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ドワーフの工房

 手続きをし、仕事を斡旋してくれた女性は『デイジー』という名前であることを、リアは職場になったドワーフの工房で知った。

 美人で優しく、明るい女性として、組合では有名なヒトらしい。

 老若男女、それこそ種族問わず接することができるヒトはまだまだ希少なのだという。

 リアは彼女の言動を思い出しながら、激しく納得した。

 残念ながらリアはデイジーの様にはなれそうにない。前世は一民族の国出身で、外国語は話せず、外国人との交流もなく、外国に観光ですら行ったことは無かった。

 この世界で記憶を取り戻してからも、自分も含めて前世でいう『外国人の風貌』には余り慣れていない。言語に不自由が無いから接していられると言っても良い。

 だが、言葉が通じるからこそ、リアの中ではヒトも異人(ドワーフ)も獣人も皆等しいのは幸いだ。


 ドワーフの工房の正式名称は『芸術矮星』。

「依頼があれば小さい星だって造り、造り上げる作品は全て一級芸術品」という願いが込められている、と豪語されたが、リアには引っ掛かっている単語であった。


(『矮星』といえば確か、前世では外国語で――)


 そう言えば、天文の資料はまだ漁っていなかったことをリアは思い出す。

 同時に調べたことも頭の中で暗唱した。


***


どわーふ【ドワーフ】

 世界種であり、異人。人間の中では小柄であり、最長でもヒト族の成人男性の三分の二程度。混血の場合はそれに限らない。

 男女比だと圧倒的に男性が多いため、そのことがより混血の誕生や種の存続にかかわった。ただし寿命は異人の中ではエルフに続いて長いとされる。

 総じて腕力等筋力はあるが、手先が器用なモノが多い。

 基本、地中などの穴蔵生活を好み、土と火は彼らの宝である。

 法式も得意とされるが、専ら鍛冶・石工・鉱夫等の匠が作業に利用している。依頼とそれに見合う報酬があればその地へ赴き、仕事を行うこともある。

 家族、血族、時には知人同士で暮らして商いする等、集団行動を好むがこともあるが、単独で生きるものも少なくは無い。異人やヒト、獣人への偏見は少ないとされる。――(以下省略)


***


 リアの中で、ドワーフといって真っ先に浮かぶのは、『白雪姫』に出てきた七人の小人だ。

 彼らは毒林檎を食べて死んでしまった白雪姫のために、棺をガラス(ヽヽヽ)で作成していた。

 図書館や城で彼らが造り上げたガラスの窓を見ては、その小人たちが浮かび、だからこそ齟齬が無かった。


 テウルギアについても調べたが、ルートに教えられた情報と代わり映えせず、新規の情報は得られなかった。

 出来れば『遺物』の所在を知りたく、旧世界に近いとされる資料を確認したが、掲載されているモノは発見できていない。貴重なモノであると推測していたのだが、誰も博物館等で保管しようと思わなかったのだろうか。リアは甚だ疑問であった。

 失われる、という危機感が無かったとしか思えない。『断捨離』でもしたのだろうか。前世で流行した時にはあからさまに嫌悪していた自分が懐かしい。

 


「えーっとリアだったか。早速、『火床』になってもらいたいんだが」


 工房の男性ドワーフが一人、リアに話しかけてくる。

 リアは返事をすると彼のもとへ向かった。

 名前は『ハリィ』。工房で働くドワーフの中では小柄な方であったが、その唇の厚さと装着しているグローブの厚みが気になっていた。

 殆どのドワーフは初老の姿であり、彼も例外では無いが、身に付けていた装飾具がその印象を和らげている。

 鮮やかな色のガラス細工だ。

 リアがドワーフといえば真っ先に浮かび、繋がるガラス。

 ハリィはガラス工芸専門の職人であった。

 

 王都に化物が立て続けに、しかも大量に襲撃した関係で、国家の武具は大分喪失してしまった。

 工房の火床は全てそれら武具の作製や修理のために塞がり、稼働しているのだという。

 おかげで通常の依頼のうち、特に装飾品や日用品は後回しにされていた。

 リアが入ってきたことで、漸く取り組めると歓喜するモノもいたが、ハリィは異なっている。

 

 過去に火床で来た人々は散々だったらしい。

 火力が足りない、保てない、時間が短い、火傷を恐れる…挙げるとキリがない。

 ヒトの男性はすぐ根をあげ一日で退職。長く続いたのも同じ異人であるエルフの血を嗣いだ獣人で、計十四日であった。因みに獣人で法式や術式が使えるのは希少である。

 異人に至っては割が合わないと感じており、最初はあれど今は全く姿を見せてはいなかった。

 同じドワーフだった場合は、作製班に回されてしまうので尚更である。


 リアはヒトの女性だ。

 しかも初めから短期希望で入ってきている。

 平民であるからか、工房に入る身形に相応しい格好をしてきただけでもマシかもしれないが、この現場を甘く見ているのだろうと、ハリィは感じていた。

 だからこそ、通常は抑える苛立ちが滲み出てしまう。


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