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ウェイスト町

王都を発って――七日後



 特に大きな問題も無く、リアは無事、フロイドたちの住む森の近くの町に辿り着いた。

 山奥にあるこの町の名前は『ウェイスト』。つい数年前までは村だったらしい。

 若者が働き手を求め、村を出てしまい過疎化していたのだが、フロイドたちが森に住んで仕事を担うようになってからは、復興、発展した結果、町となったとのことであった。

 現在町は農業と林業を中心に営み、狩猟も少々行っている。だが、その収入の大半は未だにフロイドたちの力だと言う。

 最近、町人待望の学校が建てられ、小さいながらも図書室も併設されているその場所には、人々の私物であった本が多く寄贈されているらしい。

 ざっと聞いた話は以上であったが、聞いてもいないのに常に話題に上がったことがある。

 

 フロイドの養子――某息子だ。


「『アイ』と言うんですか…」


「正確には愛称ね、誰も彼の本名は知らないもの」


 某息子の本名は未だに分からないが、彼の愛称が『アイ』ということは宿屋の女主人から聞かされた。続けて、彼がいかに『素晴らしい男』であるかを語られる。


「町の人間全員が彼に好意を抱いていると言っても過言じゃないからね…。あんたみたいに噂を嗅ぎ付けて、他村や町の女性も来るし、男だって彼に憧れてやって来る。おかげで、教育者も男手も増えたし、町として大助かりだよ」


「…アイさんが…」


「ん? あんたもそうなんじゃないのかい?」


「え… えと、私はフロイドさんに会いに…」


 そんなこと言って~、と女主人は一人盛り上がり始めた。合わせて周りに居た町の人々も続く。

 余りにも皆の表現が抽象的過ぎて、リアにはアイの『素晴らしい男』具合が伝わって来ない。

 聞いていると、彼の風采容貌については誰も触れず、だからといって技術の面でフロイドの上を行くような話は出てこない。共通するとすれば、『人柄』だ。

 偏見等無く誰にでも平等に優しい。とても真っ直ぐな性格。お人好し…など、後半は褒めているのか、貶しているのか分からない言葉も続いていったが、彼の魅力と捉えている人が多い印象をリアは受けた。


「そうそう、アイと言えば、今度から学校の図工の先生も受け持つんでしょう? 十三?日に一回だっけ?」


「それは町の子どもたちも待った無しだな」


「子ども…」


「『アイに楽な暮らしをさせられる様な職に就いて、一緒に暮らす』って言ってる子多いんだよ?」


 思わずリアが絶句する。

 アイという人物が老若男女問わずただ愛されているだけなのか、それとも単に守備範囲が広いのか…、話を聞いている限りでは前者だと思いたい。


「本当、アイにはこのまま町に住んで欲しいんだけどね~」


「本人が望んでいないなら仕方ないだろう」


 とうとう、リアを蚊帳の外にして町の人たちだけで話を進め始めた。

 フロイドとアイはほとんど町に顔を出さないらしく、森も化物が多いことから、町の人々が彼らの家へ赴くのは皆無だという。

 だからこそ町外からのフロイドたちへの外注は、町が代行して請け負うらしく、彼らはその依頼を引き取りに来るか、食料等の調達に来るか程度。

 どちらにしろ十日に一回町に来れば上々らしい。

 つまり、フロイドがルートからの手紙を受け取り、発送するまでには時間差が合った筈だ。加えてココは山の奥で、王都へ着く日数もある。

 『今は仕事が片付いているから近いうちに来い』とフロイドは返事をくれたが、それも大分経ってしまっていた。また、グラベルに手紙を出す様になってからリアは認識したことがある。

 この世界の暦の数え方だ。

 詳細はまだ解っていないが、リアの前世の『一ヶ月』と、この世界の『一ヶ月』は異なっていたらしく、この世界の日数の方が少ない。

 ルートに手紙送って貰う際、リアははっきりと「一ヶ月位で向かう」と告げ、その様に書いて欲しいと伝えてしまっていた。

 ルートやテオスは、リアが発つ日数を訝しげて気にしていたのだが、今になってその理由もはっきりと理解する。

 案の定、町の人たちの話では、十日以上前に大きな依頼があり、材料調達で既に彼らは居ないのはないか、とのことであった。

 いつ戻るかまでは聞かされていないので、町の人たちにもそれは分からない。

 リアの手持ちの資金にはまだ余裕があるが、滞在日数が不明のこの状況では、流石に心許なかった。一度、王都に戻るべきかとも考えるが、再び向かうことになればまた日数がかかってしまう。


 少し悩んだリアはグラベルに追加の手紙を出すことにした。預けているお金を一部送ってもらおうと思ったのだ。

 あんなに息巻いて話をし、お金を預けておいて、数日で返金を申し出るとは羞恥の極みである。

 町に到着して直ぐに出した手紙は、女主人の粋な計らいにより既に旅立った後であった。これからの手紙は明日以降になると言われたリアは、少し席を外した女主人に変わって、窓口に立っていた男性従業員に手紙を預ける。配送料金は別途かかってしまったが、これで一先ず保険は確保できた。

 だが、リアはそれで安堵はしない。


 町の人々が噂する程のお人好しならば、アイが訪問者(リア)を無視して旅立つだろうかという疑問がリアにはあった。もし自分ならば、町の人に伝言くらいしそうである。

 勿論、リアはフロイドの訪問者だ。フロイドが冷たい性格なら、彼女を見棄てるかもしれないが、彼はアイを育てた父親であるし、態々返事の手紙を送ってくれる様な人物像とは相容れない。

 リアは、彼らが何かしら伝言を残してくれている可能性を示唆することにする。町の人たちに預けていないのならば、残された場所は彼らの自宅だけだ。

 無駄足である確率は高いが、ただこの町で待っているよりは何倍もリアには気楽なことであった。

 町の人たちには当然反対されたが、無理そうなら直ぐに引き返すと説き伏せ、翌日発つことを許された。


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