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疑問と探索と

 図書館だが、閉架だけではなく開架もあり、利用者は資料を容易に閲覧できる状態であった。

 一階の天井は一部、二階まで続く吹き抜けとなっており、一階から二階への移動は壁側にある階段で可能だ。一階は壁一面書架棚が並んでいるため、窓は無い。

 逆に二階には書架棚はなく、閲覧用と思われる机と椅子が並んでいた。光を要するためか天井まで届く程の大きさの窓が多くはめ込まれている。窓というよりもガラス壁の様だ。さすがドワーフ製のことはある。

 懸念していた資料だが、書架棚と鎖等で繋がれてはいなかったのは幸いであった。館内であれば、読みたい資料を自由に持ち運ぶことが出来るからだ。

 図書目録が収められている目録棚も確認できたので、リアは更に安堵する。

 閉架の資料も先程の利用許可証を見せれば、司書が出納してくれる。

 勿論、イリスが言っていた通り、王族の許可が必要な貴重な資料は無理であるが、図書目録に印が付いていたため、誤ることはない。


 早速、ブラウジングしたいところであったが、先程の疑問をリヒトに確認するため、開架に入る前にリアは彼に声をかけた。


「リヒト…聞きたいことがあるんだけど、良い?」


「なんだ?」


「私を証明する必要が無いって言ってたことと、書類を提出する前に司書さんが利用許可証を発行したこと」


 リヒトは「リアは真面目だなぁ」と呟きながら、頭の中で説明する内容を考えているのだろう。少し経ってから話を始めた。


「俺たちの名前は『人格』に刻まれているんだ。その名前を読むことができる能力がある」


「能力? 術式じゃないの?」


「ああ、勿論、法式でもない。旧世界の『神』の話をしただろ? 既に存在していないがその力を受け継いでいるとされているヒトがいるんだ」


 術式や法式よりもすごいことではないのだろうか、とリアは思考が停止する。しかし、リヒトが予め事典に印を付けてくれた項目にその様なモノは無かった筈である。リアが言おうとしたことを察したのか、リヒトが続けて補足する。


「事典には書かれていない。失われた観念で、旧世界においても数が少ない存在だったらしい。あまりにも曖昧で憶測過ぎるし、単語も消滅したため、事典に書きようが無いんだ。この前も言ったが、旧世界と現世界は断ち切られてしまっている。特に『神』というものを奉る人々は存在しない。奉るとしたら『崇拝三英雄』の何れかなんだ」


「つまり、そうではないかと思われる能力者が居る…と」


 リアの言葉にリヒトが頷く。

 しかし、ここまで『神』が不要扱いされているとは…旧世界が亡くなった原因でもあるのではないか、と勘ぐってしまう。


「その様な能力者は基本、申告すれば国が保護し、見合う職を与えてくれる。さっきの受付担当の司書も恐らくそうだ。リアが心配していた通り、現時点で身元を証明する書類は無い――というよりも行き届いていない。だから彼女たちの様な能力者は必須で、公的機関に常駐しているは当前のことなんだ」


 他にも色々能力があるらしいが、把握しきれないのが現状だ。『私は○○ができる』という能力申告も嘘だと見破れる能力者がいるらしく、悪用もできないとされている。その様な超能力じみたことができるヒトは、それこそ術式が使えない時代、今以上に重宝されて保護もされていただろうと推測される。が、その記録も存在しない。


「もしかしたら、能力者の方が、術式を使える人よりも多い…のかな?」


「どうだろうな…むしろ、こちらも能力だと気づいていない可能性が高いかも。『虫の知らせ』とか、経験上からくる『勘』だと思われるだろ。実は能力なのかもしれないし」


 術式が使えない今、自分は『能力』の方を持っていたりしないだろうかと、リアは考えるが、思いつくものは無い。前世は無宗教であったし、既に転生していることが能力なのかもしれない。

 納得と諦めがついたところで、リアは己の利用許可証を確認する。何の変哲もない金属の板に見えるが、表面は自分の名前が彫られ、裏面は馴染み深い国章が彫られていた。これは間違いなく本人確認書類に該当するだろう。

 ―――一生大切にしよう、とリアは心に決めた。


***


 分類法は多少異なっていたが、リアは慣れた様子で開架を見て回る。それに驚いたのはリヒトの方で、彼は慣れないのか何度も同じ箇所を見て回り、迷子にすら成りかけた。

 開架だけでもこの広さと規模なのだ、恐らく閉架はもっと多くの資料が眠っているのだろう。

 術式のことも調べたかったが、やはりこの世界のこともリアは知りたかった。

 『歴史(2類)』を探して数冊見繕うと、次に『科学(4類)』的な資料が無いか探す。

 以前、リヒトと会話をしていた時に『科学』という単語が理解できていなかったため、やはり、分類としては存在していなかったが、『天文』はあった。この世界を『星』と認識しているため、恐らく存在するだろうと予想はしていたが、星座など載っていれば見てみたかったのだ。

 『私』の世界では『星座』は神話を当てはめることが多かった。

 『神』を否定しているこの世界では、一体どのようになっているのか単に興味もある。動物――もしかしたら世界種が中心なのかもしれない。

 粗方、ブラウジングで資料を集めると、次は図書目録を確認した。

 書かれている内容は前世と変わりが無かったが、先程確認した『王族許可必須』印の資料にばかり目が入ってしまう。

 旧世界と現世界のミッシングリンクか――と思った瞬間、リアは『世界』を生物と捉えている自分に気がつく。この世界は――…



「その資料が読みたいのか?」


 またも突然後ろから声を掛けられた。声色からリヒトではないのは明白で、これは…


「テオス様」


「テオスで良い」


「それは無理です」


 身分が高い人だと分かっていたので、敬称をつけたところ、相手には即座に改めるように言われてしまう。なぜこの場にいるのか不思議に思っていると、テオスが真剣な表情でまた訪ねてきた。


「読みたくないのか?」


「…え? いえ、読んではみたいですが」


 王族の許可が無いと閲覧できない資料だ。図書目録にもしっかりと印が付いている。

 先程、リアの小さな利用許可証の文字から名前が読めたというのに、この印が見えないというのだろうか。

 リアが何も言わずに待っていると、「わかった」とテオスは告げてその場を離れて行った。何だったのだろうか、とリアが思考していると、入れ違うようにリヒトが現れる。


「リア? どうしたんだ?」


「うん? うーん、どうしたんだろう…」


 リヒトの問いに、自分のことではなくテオスのことで疑問を返してしまう。

 彼のことは忘れて、図書目録を見直そうかと思っていた矢先、館内に悲鳴が響き渡った。



「外に、街にっ――化物がっ!!」


 瞬間、閑静だった館内が一斉に喧騒へと変わる。

 件の悲鳴を上げたのは女性で、彼女は二階の窓から外の街を見ていた。


 リアとリヒトも慌てて階段を上り、二階の窓から外を眺めると、間違いなく化物化している虫が一匹いた。歩脚を含めた体長は成人男性の三倍程だろうか。


「…アリか?! アリの化物化なんて有り得たのか!?」


 リヒトは思わず狼狽して叫ぶ。当然だ、リアも虫の化物化で一番懸念していたのが『アリ』であった。

 アリといえば社会性昆虫の代表格である。

 女王アリを中心に子どもである多数のアリが群れをなし、地下に巣をつくり、生活する。基本肉食性で、毒を持っているモノも居る。その『軍隊』が全て化物化しているとしたら、以前考えた通り、地盤も含め国が崩壊するレベルだ。

 だが――…


「ちがう…」


 リアはまたも顔面を蒼白させ、その場に座り込む。

 ああ、これは――間違いようがない――


「あれは…クモだよ…リヒト…」


 涙目になりながらリアは応えた。


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