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世界種とは

「シーナ、世界種のこと、聞いても良い?」


 グラベルが去った後、リアがシーナに質問をする。外に出てネコに戻ろうとしていたシーナは、その言葉に頷くとリアの正面に座った。


「事典やリヒトの話では、『世界種』は世界に元々いた…世界が作成した生物で、どれも言語を持ち、法式や術式といった力を使うことができて、智慧が高い――と」


 シーナは植物が世界種であると言った。

 そしてリヒトの話では、虫も言語を失った存在として追加されている。

 つまり、植物も言語を失った存在だと言うのだろうか。

 仮にそうだとしても法式や術式を使い、且つ智慧が高いとは捉え辛い。

 もし事実なら、植物は歩くことを選択しそうであるし、走光性の虫は火に飛び込まないだろう。

 リヒトの発言の矛盾に漸くリアは気がついたが、そう言えばあの時は多くのことを知りすぎて彼女は撃沈したのだ。


「ヒトが定義したことですので、私も何とも言えませんが… 例えば、リア、私は世界種でしょうか。神造種でしょうか」


 神造種であるとリアは思っていた。

 神造種であったヒトが世界の概念の智慧の樹の実を食べて生き残ったとされているからだ。


「え、と… 神造種?」


「はい、ヒトが定義した内容だとそれが正しいです。ですが、そもそも、世界種と神造種の違いは何か――私にはあまり違いはないと思っています。しかし、植物と虫は確かに異なっているのです」


 シーナが言わんとしていることは何となく理解できる。

 確かに、前世でいう生物の分類からみれば、世界種と神造種に違いは無いとリアも思う。

 そして植物と虫は異なっている。

 もしかしたら、シーナと同じくこの世界の人々も、この違いが明確にできず、定義に矛盾が生じているのかもしれない。

 だが、植物と虫が世界種という発想はリアには余り理解ができなかった。


「シーナ、確かに植物と虫は異なっている存在だと私も思う。けど、その理由は何? 姿形?」


「植物と虫には器室がありません」


「ん?! 器室って人間にだけあるんじゃないの??」


 シーナの口から思ってもいない単語が出てきたため、リアは驚嘆する。

 事典に於いて器室とは『人間の構造の一つ。生命体が気を自身に溜めておく為の器的なモノ。器室と星は繋がっており、星の消滅はすなわち、星の全生物の死である。原則、数は一個体に一つ。気を内包する容量が決まっており、増える事はない。ただし、容量には個体差がある。容量が多ければ、それだけ気を扱える』とあった。

 人間――つまり、ヒトと異人にしか存在しないモノだと思うに決まっている。


「いいえ、人間だけではありません。先程言ったとおり、植物と虫以外は全ての生物が持っているのです。そうでなければ生きては――存在はできません。事典にも『全生物の死』と書かれていたではないですか」


「まって、それが本当なら、器室が無い植物と虫は存在できないよね?」


 矛盾している。

 矛盾を無くすために定義付けしたことでさらなる矛盾が生じる、未解決問題のようだ。

 だが、リアにとってこの世界はまさに『未だ証明が得られていない命題』の塊だ。そのため苦労している。


「虫は定かではありませんが、植物は星から直接気を利用することが赦された生物なのです。しかし、代償として根付けば移動不可能であること、種によっては光の存在る場所で『光合成』と呼ばれる活動をしなくてはなりません」


 まさか『光合成』という単語を聞くことになるとは――しかし、光合成とは本来、栄養(でんぷん)を得るために行う植物自身の生化学反応の筈だ。今の話では、酸素を生み出すことを強要されている様に聞こえる。二酸化炭素を吸収し酸素を吐き出すのは結果であって、植物の義務ではない。

 ――そうか、この世界では逆なのか――

 リアが押し黙っていると、シーナは言葉を続けた。


「そして、当然、我々は植物の栄養を――気を、糧として得ることになります。星から直接摂取しているのと同じです。恩恵は計り知れないでしょう。私がこれらを認識できるのは、獣人だからです」


 智慧の樹の実は世界の概念で『土』を司っていたためであると、シーナは補足する。

 彼女が植物を世界種と言った事実も理解した。

 シーナには世界の悲鳴が聞こえるのと同じ様に、植物たちの『言語』は聞こえおり、その智慧も理解できているのだ。我々とは定義が異なるから、理解できないだけだ。

 それを突き詰めていけば、『動物』だって同じだ。ヒトと同じ言葉が話せないだけで、彼らは独自の言語を持っている。

 シーナだからこそ、獣人だからこその解釈の違いをリアは痛感した。

 同時に、この世界を理解するのが俄然困難になったことに頭を抱える。

 理解しようとしない方が良いのかもしれない――知らないことは悪いことであると捉えられていた前世の考えを棄てる方が楽だ。


「ありがとうシーナ…正直ほとんど理解できていないけど…認識の違いはよく分かったから」


 しかし、シーナの告白は別の意味で辛かった。

 リアは無残な姿になってしまったアロエを眺めると、その鉢に手を当てながら「ごめんね」と呟いた。


 シーナの話を聞いていて気がついたことは、彼女は世界に拘わるモノを、世界種と総じているようであることだった。

 そういう意味では獣人は勿論、ヒトも『智慧の樹』を参考に造られ、『初めのヒト』は『智慧の樹の実』食べているとされている。拘わりがあると言えるし、事実、異人との交配も可能だ。


 世界に原初から存在していた生物が世界種、後から誕生したのが神造種。


 リヒトもそれらしいことを言っていたが、こちらが一番定義付けに良いのかもしれない。

 その見分けをするために、ヒトは自分たちにしか理解・認識出来ないもので分類したのだ。

 そして矛盾だらけ。

 だがそれも、本来旧世界で決めるべきことだった筈だ。

 現世界と呼ばれる今では何もかもが遅い上に、誰も気にしてはいないし、知ろうともしない。

 勿論、リアもその解決に貢献する気は皆無であった。

 リアには他に行うべきことがある。


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