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星空

 目的の品を全て購入し終え、店を出た所、辺りは大分暗くなっていた。

 予定よりも長く付き合わせてしまい、デイジーに申し訳ないと思ったリアが慌てて解散にしようとしたところ、逆にデイジーから「もう少し付き合って欲しい」と言われてしまう。

 これが前世で有れば、灯が多い世界であっため、喜んで夜を散歩しようと思うところだが、この世界には街灯は殆ど無い。ランタンも勿論持っていないため、デイジーの安全を考えるとリアは容認できなかった。


「リアさんに…是非見てもらいたい景色があって…」


 またも勘違いされそうなことをデイジーが告げるが、その顔はとても真剣で断り辛い。

 幸いにもリアは炎で辺りを灯せる上に、武器も持っている。デイジーもそのことを知っているからこそ言い出した節を感じ取っていた。

 リアは早々に説得を諦めると「分かりました」と笑顔で告げ、デイジーのしたいことに付き合うことにする。


 デイジーに案内されて付いてきた場所は、街から少し離れた王都の外壁近くの平野であった。草と木々が少し生えているが、殆ど土しかなく、外壁を除けば人工物はない。

 ここに辿り着くまでに日はすっかり暮れてしまい、空は漆黒の闇に染まっていた。

 否、それは正しくはない。


「うわあ…」


 夜空を見上げ、リアは思わず感嘆の声を上げる。

 満天の星であった。

 『私』がこの世界を認識し、初めて見上げた夜空だ。


「ココが王都で一番、星が綺麗に見えるんです」


 デイジーも見上げて、満足そうに呟いている。

 リアが知る前世の夜空よりも光害がない分か、星の数が圧倒的に多かった。

 天の川銀河に似ている様な恒星の集まりも確認できたが、その傍に点々とある二等級以上の星の配置は、リアの知っているモノとはやはり異なっている。

 知っている星座に似ている並びもありそうだが、そもそも、星が多く見え過ぎるため、三等級以下の星々は見事に景色に埋まってしまっており、リアには点と点を線で繋ぐことは困難であった。

 ただし、一際目立つ星の並びを発見できた。

 四つの明るい恒星が四角、もしくはカタカナの『ナ』と読め、前世でいう『みなみじゅうじ座』を思い出させる。

 しかし、この空は北――北天であった。

 恐らく天の北極の一部または、天の北極を指すことができる星だと思われる。

 この世界にも北半球と南半球は勿論存在しており、リアが立っていた大地は北半球であることは、(太陽)の動きと磁石などで把握している。

 勿論、この世界が前世の世界の定義に適用できるという前提で、今は考えていた。

 正確には、この世界と前世の地球は宇宙も含めほぼ等しいモノと捉えている。

 捉えるしか無い。

 実は、全てアベコベであり、リアは南半球に居る可能性も否定できなくなっていた。

 

 図書館で漁った資料の中で、それらを定義付けするモノや研究されている書物は皆無だった。

 リアが気にしていた星座も、前世では国際天文学連合が八十八の星座を決めていたが、この世界では決められているものは存在し無いということしか分かっていない。

 例えば、八十八星座の『おおぐま座』の一部を日本では『北斗七星』と呼び、古代エジプトでは『メスケティウ』と呼んだように、地域と人種と時代によって星の並びは呼ばれ方が異なる。この世界では未だ星座はその様な存在なのだ。

 リアが静かにしているのをデイジーは勘違いしたのか、星について解説し始めた。

 彼女から星座――というよりもアステリズムだろう――を教えて貰ったが、当然結ぶことはできなかった。

 ただ、彼女が教えてくれた星の並びの名前は主に神造種と世界種の生物であったのは収穫だろう。

 そしてリアが気にしていた北天の十字の星を、彼女は『オルエの弓矢』と呼んでいた。オルエについてはデイジーも何かは分からないという。

 暫く星々だけを眺めていたリアであったが、満天全体を見渡したところで、この世界()にも衛星があったということを初めて認識した。

 衛星は若干ではあったが、前世の月よりも小さく見え、表面の模様は現在、三日月の形となっているのもありよく分からない。

 そして少し離れた場所に白く、長い線が見えた。

 線を辿ると地上から天を通過し、反対側の地上へと繋がっており、まるで長い飛行機雲や白い虹が伸びている様であった。位置としては地球で言うところの黄道帯に近い。

 そこまで考え、この線はこの星を一周しているのではないかとリアは思った。

 これは雲でも、恒星でもない。

 土星などに存在する環ではないだろうか。

 勿論、土星等の地上から夜空を見上げたことは無いので、仮に見ていたとしたら、こう見えるだろうという想像でしか無い。

 リアはそこで漸く――今まで日常の空もまともに見上げていなかったのだと気が付く。

 天気は気にしていた。空も見ていたつもりだった。

 だが、ここまで明確に見えているのならば――日常生活で気がついたはずなのだ。


 自分が立っている星には、大きな衛星が一つ、そして小惑星、もしくは塵や粒子で形成されている環が存在している。

 『私』は漸く、この世界()を落ち着いて見ることができるようになったのだ。




「今日は色々ありがとうございました」


「そ、そんな…私こそ…ありがとうございました」


 片手で炎を発生し暗い帰路を歩く中、リアがデイジーにお礼を言うと、デイジーが首を振りながら顔を真っ赤にして応える。

 隣を共に歩いていたのが、自分で申し訳ないと思った『私』であったが、それはリアにも失礼だなと、認識を改める。今度はもう少し可愛い格好を心掛けようと心に誓う。


「そう言えば、リアさんは、本当に火の術式が得意なんですね」


 炎の明かりは半径五メートルを有に超えていた。

 道の奥で影が動いたからと、リアが何回か炎を空に打ち上げ、花開かせることもあったため、デイジーの言葉は最もであった。

 因みに影の正体の殆どは王都に住み着いている小動物であった。稀に少し大きい虫も見かけたが、クモでは無いのと、デイジーが怯えないため攻撃はしていない。


「これでも、つい最近までは全く使えなかったんですけどね…」


「ええ…? 信じられないです…何か切欠が?」


「護るため」


 デイジーの問いかけにリアは自然と答えていた。


「…勿論、デイジーさんも含まれていますよ? だから、ご自宅の近くまで送っていきますね」

 

 その言葉にデイジーは目が罅ぜらんばかりに見開く。


「そ、そんな、リアさんだって危ないですから…」


「多分、迎えが来ると思いますから心配無用です」


 何もむやみやたらに花火を打ち上げていたわけではない。あれだけ狼煙の如く上げていれば、少なくともシーナは気づくだろうと思っていた。

 化物に対しては強く出られるリアも、流石に人間相手には無理だ。

 野盗や不審者に襲われた場合、炎で追い払うことは出来るかも知れないが、それには限界があるだろう。

 リアには人間は殺せない。

 そして過去にリヒトが気にしていた通り、リアは『女』なのだ。


 幸いなことにデイジーは王都に住んでおり、リアの宿屋とも近かった。

 彼女と別れるとすぐに、リアの前にネコの姿のシーナが迎えに現れ、共に宿屋へ無事に帰っていく。

 シーナの黄金色の毛に何やら赤黒いモノが付いていたように見えたが、恐らく気のせいだろう。


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