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男か――女か――

「リヒトって、家ではあんな喋り方なんだね」


「最近はな…。リアだって、俺の家族にはいつも丁寧な口調じゃねーか」


 扉を閉めた直後の二人の会話。互いに眉を顰め、心疚しい顔をする。


「他人や年上の人にはそういう言葉遣いするの…癖だから」


「…前世からのか?」


 リヒトの口から『私』自身の話題が出てくるのは、これが初めてのことであったため、リアは思わず眼を見開く。彼女のその様子にリヒトは失言だったと気が付き、顔を伏せて謝った。


「そ、前世から。多分、最期の方はずっとこんなだった。家族以外……」


 リアの発言に次はリヒトが眼を見開く。


(――最期)


 『こいつ』は死んだから、『リア』になったのだ。

 『こいつ』は最期、何歳だったのだろうか。

 『こいつ』はなぜ死んだのか。

 『こいつ』は……幸せだったのだろうか。


「だから、リヒトとこんな感じでお話できるのはとても嬉しい」


 朗らかなリアの声がリヒトの思考を遮断する。彼女の顔を再度確認するととても晴れ晴れしい笑顔であった。


「…楽、の間違いだろ?」


 戸惑いと恥じらいが混じり、リヒトは思わず皮肉を言うが、彼女の言葉と表情に変化は無い。


「どうかな、時々『素』が出そうで」


 ただ一つ、リヒトは分かったことがある。

 リアにとって自分は『こいつ』の家族と同じなのだ。


「…あー、無礼ついでに、今のうちに聞いておきたいんだけど…」


「何?」


 リヒトが自身の頭を掻き、尻込みしながらリアに尋ねる。


「お前って、前世は女だったのか?」


 その言葉にリアは首を傾げると、「え?」と聞き返す。


「…まさか、男?」


 まさか、が『男』の方ということは、リヒトはリアの前世を『女』だと思っていたのだろうか。

 しかし、『女』だったのか? という質問が先ということは、こちらも疑っていたとかかるべきか。正解は――


「……どうでしょう?」


 リアが眼を細め、茶目っ気な笑顔を向けて答える。


「そもそも『男か女かどっちなのか』という問いは無意味かな。どっちでもある人だって存在するんだし」


「え? どっちも?」


 思ってもいなかったのだろう。リアの発言にリヒトが釈然としないという顔をする。

 その様子に、リア――『私』は放言だったかと閉口した。

 もしかしたらこの世界ではLGBTといった概念が存在しないのかもしれない。

 否、逆に存在しても認知されていない、または無自覚無意識に認知しているというパターン、いくつも考えられる。この世界において、既にもいくつもの『私』の常識は崩壊しているのだ。

 前世の『常識』を持ってくるのはそれこそ無稽(ナンセンス)だろう。


「ごめん、今のは私が悪かった」


「…何かわからないけど、別にどっちが良かったとか聞きたかったわけじゃねーんだ…。うん…いや、違うよな。聞いてる時点で同じだよな…俺こそごめん」


 リヒトの発言に思わぬことで話が広がった。

 彼は父親や兄弟たちと異なり村をほとんど出たことはない。

 自身の知らない常識がもっとあるのだと、リヒトは思い直し、また『言葉』だけで人は容易く傷つくし、傷つけられることも再認知する。だからこそ――力だけではなく、社交術も得るために、彼は『騎士』を目指すのだ。


「わかってるよ。リヒトが本当に言いたいことは…」


 リアは小さな声で呟いた。

 それは勿論、リヒトの耳には届いていない。

 もし、リアがリヒトの立場なら、やはり同じことを聞いただろう。

 前世での事象を全て尋ねることができないなら、性別だけでも確認できればある程度の予測はできるからだ。ただ、リヒトと違い、リアの場合は世界観そのものが異なっているので役には立たないかもしれないが、それでも、もし予測で似ていることがあれば、より良い事象を体験して欲しいと願うのだ。


「ま、今はより良い女の子を演じてみるよ。…ということで、イリス様に挨拶しに行こっ」


「演じてるのかよ…」


 リアが片目を閉じて、舌をぺろりと出す。リヒトは半ば呆れながらため息をつくと、未だ握ったままであったリアの手を引いて、実母の部屋へと向かった。


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