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日本国の××県××市出身の×× ×××ではない

「勉強不足ですみません。この国の名前は、その……」


「ん? そうか、王都の名前が有名なため、知らぬ者も多い。村の連中なら尚更、自分の村の名前も知らないというからな…」


 その通りです。とリアは心の中で頷く。

 自分と他者を分けるために、我々は名前を付ける。

 そう、付けるのが先か、付けられるのが先か。

 多くの場合、付けられる経験が先だろうが、自覚するのは大分後だ。

 我々は他者を認識することで自分を知ることができる。

 

 認識することと、知ることは異なっている動作だ。

 リアは村に居た時から、王都オライオンを知っており、自分の村とは『異なっている』と認識していた。

 しかし、自分の村を知ったのは、村を出た(ヽヽヽヽ)からだ。

 内側からの動きと外から見る動きが違って見えるように、主観と客観において必要、不要を無意識に分けるのだ。

 今まで内側に居たリアにとって、王都オライオン()は認識するべきモノであったが、自分の村と国は別であった。

 これは『クモ』だって同じだ。

 他人にただの虫(益虫)とされれば、脅威にならないように…――この世界に関しては化物化のおかげで、皆と気持ちが似ている所は本当に救いだ。

 

 ここまで思考して、リアはやはり『某息子』を知りたいのだと、自覚する。


「この国の名前は『アダマス』だ。外に出ることがあったら、戻る時に必要な情報だからな、覚えておいてくれ」


「ありがとうございます。わかりました。私は、アダマス王国のベレム村出身のリア・リオネ――ですね」


「? あ、ああ。そうなるな…」


 リアが突然自己紹介を始めたので、ルートは戸惑いながらも応えてくれる。

 だが、これはリアにとって大事な儀式であった。

 『私』はもう日本国の××県××市出身の×× ×××ではない。

 『私』――私はアダマス王国のベレム村出身のリア・リオネ。――リアだ。


 その後も某息子の話が続くが、彼の名前はルートも知らなかった。

 彼の作品が市場に出回っているのだから、名前を知らないのは奇妙なことであったが、出来が良いモノは名義を養父フロイドと共に営む工房の名前にし、余り良くないモノは『名無し』で登録しているらしい。

 それでも数ある『名無し』作品の中で、某息子の作品はかなり良質の様で、価値が分かる人間に買い占められてしまうのが現状だ。


「市場価格に影響が出るので、本当は確りと名前を刻んで欲しいのだが、『未熟者なので』と返され、フロイドにも頷かれたら何も言えぬ……」


「そう…ですか」


 もしかしたら、デイジーが言っていた『名無し』の弓は某息子の作品だったのかもしれない。

 しかし、事実だとすれば、某息子は大分多才だ。

 芸術矮星に勤めて分かったことだが、ドワーフにも得意、不得意は勿論有り、彼らは役割分担して業務を進めていた。

 だからこそ、限りある火床の取り合い、奪い合いになってしまう。

 現在ハリィの機嫌が始終良い理由も、リアという彼専属の火床が手に入ったからに他ならない。その様なハリィも、火床を使わない加工は不得意とする。他人に火光獣の毛の服を用意させたのが良い例だ。

 某息子の作品は、リアが把握している中でも弦楽器とガラス製品だ――その上、武器まで作れるとしたら?

 某息子は『未熟者』であると、彼自身とその養父は告げていたとルートは言っていた。

 しかし、ならば養父であるフロイドの腕は最早、神の域ではないだろうか。

 

 ――その様な人物でもテウルギアの再現には至っていない。

 恐ろしいことだとリアは思った。


 明らかに落胆している姿の彼女に、ルートは苦笑しながらも、朗報だと告げて紙を取り出した。


「フロイドから返事があってな、今は丁度仕事が片付いているので、来たいなら近いうちに来いとのことだった」


「本当ですか!」


 確かに朗報だ。

 正直、断られるのでは無いかと思っていたので、幸いである。無論、断られてもリアは強行するつもりでは居たが…。


「とても嬉しいです。ですが、その…テオス王子には…これ以上…」


 リアが言わんとすることがわかり、ルートが面目無さそうに俯く。


「そうだったな、そちらに関しては謝らなくてならなかった。すまない」


 彼が頭を下げたので、リアが慌てて言葉を続けた。


「いえ、何があったのかは大体想像が付きますし、王族や兵士に詰め寄られたら、私も応えたとは思いますから…」


「心配していることは分かっている――天界の盗火の件であろう…それだけでは絶対に知られてはならない」


 ルートは真剣な顔で、声質を下げて呟く。彼の深い反省と決意が見て取れたリアは、彼の言葉に頷いた。

 しかし、本当に厄介なものだ。

 ルートが某息子を『変わっている』と表現しているのも、もしかした『神』の子孫や、『能力者』の類かもしれないと、リアは認識を改める。


 彼も同じだった場合――果たして秘匿し続けられるだろうか。

 リアは今一度自分に問う。


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