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この世界の弓

「この様な瞳になったことで、家臣の一部は僕が王に相応しいと過激になっていて困惑しているが…」


 普段は余り好んでいない自分の瞳に、テオスは思わず心境を漏らすが、それは彼も柔和になってきているのだろう。しかし、リアには『なった』というテオスの言葉が引っかかった。


「……なった? テオス様の瞳の色は後天性なのですか」


 確かに、事故等により瞳を傷つけたことで変色した例はある。

 焦点が合わなくなったというテオスの言葉から察するに、過去に何か傷つけることがあったのだろうか。


「昔、王都に侵入した化物を退治した時に…」


「傷つけられて?」


「? 否、術式が発現したのが切っ掛けだ」


 リアが前世の記憶を取り戻したのも『化物』と対峙した時であった。『化物』は良くも悪くも我々に影響を能える存在なのだろう。

 

 ――しかし、何処かで似た様な話を聞いた気がすると、リアは思った。


「では、今の射法を真似して見せてくれ」


 テオスの発言で瞳の話は終了する。


 リアはテオスの――正確には前世の動きを思い出しながら動作した。

 その様子にテオスもリアが『全くの初めて』では無いと気がついたようであったが、そのことには追求せず、「問題無さそうだな」と告げると弓を一丁渡してくれる。

 弦を引けるか確かめるためだろう。

 テオスが用意した弓は三丁あったが、リアはその内一番小さいモノを使うことになった。

 前世で使用したモノよりも大分小振りに感じたが、そう言えばリアはまだ十四歳である。

 前世で終えた年齢とは二倍近く離れているのだから、当然かと納得した。

 だが、リアの様子にテオスは勘違いしたのか、「それはエルフ製だ」と教えてくれる。

 ドワーフが作るものは、丈夫だが大きく重いため、軍や男性が愛用するらしい。殺傷能力は低くなっても命中率を上げたい場合は、エルフ製が適しているらしく、術式の補佐として弓を習得したいと告げていたリアのために用意したとのことであった。

 

 リアは弓を引いてみたが、特に問題は無さそうであった。

 テオスは一通り動作を見た後、当初の予定とは異なり、続けて矢を放つことも提案してくれたが、彼女はそれを断る。

 できれば基礎を確り身に付けたいのと、矢を放つようになったら没頭して時間を忘れてしまうからだ。

 ならば、と彼は手本で的を射るのでその様子を見るように指示をした。リアに合わせて彼にとっての逆手で行ってくれる。

 菱形の的の距離は目算で三十メートル程か。彼はまずその菱形の中央に見事当てた後、続けて二射目、三射目と放つ。その矢は菱形の内角に順に当てられていった。

 用意されていた五本全て射ち終わると、テオスが弓を置いてリアの反応を伺う。リアは拍手をしながら興奮気味で応えた。


「流石です。逆手なのに全く違和を感じません」


「そ、そこか」


「…無知ですみません。的を射るのに何か規則、法則があるのでしょうか?」


 少し落胆した様子のテオスに、リアが不安を感じて確認すると、彼は納得したのか「否、僕が悪い」と応える。


 洋弓は的の円に沿った点数に射ち、合計点数が高いと評価されるのだ。 

 和弓は的に当てること自体が難しいためその所作も重要視されている。

 この世界の弓は洋弓に似ているが、その的は余り似ていない。どの様に射つと評価されるのか、リアには全く予想ができてはいなかった。

 だが、テオスは矢を全て的に当てた。

 動作も美しい。

 この二点を逆手で行ったのだから、リアの中では本当に素晴らしいことだと思った。


「初めに中央に射ち、次に上下左右と順に内角を射つ。四角に関しては頂点に近い程、そして矢を全て射つ速度が速い程、評価されるんだ」


「でしたら、テオス様は完璧ですね」


「……あ、ああ」


 リアは心底驚嘆し、再度応えたが、何故だろうか、テオスの反応が微妙である。

 日頃、過激な臣下や、貴族の御令嬢に騒がれている所為かもしれない。私の対応では足りないのだろうか、とリアは思い悩む。

 しかし、『私』は他人に評価されることがなく、他人に対しても厳しい存在であった。その点は前世よりは改善されていると思っていたのだが、まだまだなのかもしれない。


「…テオス様、不快な気持ちにさせてしまったのでしたら、すみません」


 リアが頭を下げると、テオスが慌てて釈明する。


「違うんだ。自惚れていたのは僕だ。そして君の気持ちにも気が付かず、本当にすまない。普通に接して欲しいと願い出ておいて、結局、強要していた…」


 弓を机に戻すと、テオスは笑顔を向け、次には跪いて謝罪する。

 宴会のダンスの時といい、この王子はなぜ平民に対し、こうも下手なのか。リアは困惑するが、これも『天界の盗火』の所為なのかもしれない。


「あの…少し休憩にしませんか?」


 更にこちらが謝罪をするのは悪循環だ。そう考え、リアは話題変換を試みる。

 意外なことにテオスは直ぐに立ち上がると、リアの前に手を差し出してきた。

 彼女は首を傾げるが素直にその手を重ねると、そのまま弓場から離れた場所へ導かれていく。少し歩くと机と椅子が並ぶ空間へ辿り着いた。

 周りは美しい花々で囲まれているため、恐らく茶会で使用する会場なのだろう。現にテオスの使いの者が色々用意して待っていた。

 準備が良すぎるため、思わずリアは苦笑する。まるで彼の手の内で踊らされている様だ。


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