1day
虹の色は何色だろうか。日本人であれば大多数が七色だと答えるだろう。では聞きたいが…実際見て数えたのだろうか?
光の屈折で出来た色をはっきり何色だと分かれて見えるのか?
情報に操作されないで、常識に捉われないで。
貴方に見えているのは『何色』?
***
個性的とは何を以て云うのだろうか。まず、私の名前は個性的とは言えないだろう。鈴木かの子。少し変わっているかなと思えなくもないがクラスには数人『鈴木さん』はいるし、今時の流行りとは逆行してはいるが『子』が付く名前はかなり一般的である。今流行りのキラキラネームとは程遠い。
私は端から見て昔から変わった子供だったらしい。自分では普通のつもりだけど。周りが疑問を持たなすぎるのだと私自身は思っている。流行りだからと前髪を切りすぎてみたり、日本人には中々難しそうな真っ赤な口紅を塗りたくって個性的だと言ってみたり…鏡をよく見てみたら良いと思うのだけれど。そんなのが『普通の子』ならなりたいとも思わない。
だからといって特出して変人というわけでもなく、中途半端に変わってる人。それが私だ。
その程度の私が何の因果か一般的な高校に通う予定だったのにこの海紅豆学園に入学してしまった。
『かの子ちゃん、海紅豆学園に行くんだぁ…うわぁ…』
『なんか合うと思うよ、なんとなくだけど…』
『ちょっと私は受け付けないな…今からでも受験出来る所あるから考え直してみたら?』
等々が中学の同級生達の反応である。いやさ、思春期のお子様だからといっても言い過ぎじゃないかな?私にも感情と云うものがあるのだけどな。
それでも学園に入学した私はそこそこ学生生活を充実させていた。個性を大事にすると謳う学校には一切世間に溶け込めないであろう変人、奇人が揃っていた。
空を飛びたくて片羽二メートルにも及ぶ木組みを作り上げ屋上から飛び降りようとした富田君をはじめ、動物と心を通わせる熊本さん、雲の流れで天候が読める美空君など各方面にブッ飛んだ面子となっている。
…それに比べて私は…ただ変わっているだけの一般人だ。だから、未だに何故私がこの学園に呼ばれたのか。まだ分からないんだ。
***
「…というわけでね、今日もツイてなかったんだよぉぉー…って聞いてる?かの子ちゃん!?」
「なんだっけ?ハトに突撃されたって話しだったっけ…」
「それは先週の話!!」
小さな頬を目一杯膨らませて抗議するのは親友の日向なずなである。雑草のように逞しくあれと『なずな』と名付けられたらしい。親の願い通り明るく元気、素直な彼女は私の癒しである。
…少々逞し過ぎる気がしないでもないが。
「だからぁ、今日は朝から土手歩いてたらルアーで釣られたんだってば!!」
「はぁ!?何それ…ギャグなの?」
「ちーがーう!!カーディガン引っ張られてね、何かと焦ったんだからぁ!!」
シュール過ぎる光景が目に浮かびこめかみを押さえた。
機械を触れば不可思議な壊れ方をし、町内のくじ引きがあれば特賞が当たる…特異体質と云うのだろうか。機械に至っては大体不良が出るので何故か調べたらしい。その結果『パウリ効果』という体質だと判明したようだが、どちらにせよ原因は不明。マイナスな体質ではあるが彼女の場合ネタになる事案が多くポジティブに考えているようだ。
「それで、怪我は?」
「えっ?」
「いやいや…釣り針でしょ?引っ掛けられたら一大事じゃない」
「おぉ…!!そっか!! 全く気が付かなかったよ。全然平気だよ、カーディガンだけちょっと糸が解れたくらい」
やはり運が良い。
「それなら良かった」
「腹立ってはいるけどねっ!!」
今回は悪い意味での『当たり』だったらしい。
「てゆうか新商品のチョコ煎餅マジヤバい!!かの子ちゃん食べてみて!!」
今日の当たりなど何も無かったかのように、満面の笑みで謎のお菓子を押し付けてきた。
何を考えているのか分からない…考えているのか分からないが。総てに於いて考え過ぎてしまう私はそんななずなの奔放さが好ましい。
「なんでそんな怪しげなお菓子買ってきたのよ…」
「試してみなくちゃ分からないじゃない。最初からダメだなんて思ったらつまらないよ?…ほら、一口!!」
勧められるままに怪しい煎餅を口に運んでみる。甘いチョコの後に醤油の辛さが丁度良い。見た目は破壊的だけど。
「…美味しい」
「でしょ?」
八重歯が見える程、口を開けてニッコリと笑う。童顔な彼女は笑うと更に幼く映る。その笑顔につられるように口元に笑みを作って返した。
「大体さ、変わってるってかの子ちゃんの感想じゃん?」
なずなは無邪気な笑みを崩さずもう一枚煎餅を手に取った。
「私はさ、変だと思わないなぁ」
要は主観の問題だと彼女は話しを続ける。
「それに…そんな事言ったらかの子ちゃんも私も変人だよ?私達一般人なのに」
「この学校自体が変人の集まりだとは考えないの?」
「何で?ある程度校則も守ってるし…制服だって普通でしょ?」
彼女には端から自分が変人という感覚は無いのかもしれない。
「考え方なんて人それぞれなんだから変人じゃ無いと思う個性的…なんて言葉があるけどさ、あれ、可笑しいよね。だって皆一人一人違うんだから」
中学生時代に心に引っ掛かっていた違和感。なずなの指摘はその引っ掛かりの部分だと感じた。
「そうね」
何かが軽くなったように思い笑顔でなずなを見た。
「あっ、かの子ちゃん見て、虹が出てるよ」
彼女の指差す方向に目をむけると七色の…
「綺麗だよね、虹。赤、青、緑、黄、オレンジに見えるねぇ」
「なずな、虹は七色なのよ?」
「どうして?」
何故って。その様に教わったから。
「本当にかの子ちゃんには七色に見えるかな」
全てを取っ払ってもう一度虹を見てみる。
色とりどりの色彩。
そう、私には…
✽✽✽
貴方には虹は何色に見えるだろうか。もう一度、素直な気持ちで見上げて欲しい。
そこにはきっと―




