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クイーン・オブ・スポーツ  作者: 北原樹
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クイーン・オブ・スポーツ 終幕

終幕




ロッカーでは泣き声の中、松原監督が、

「これからあなたたちのサッカー人生は続いていく。今日よりもっとショッキングな負け方も味わうでしょう。そこからどう立ち直るか、どう次につなげるかはあなた次第。私は慰めたりしない。とりあえずお疲れ様。あとは自分たちで切り替えなさい。大会の残り2日間に加え、1週間は休みなさい。それで次どうするか考えなさい」

とだけ言って、あたしたちを残して外に出た。あたしたちもバラバラに外に出た。小高い丘の上に登って詩織と第2試合を観るでもなくぼっーと眺めていると、前に見た女性が近づいてきた。景山麻美さんだ。

「ベラトリックスは残念だったわね」

「はあ」

「桐原さんは3試合連続ハットトリック。凄かったわね」

「チームが負けちゃあ、何の価値も無いです」

「高柳さんもあんなに積極的なプレーが出来るようになったのね」

「桐原さんが引っ張ってくれるからです。彼女にはどこかカリスマ的なところがあるんですよ」

「知っているかもしれないけど、私はこの夏に立ち上がるU❘15(15歳以下)女子日本代表の監督に内定しているの。その代表にベラトリックスからあなたたち2人を招集するつもりよ」

「あたしたちは負けたばかりですよ」

「だからこそしゃきっとしてもらわないと困るの。あなたたちは世界で通用する可能性を秘めていると思うの」

「世界がどうとか、今すぐ考えられないです」

「桐原さん、あなたは上昇志向が強いと聞いているわ。上を目指すうえで国際経験は貴重だわ」

「世界か……。考えさせてもらえます?」

「もちろんよ。高柳さんもいいわね?」

「はい。私は参加したいと思います」

「じゃあ私の携帯番号は……」


   ☆


準々決勝の日のうちに帰京して何もせず三日間過ごした。そんな中、詩織から電話があって、鎌倉の自宅に招かれた。これで二度目だ。私鉄二本を乗り継ぎ、鎌倉駅でJRに乗り換え、北鎌倉駅から徒歩で向かう。今度は足に怪我していないし。白い洋館にたどり着き、チャイムを鳴らす。

「いらっしゃい」

 白いサマードレスを着た詩織が出迎える。サッカーのユニフォームの部分とそうでない部分に肌の色の差が出ていない。相変わらず白い。どういう日焼け止め使ってるんだろう?

 母親もドアの中で出迎えてくれた。相変わらず上品そうな人だ。

「つまらないものですが」

と手土産のいちごタルトを手渡す。そして2階の詩織の部屋に向かう。クーラーがあるのに。窓を全開にしている。意外にさわやかな風が入ってくる。しばらくして詩織の母親がいちごタルトと紅茶を持ってくる。ミルクティーだ。

「ニルギリっていうの。ミルクとよく合う茶葉よ」

「ありがとうございます」

軽く一礼する。母親が下がると、早速紅茶を飲む。癖の無い味だ。いかにもお嬢様然としている。

「詩織の家って紅茶に凝ってるの?」

「そうでもないわ。コーヒーを飲まないだけ。主な茶葉しかないし」

「なんか、休みは毎日アフタヌーンティーにケーキというイメージがあるな」

「それは否定できないわね」

「でも甘いものを食べると体脂肪がつくだろう?」

「だから毎日走っているわ」

「もう復活してるんだな」

「希はまだ落ち込んでる?」

「まあそれは無いな」

「それはよかったこと。例の話、考えてる?」

「代表か……。願っても無いチャンスだし、考えてるけど」

「それとあと一つ。戸田さんから電話があったのだけど、プリンセスに再昇格するという話、聞いてる?」

「それは初耳」

「ガールズのほうは大会が終わって目標がなくなるわ。となると、冬に向けて公式戦という具体的な目標のあるプリンセスでプレーしたほうがいいんじゃなくて?」

「そうか……。こんどこそ真っ向からレギュラー争いが出来そうな気はするな」

「私は上級生に声を出せるのか、まだ不安だけど」

「あたしはそんなの気にしないけどな」

「希は強いから」

「でも実力のほうがな……。詩織はレギュラー確定だけど」

「そんなことないわ。上級生も冬に向けて緊迫感が漂い始めているでしょうし」

「まあ、でも楽しみと言えば楽しみかな」

「それは良かったわ。じゃあ戸田さんには連絡しておくわね」

「あとは代表か」

「代表は最初から参加すべきよ。代表立ち上げのときに参加しておかないと、後からだと入りにくいわ」

「それは分かる。あたしもベラトリックスに入ったとき、サッカーの違いに戸惑ったもん」

「私は参加するわ。私は途中から入って自分の立ち位置を確保するのが苦手なタイプだから」

「他に誰が参加するの?」

「分からないわ。ベラトリックスでは私たち2人だけでしょうね。清水の佐々木さんやレオーネの三沢さんも当確でしょうね。レオーネは全国制覇したし、他にも呼ばれるかもしれない」

「ウチからは他にも呼ばれてもおかしくないと思うけどなあ」

「最初は出来るだけ多くのチームから召集するみたい。最初に特定のチームから大量に選ぶと派閥を作ってしまって代表チームとして団結しにくくなるから」

「そうか……。代表チームだから色んな選手と一からチームを作らないといけないのか」

「たぶん、景山さんは希の個性を必要としてると思う。強引にでもチームを引っ張る強さを」

「そうかなあ。適応力無いからなあ」

「それも含めてよ。トレセンからも報告が上がっていると思うし、代表の立ち上げからの参加がベストだと思う」

「なら参加してみるか……」

「じゃあ今景山さんに電話してみる」

! 目が本気だ。あたしもそれでマジになった。

「とりあえずケーキ食ってから」

「そのくらい待つわ。今日はそのために来てもらったの」

「大会の振り返りくらいと思っていたけどな。策士め」


   ☆


そしてケーキを食ってミルクティー飲み干したら、詩織が景山さんに電話を入れる。

「もしもし、失礼します。私、ベラトリックス・ガールズの選手の高柳と申しますが……」


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