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ドワーフの工房3

 今回の仕事は実に楽である。

 リアの率直な感想だ。


 与えられた火光獣の服は全く熱を通さず、だからと言って体の熱が籠るわけでもない、とても快適な服である。白い布地が熱を浴びた途端、赤く変色したことはリアを吃驚させたが、それは火光獣の特性らしい。

 火光獣という生物にリアは全く覚えが無かったが、かつて『シン』と呼ばれていた地域に生息する世界種とのことであった。

 顔の防護具も全く熱を通さず、宝石だと言われたレンズは遮光効果も有り、前回と違い、目も全く痛くなかった。


 術式――となっている――火であるから、宝石を利用した火床と異なり、適度の休憩が挟まれる。

 休憩の間は、同じく休憩が被ったドワーフたちが話しかけてくれた。菓子や茶も勧められたため、リアは逆に恐縮してしまう。彼らの様子も含め、組合から指導があったのでは無いかと推測されたが、どうやらハリィに釘を刺されたらしい。


「あいつが一番嬢ちゃんにひでえことしたのになー」


「っばかっ! しっ!」


 わざとらしく嘆く声に、制する声が続く。

 皆、一斉に辺りを見渡すが、ハリィは外に出ていて居なかった。一同、溜め息を同時に吐いたのが可笑しく、笑い声が響く。

 リアはハリィが居ないことを幸いにと、彼に答えて貰えなかった『えらきす』のことを皆に尋ねてみた。『柘榴石』のことを一部のドワーフでは『エラキス』と呼ぶらしい。

 大勢が思い思いに語り始めたため、諸説あることが分かったが、結論から言うと、赤い柘榴石は炎の象徴的な意味合いが強く、多くのドワーフが好きな鉱物(宝石)なのだという。

 前世でも日本では、黒くて美しい髪色を『烏の濡れ羽色』と表現していたので、火を宝だと好み、その火を生み出し続けるリアへの表現で『柘榴石(エラキス)』と言ったのだろうと推測できた。

 リアが納得してお礼を告げたのと同時にハリィが戻ってきたため、一同はそそくさ離れていく。


「なんでえ、あいつら…」


「お帰りなさい、ハリィさん」


 良からぬ噂をしていたのではと、ハリィが怪訝な顔をするが、リアの声を聞いてその気分は晴れたらしい。


「おう」


「私は充分休めましたけど、ハリィさんはもう少し休みますか? その間、温める坩堝があればやっておきますが」


「あ、まだ大丈夫だ」


 リアが席を立ったところ、ハリィがそれを制する。リアがその言葉に腰を下ろすと、話があると告げられた。


「お前さん、フロイドに会いに行くんだってな」


「…え? どこでそれを?」


「軍へ武器の納品に行った時に小耳に挟んだんだ」


 ルートにしか話していなかったが、テオスは既にリアが王都を発つことを知っていた。

 そこから軍へ情報が漏れているとしたら、この国の情報セキュリティが気掛かりである。小娘一人の情報も護れないようなら、国を揺るがす情報を他国等へ漏洩しかねない。


「お前さん、テオス王子のお気に入りなんだろ。居なくなることもそうだが、弓の訓練も最近行って無いって? 元気無いらしくてな…軍の奴ら心配してて色々お節介やいちまってるらしい。こっちのことも根掘り葉掘り訊かれたよ」


 うわあ、と心の中でリアは嘆いた。

 弓の訓練に関しては、グラベルに火傷を見られた後彼から止められていた。グラベル経由により「暫く仕事を優先する」と告げていたため、リアは直接テオスには会ってはいない。

 ルートに関しても、軍の兵士に尋問されたら、確かに自白す(ゲロ)るだろう。これは近い内に城へ向かった方が良いのかもしれないとリアは思った。


「…フロイドは良い腕の職人だ。何を求めに行くのか知らねえが、化物が多い森に住んでるらしいから気を付けろよ」


「一応、そのために弓を習ってますので」


 ハリィの忠告にリアが答えると、「そうだった」と彼は手に持っていた紙切れを渡す。何やら店のリストの様であった。


「これは?」


「弓矢一式が売っている店の一覧だ。本当はココで造ったのをやっても良いんだが、女子供には扱いが難しいだろうからな…輸入品もある店も増えたし、参考にしてくれ」


「あ、ありがとうございます」


「なんつーか……王子に贈られる前に自分の身体に合うもの買っちまえよ…」


 今までのテオスの言動を思い返したリアは、ハリィの忠告に納得し、激しく頷いた。



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