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造網性クモ

 『私』が前世で見たクモで一番多く見たことがあるのは恐らく、『ジョロウグモ』だろう。

 日本においてヤツラは、造網性クモの代表格と言っても過言ではない。

 特に雌。かなりの大きさの円形の()を張り、その中央を陣取る姿は、警告色として強調される黒と黄色の縞模様の体で目立つ。

 網の糸も黄色味を帯びており同じく目に入るからこそ、何故こんなに目立つクモと網に気が付かず、獲物の虫は引っ掛かるのだろうと『私』は常に思っていた。

 木々の間や建物の軒下等、基本ヤツラは雨風が当たり辛い場所に網を張る。

 とある映画に出てきた一寸法師の様なおじいさんが言った台詞―――「クモは風が強く吹く所や、水が溢れる所には巣をつくらん」――これが幼い頃の『私』の記憶に刻まれた知識の一つだ。そういえば、そのおじいさんの話だとクモはチョコレートの味がするとのことだったな、と余計なことまで思い出す。――思考が逸れた。

 だからこそ、ヤツラが化物化で巨大になった場合、果たして網を張るのだろうかという疑問があった。まず、広範囲でなければその姿は一際目立つ上に、太さも大きくなった糸の網は隠匿しようがない筈だ。

 糸の太さを変えず、網を張る可能性も考えたが、巨大化したヤツラの体を支え、切れない様にするには、結局密集するしかないと思われる。

 話題になっていたので『私』もメディアで見たことがあるが、クモの糸を研究している人が、クモの糸を集めて紐を作っていた。その紐は人の体重を支えられる程の強度がある。確かバイオリンの弦も作っていたはずだ。因みにその紐は見事に白かった。

 つまり、巨大化したクモを支える網は恐らく、とても白くて目立つ筈なのだ。

 

 だが、そこまで考えて、ある二種の造網性のクモは巨大化しても巣を張るのではないかと思った。

 コガネグモ科の『コガネグモ』と同科の『オニグモ』だ。

 日本のコガネグモは、ジョロウグモと並び造網性クモとして有名だろう。ヤツラの雌は腹部が黒と黄色の縞模様のため、ジョロウグモだと勘違いする人が多いかもしれない。実際、分類が同科になっていたこともある。

 だが、コガネグモであると見分けるのはかなり楽で、そのことが巨大化しても網を張るのではないかと思った所以だ。

 ヤツラも網を張り、その中央を陣取るが、第一歩脚と第二歩脚、第三歩脚と第四歩脚をそれぞれ合わせて、『X』のポーズをとる。その足に沿った先に糸で稲妻型の白帯を作るのだ。『隠れ帯』とも呼ばれるが、コガネグモのそれは隠れることに使われているようには感じられない。

 だが、巨大化したらどうだろうか。

 例えば森の中、木々の隙間を縫って網を張る。糸は当然見えている。糸と網の状態なら警戒するだろうが、帯なら『木』の一部に見える可能性もある。人間は別としても、少し大きめの虫や小動物なら、勘違いして触れてしまうのではないかと思うのだ。そして、その少し先にはクモの歩脚が待っている。

 次に上げた『オニグモ』だが、コレはもっと単純な理由だ。オニグモは基本、夜間に網を張る造網性のクモなのだ。明け方には食べる等して網を畳んでしまうモノが多い。

 『私』も大人になって夜の公園を散歩しなければ、恐らく縁が無かったであろうクモだ。もし、見てみたいと思う人がいるようなら同じ行動をとると良いだろう。暗闇の中、公園の灯りに照らされているソレは、網の大きさと中央に居る大きなクモが実に不気味で正に『(恐怖)』だ。

 その様な習性を持つオニグモならば、暗い森のしかも夜、網も目立たないため巨大化しても問題ないのではと考えられた。

 ただし、どちらのクモであっても、雨風を凌ぐのは難しいとは思われる。それに関してはまさに巨大化していることで、問題を解決しているだろう。


 そして――リアは今、日が大分上ってきたこの時間――出発して二時間程だろうか――、この薄暗い森にて、化物化している造網性のクモを確認する。


 日本のコガネグモとは見た目が異なり、象牙色と生成色の縞模様であったが、網の上でお馴染みの『X』ポーズをとり、白帯もあったので、『コガネグモ科』のクモだろう。そして、模様色の派手さから恐らく雌だろうとリアは思う。

 白帯のことを考えていたからこそ、その姿を捉えることが叶ったが、同時に背筋が凍りついたかのうように緊張して動けなくなっていた。勿論、ヤツの網にも、糸にもリアは引っ掛かってはいない。

 問題は、続いていた道を覆うように糸が張り巡らされていることだ。

 ヤツがこの道を走ってきた動物を獲物にして生きているのは間違いない。ジョロウグモの話に戻ってしまうが、日本最大のクモにあたるオオジョロウグモは、網にかかった()を糸で束縛し、捕食したことで有名である。勿論、毒で動けなくったところを束縛したはずなので、網だけでの功績ではない。ジョロウグモの毒は影響力も含めて論じられ、記述されている文献は多い。

 コガネグモにも毒はあるだろうが、『私』には知識が無かった。『人間』に影響が無いと分かると詳細を一般的な書籍に記すことをしないのが、前世での日本という国の悪い例だ。――この世界と似ているのではと、リアは何度目かの既視感に陥る。


 兎に角、巨大化しているクモが目前にいることが問題なのだ。

 以前遭遇したアシダカグモの子グモ程の大きさであるが、比例してその網の範囲は広い。

 順路である道を避け、道ではない森もとい山を進むのは、地図も方位磁石も無い現状、逆に命取りだ。万が一救援に来てもらっても助かる見込みが無くなってしまう。

 町の人に貰った忌避煙でクモを一時退散させ、網を撤去して進む方法もあるが、クモとは網を撤去しても、同じ場所に網を張り直す習性がある。

 何処まで逃げてくれるか分からない現状、工房第九番から町に戻る時に、クモも網も復活している可能性の方が高い。忌避煙は一つしか無いのだから、その時には何も対処できない。

 

(仆すしか無いか……)


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