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事実と真実と

「実は、来てもらった理由は『エメム』のことでな…。リヒトの現状に加え、『某息子』も関係なくはないのだ。だからこそ人払いも兼ねて私の陣地に呼んだのだ」


 ルートは話を一度切ると、近くにあった椅子を指し、座るように促す。リアが素直に応じると、合わせて彼も椅子に座った。


「まず、リヒトのことだ。彼は、自らの意思で鎖に繋がれ、眠っている。私が見る限りでは安定しているよ。取れてしまった腕も元通りだ。だがエメムは確実に彼の中で巣食っている」


「…私は『テウルギア』が何か知りたいのです」


「そうだろうと思っていた。智慧の樹が不明の今、侵食を抑えられるのはテウルギア位だろう」


 絶望せずに真っ直ぐ先を向いているリアの瞳に、ルートは「やれやれ」と一息付いて話を続ける。


「『テウルギア』とはドワーフが作製した装飾具だ。法式ではなく旧世界でいう術式が刻まれていたとされる。質の良いものは『ゴエーテイア』と呼ばれていた」


 ルートの言い方にリアは当然引っかかった。そしてそれは続く言葉で確信となる。


「……旧世界で既に失われた技術でな。当時でも遺物(ヽヽ)を使い回していたらしい」


「なら、その遺物は――」


「まあ、待て。それはドワーフたちの人口が減っていた所為でもあるのだ。現在は増えた彼らの手によって再現がなされている。問題はテウルギアの質にも及んでいないという点なのだよ」


 ゴエーテイアどころかテウルギアにも及ばない装飾具。エメムの侵食を抑えられない可能性が高いと、ルートは言いたいのだろう。


「…それでも無いよりは良いです」


 リアの瞳から光は消えない。ルートはその様子に安堵するが、口は重い。


「ただ一人、まだ他よりも質の良いテウルギアを作製できるドワーフが居る。先程から話題に出ている某息子の養父だ。名は『フロイド』という。彼なら、あるいは……」


「分かりました。その方を訪ねることは可能でしょうか」


「手紙を送っておこう。私の紹介状も用意する。ただし、その者は通常のドワーフたちから離れ、世捨て人状態なのでな…相手にされるかどうか」


「……ここからだと…距離は」


「馬車で一週間はかかるはずだ」


 旅の準備と金銭を確保しなくてはならないとリアは考える。

 手紙が向こうに着いてから返事もあるかもしれないので、最短でも一ヶ月は旅立てそうにはなかった。


「お願いします。私は一ヶ月程準備をしてから向かうつもりだと…」


「わかった」


 リアが頭を下げて席を立とうとしたところ、ルートが「待て」と制す。


「リヒトに会いたくないか?」


「眠っていると…」


「そろそろ薬が切れる頃なのだ。硝子越しで良ければ、だが」


 『硝子越し』…できればリヒトとは直接会って、話をしたい。

 

 少々悩んだところ、リアは意を決し、答えていた。



「ルート様、私は『天界の盗火』の化身なのです」


 その言葉に目を見開いたまま静止するルート。

 時間にして一分程だろうか、余りにも反応が無いため、リアは再び言う。


「私は『世界の概念』の一つなのです。この概念保持者はエメムには感染しません。リヒトと直接会わせていただけますか?」


「まてまてまてまて……」


 二度目の言葉に対し、ルートは慌てて立ち上がり部屋を彷徨き始めた。自身を糸車の様に動かすことで、言葉を紡ぎだそうとしているようである。


「炎でクモを焼き払ったことは聞いている。脅威的な火力であったことも…だが、『天界の盗火』とは…! 冗談が過ぎるぞ」


 証明できることは何かあるだろうかと考え、リアはルートに質問をする。


「ルート様は色鮮やかな炎を見たことはありますか?」


「金属を炎に入れると色が変わるのならば…」


「炎色反応ですね。ではソレを術式の生み出す炎で…例えば『青』などは?」


「無いな…異なる色を生み出すことはない」


「つまり、炎の温度に限界があるということですね…」


 ルートが怪訝な顔をする。リアは言葉を続けながら両掌を祈る時の様に合わせ、そして少しだけ離して空間を作った。

 瞬間、両掌の中で明るい球体が生成される。球体は直径一センチにも満たないが、その明るさは暖炉の火よりも明るいとルートは感じていた。彼が知っているので最も近いのは雷光だろう。


「火は金属だけではなく、その温度でも色が変わるんです。赤、橙、黄、白……そして最終的には…」


 リアが説明していると彼女の掌に収まっている球体が言葉に合わせるように変色し、青色に安定した。


「! まさか…確かにそなたの青い炎を見たという発言はあった。しかし、それはてっきり『クモ』を燃やした影響だとばかり……」


 ルートは己の目が信じられないと何度も目を瞬き、指で擦る。

 しかし、変わらずその球体は存在した。


「信じていただけましたか?」


 リアは球体を消してから、ルートの顔を伺う。

 ルートは「信じるも何も…」と応え、そして続けた。


「何故、私に明かした。事実だとしたら大変なことなのだぞ? 国は勿論、世界が君を捕らえて離すことはない」


「私はルート様を信頼しています」


「買いかぶりすぎだ。会って幾何も経たない、研究に没頭する哀れな変人だぞ」


「……早まりましたかね」


 ルートの言葉にリアは苦笑しつつ答えたが、その表情は穏やかであった。


「――黙っていよう。だが、体調等、不安に思うことがあれば直ぐに告げるのだぞ。『天界の盗火』は短命と伝えられているからな」


「…はい」


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