていーよ。しかしすごい命中率だな。炎も出せるみたいだし、リアってすごいんだな」


「い、いえ。私よりもアイさんの方が。私は見えませんでしたけど、その刃物で細切れにしたんですよね…その」


「素早さと力だけはあるからな。あとはチョチョイと裏技もあるし。でも、リアはリュックを背負ったままの方が良かったかもな。町の人たち忌避臭物渡してくれてたみたいだから、襲われた時あのちっこい雄なら、この臭いで逃げた可能性もあったかも」


「え」


「ん?」


「りゅっく…」


 アイが言った単語にリアは思わず反応した。

 彼はリアが持ってきた荷物(背嚢)を『リュック』と言ったのだ。

 この単語は、彼女の前世で使われていた単語の略称と同じ――しかも日本語独特の略称である。勿論、意味は等しかった。

 リアの中で確信が高まる。


 彼も同じ転生者で――しかも同じ日本人なのではないかと。


「あ、そっか、『リュック』って背嚢のこと。オレや親父は普通に言ってるからつい…わかんなかったよな」


「…フロイドさんも…言うのですか?」


(――もしかしたらドワーフは背嚢をリュックと呼ぶのだろうか)


 高まった気持ちが一気に消沈する。否、これだけの単語と様子では判断がつかない。もっと彼と話をする必要があるとリアは考えた。

 その間にもアイは矢の回収を全て終え、リアの元まで持ってくると、彼女の矢筒にも興味を示したようであった。


「それ、矢筒に入ってるのって、もしかして弓か?」


「え、ええ…」


「すげーな! 折りたたみ式? オレにはちょっと作れないなソレ」


 アイの言葉と反応を見たリアは、落胆した気持ちから少しだけ回復する。

 『作れない』と彼は告げたが、『ソレ』にかかるのは『折りたたみ式』という単語だ。

 つまり、彼は通常の弓ならば作れるのだろう。デイジーが言っていた『名無し』の弓が彼だと良いなと、リアは思う。


「そうですね…お気に入りです」


 願いを込めてリアは伝えると、アイに笑顔を向ける。彼は少し落ち込んでいる様子のリアに気がついたのか、心配そうに彼女を眺めた。


「――傷、痛むよな?」


「大丈夫です。もう歩けますよ?」


「駄目だ。もう少し安静にしてから。そしたらオレが運ぶから」


 リアの落ち込んでいる様子は、クモに襲われたことや怪我だけではないとアイは悟っているのだ。

 だが、彼はその考えを面に出してしまっても、彼女に追求するようなことはしない。

 嘘や隠し事ができないのだろう。だが、それはアイが本心から他人を心配するような優しい人だからなのだ。


(町の人々から愛されている理由が少しわかったかな…)


 リアはアイの言葉に従い、もう少し休むことに決めた。


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