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ドワーフの某息子

 アイは持っていた大きな山刀(マチェテ)を血振りし、腰に着けられている横向きの鞘に収めた。

 その動作を見て、彼がコガネグモを細切れにして斃したのだとリアは漸く理解する。未だクモの糸まみれの彼女は慌てて頭を下げながら、先に問われていたアイの言葉に答えた。


「はい、リア・リオネです。助けていただきありがとうございます」


「無事――じゃないな、ごめんな、もっと早く助けられなくて」


 アイはリアにそっと近づくと、首の咬創を見て面目なさそうな顔で言う。

 リアの身体に残っている糸を共に外しながら、傷の深さを確認しているのを彼女は感じ取っていた。

 天界の盗火の効果で傷が癒えやすい身である故に、余り見られたくなかったリアは、掌で隠すように傷口を抑えつけながら応える。


「い、いえ。元はと言えば自業自得なので… 町の人たちが反対していたのに強行しましたし… 雌のコガネグモなら…最初から雄の存在を示唆するべきでした」


 コガネグモの雄は成熟すると網を張らなくなり、成熟した雌の元へ向かい、交接を試みる。そのまま無事、受け入れられれば雌の網で共に生活をする様になる。これはジョロウグモも同じらしい。

 触肢が壊れてしまい、以後繁殖できなくなった雄グモも、雌の側に寄り添い、他の雄が雌を狙った場合は攻撃を行い、撃退する種がある。触肢が無くなった雄の方がそうではない雄より攻撃的で強いという話だ。

 リアが雄グモに襲われたのは、その様な意味でも当然であった。


「コガネグモ――知ってるのか」


「はい… ジョロウグモと違って毒も強くないでしょうから…少し酸欠でフラつきますが、コレくらいなら大丈夫です」


 怪訝な様子のアイに気が付くこと無く、リアは応えながら傷口に対して直接圧迫止血を試みる。

 しかし予想に反して出血は止まる気配がないため、アイは傷を抑えるようにと布を差し出した。リアは血液で汚すことに躊躇したが、彼の「駄目だ」の一声で大人しく従う。


「……一先ず、ココで少し休もう。その後、親父の工房に案内するから」


 腰掛けるように促され、リアは素直に座るが、肝心のことを聞き忘れていたため話を続けた。


「あの…アイさんはどうしてココに…町の狼煙って?」


「そうだな、順番に説明した方が良いか。まず、オレは親父に言われて工房で留守番してたんだ。十日くらい前だったかな、結構大きな仕事の依頼が入ってから、材料が足りなくなっちまって… 君はまだ町にも辿り着いてないようだったし、すれ違いは不味だろ」


 アイは話しながら立ち上がると、「材料といえば…」と言いながら、コガネグモの網に手をかけていた。器用に糸を引っ張ると、取り出した道具を用いて巻き付けるように糸を回収し始める。


「すみません」


「なんで、リアが謝るんだよ。仕方ないだろ? リアにも都合があるんだからさ。で、『町の狼煙』なんだけど、オレたちに『町に来て欲しい』場合は一つ、『早急に来て欲しい』場合は二つ…って感じで、数と色で狼煙を使い分けて、町と工房で合図を送り合うんだ。多分、町の人たちがリアのこと心配したんだろうな。普通に『来て欲しい』って合図だったから、オレも順路で町に向かったんだ。で、コガネグモに襲われている君を見つけられたってわけ。でも、町の人たちも賭けだったんだと思うんだよな。オレ、工房に居るなんて言ってなかったし」


 アイへの惚気とリアへの揶揄は多かったが、ウェイスト町の人々は本当に良い人ばかりである。リアは彼らの優しさに感謝するしかない。町に戻ったら絶対に豪遊しようと心に決める。


「本当に…ありがとうございました。町の人たちにも後で謝罪とお礼をします」


「うん、そうしてくれるとオレも嬉しい」


 リアの言葉に満面の笑みでアイは応えた。



 ドワーフの某息子、アイ。

 

 この世界で見かけるヒトは前世の人種でいう『コーカソイド(白色人種)』、そして王都でも見かけた『ネグロイド(黒色人種)』と『オーストラロイド』だ。リアは『メスティーソ』に似ているため、どちらかというコーカソイド寄りのオーストラロイドに近い。

 その中で全く見かけなかった人種がある。

 『モンゴロイド(黄色人種)』の――東アジア人だ。


 アイの風采容貌は正にその東アジア人であった。

 自身の前世と同じ日本人が目の前に居る様な気分になってしまい、リアは困惑と同時に安堵する。

 ただし、彼は肌と瞳の色は正に日本人であったが、髪の色は金茶。そう、日本人が黒髪を染めている様な――これが彼女の抱いた違和感であった。

 ルートが「変わっている」「この国では見かけたことがない容姿」と告げたことは実に的を射ている表現である。因みにウェイスト町の人々の風貌は、コーカソイドであった。だが、彼らはアイの風貌に疑問を全く抱いていない。――恋は盲目か。


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