表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/103

××にも衣装

 リヒトとの話が終わると、明日もあるので彼は早々に部屋へ戻った。

 シーナは相変わらずリアのベッドで眠っている。

 リアも釣られて眠りそうになるが、忘れていたことを思いだし、彼女は慌てて鞄へと手を伸ばした。


 ボストンバッグ程の大きさがある鞄から、折り畳まれていた服を取り出す。

 明日、身に付ける服だが、このままでは折り目が残ってしまう。本日、色々あったとはいえ、失念していた自分が(にく)い。

 直ぐに宿屋に備え付けられている衣紋掛け(ハンガー)に吊って様子を見る。

 

 ……アイロンが欲しい。


 そうでなくても霧吹きさえあればまだ良かったのだが、生憎どちらも持ち合わせてない。

 何度目だろうか、術式が使えれば――とリアは思う。

 流石に戻ったばかりのリヒトに頼む気にはならないが、明日になっても直らなければ、頼むしかない。

 

 城へ着ていく服はリア自身で用意したものだ。ファンゲン家の御息女たちのお下がりがあるとも言われていたが、それは最終手段にしたいと考えていた。

 リアの家をひっくり返して見たところ、母の遺品の中に正装用の服(ドレス)があった。前世の幼い頃に見た有名なアニメーション映画で、母の遺品の舞踏会のドレスを仕立て直すことで用意した主人公に憧れていた過去もあり、『私』も真似てみたのだ。

 母の服は全体的に白く、橙色のレースと刺繍も控え目に付いている。スカートの中はチュールが何枚か重ねられていたが、通常なら広がる様子も無い。ただ、回転すると花のようになるので、恐らくこの服も舞踏用だったのではないかと察する。現に背中や肩の露出は多めであったので、着込むことを好むリアは既存の綺麗目の服から移植し、薄黄色のショールを羽織る予定だ。

 服と同じく白い靴も無事に捌くことができたので、流用することにした。やはりこの靴も舞踏用だろうか。踵と爪先裏に傷が多く、特に左踵との状態が悪い。これは軸足でターンをするためだと思われる。通常の歩行に支障が無いのと、上から見れば目立たない。

 一度、ソルとイリスに確認して貰い、問題ないとの評価を得た格好であるが、リアに似合っているかは謎だ。前世の『私』には着飾る趣味は無かった。寒がりだったために色合いも気にせず重ね着するのだ。容姿も含めてお洒落には無頓着であったため、リア(ヽヽ)に申し訳ないと思っている。

 兎に角、明日は粗相の無いよう心掛けるだけだ。

 自分だけの問題ではない。

 ファンゲン家――ソルの面目を潰すわけにはいかないからだ。

 ……そういえば、件のアニメーション映画では、完成したドレスは最終的に、継母と義理姉妹によってボロボロに破かれてしまっていたが………まさか、フラグか。と今になってリアは不安に陥った。



――翌朝


 起きて直ぐに衣紋掛けの服をリアは確認した。

 昨晩よりもずっと服の皺や折り目が目立たなくなったことに彼女は安堵し、一息吐くと直ぐに着込む。


 リアは歩いて城へ向かうつもりであったが、リヒトが頑として承知しなかったため、またも彼らと共に馬車に乗った。シーナが紛れ込んでいないか、リアは入念に調べたが、それは無いようである。今頃、宿屋のネズミの殲滅に励んでいるのだろうか。


「とてもお似合いですよ」


 シーナのことで思い耽っていたところ、突然グラベルに声を掛けられたリアは、「へ?」と間抜けな声を上げる。彼の隣に居たリヒトも同意を示すためか、何回か頷いていた。


「あ、ありがとうございます。馬子にも衣装ってヤツですけど…」


 リアは苦笑いをしながら応えるが、彼女の言葉が意外だったのだろう、リヒトとグラベルが首を傾げる。


「まご?」


 あ…、とリアは間の抜けた声を漏らした。ザトウムシの座頭の時と同じく、馬子は日本の職業名称である。この世界に無い職業なのだから、二人に意味が通じないのは当然だ。

 リアは暫く考えた後、「衣装に中身が負けているって意味だよ」と半ば流す形で伝えるが、その言葉にリヒトは怪訝な顔をし、意外なことに反応してきた。


「それは、俺のことじゃないのか?」


「え?」


 言われてリアは、改めてリヒトの身なりを確かめる。

 リヒトもリアと同じく白を基調とした礼装で、所々、赤や黄色の刺繍が施されていた。

 腰に下げている剣はいつもと変わらないが、鞘は少し細工がされており豪華に見える。

 正しく『騎士』を表現したのだろう。ソルの――ファンゲン家の気合を感じた。


「そんなことないよ、騎士みたい」


「まだ、騎士じゃねーから」


「ああ、だから気にしたの?」


 確かにリヒトは『騎士』では無いが、もし、リヒトに恋する乙女がこの場に居たら、「私の騎士様!」という意味合いを込めて、きっと同じことを言っただろう。

 『私』では――力不足だ。


「でも、誰かを本当に救える人は全然居ないんだよ。だから、もっと自信持って良い」


「…それは俺の台詞だ」


 気不味い空気の中、グラベルだけが面白そうに笑顔で座っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ