宴会
このお城の宴会は何に例えたら良いだろうか。
幼い頃に行った誕生日パーティーはそれこそ全く規模が違う。
職場での歓送迎会も無いだろう。
そうだ、結婚式後の披露宴。
幼い頃、数回しか出席したことが無いが、恐らくこれが正しい。前世の記憶を顧みてリアは思う。
過去に参加した披露宴はそれこそ全面壁の室内のみであったが、この会場は昨日行った図書館の様に大きな窓が一面にある。
現在、昼間であるため、日の光が入り込むので、天井には豪華なシャンデリアがいくつもあったが、蝋燭に火は灯されていなかった。
赤い布をかけられたテーブルが、端の方にいくつも等間隔で並んでおり、その上には豪華な料理や菓子が置かれている。
見るからに貴族と分かる装いの老若男女が、話をしながら舌鼓していた。壁際には軍の兵士だろうか、数名、軽装備ではあるが待機している。
王と王子数名が遅れて入場すると、喧騒としていた室内が瞬間静まり返り、皆が一斉に腰をかがめた。
司会進行役の者がその御名を示した後、リアたちも「ベレム村のファンゲン卿の御子息、リヒト・ファンゲン氏と、御友人のリア嬢」と紹介されたが、自分が住んでいた村の名前をリアはここで初めて知った。
リヒトの紹介の仕方に、リアは若干疑問を持つが、爵位を持っているのはソルであり、ファンゲン家自体はまだ貴族では無い。
そのためか、爵位名と家名を合わせた形になったと推測はできるが、異世界であることと、そちらに関しての知識は不確かなため、考えないことにする。
現に、リヒトたちは気にしていない様子であった。…緊張していて聞いていないだけかもしれないが。
しかし、紹介された瞬間、貴族の反応は明らかに動揺めいていたものであった。「なぜただの平民がこの場に? 相応しくないではないか…」「御覧なさいな、平民が無理しちゃって」という陰口が聞こえる音量で聞こえてくる。
その言葉にリアやリヒトよりも、従者として付き添っていたグラベルの顔が曇り、震えているのが見て取れた。「そういえば、グラベルさんの紹介はなかった…」とリアが呟くと、「いや、そこじゃねーよ」とリヒトが突っ込む。
「静粛に!」
突然、大きな声が響くと、貴族たちが静止し辺りが静まり返る。
この素早い対応を見るとさすがに子供ではないのだなと、リアは感心したが、この声は――昨日と合わせれば四度目になる。
「…リヒト氏とリア嬢の説明が足りないようだが」
テオス・クリーブもとい、テオス・ケー・ベテルギウスだ。
入場する時に顔と名前は確認していたが、まさかこの場で発言するとは全く思っていなかったため、リアたちも含め、貴族、兵士、そして他の王子と王も驚嘆している。
テオスの左右色の異なる両眼が、きつく司会進行役を睨みつけると、彼は震え、怯えながらも言葉を続けてくれる。プロだ。
「し、失礼いたしました。リヒト氏とリア嬢のお二人は『暗き森』で化物化していた虫を退治し、先日も王都に襲来した化物化した虫を退治するのに貢献されました。リヒト氏は将来騎士を目指しておられ、その剣の腕は勿論、火の術式を得意とされております。リア嬢は、虫――あ、失礼――虫の中でも『クモ』の知識が高く、先程まで、ルート・ゲリング氏と論じていられたところであります」
虫のところで訂正が入ったのでリアは少し安堵するが、リヒトと違い、己は本当に一般人なので誤解を招く紹介はやめて欲しいと恐縮する。
リヒトも流石に恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして俯いた。得意気な顔をしているのはグラベルと、あとはテオス位である。
「双方、大儀であった。この宴会を楽しんで貰えれば幸いだ」
王が告げると、盛大に拍手が鳴り響く。
歓声を上げ、純粋に拍手をする者も居れば、聞こえない位の陰口を言いつつ、嫌嫌拍手をする者も居る。改めて、とんでもない場所に来てしまったと、リアとリヒトは思った。
「リヒトさん! 俺たち、昨日助けてもらった兵士です!」
紹介が終わり、各々が自分たちの持ち場に戻るとすぐ、リヒトは複数の兵士に囲まれた。
昨日、アリグモを対処するために派遣された兵士たちだ。
しかし、兜を外しているその顔は、想像していたよりもずっと幼かった。もしかしたら歳はあまり変わらないのかもしれない。『化物化で人手も予算も足りていない』と、ルートが言っていた言葉をリアは思い出していた。
「リヒトさんなら絶対に騎士になれます! 俺たち待ってますから!」
キラキラと瞳を輝かせ、リヒトの両手を取る兵士。リヒトの方は、リア以外、歳の近い知り合いが居ないためか、緊張気味で笑っていた。
珍しい光景にリアが微笑みながら見ていたところ、遮るように目前に人が現れる。何事かと思い、視線を合わせると、赤碧の目がリアを見つめていた。
「…テオス様」