第一章4『やらなきゃいけないこと』
「いでででででで!」
晴翔は思わず声をあげた。
まさか初対面にも等しい相手にここまでちょっかいを出してくるとは思ってなかったからだ
「あ、生きてた」
クローフィアは素っ頓狂な声で感想を答えた
その姿に少し可愛いと思ってしまった晴翔は首を振り
「いや、生きてるよ!っつか動いてたでしょ!そりゃ俺みたいな人種にとっては美少女にほっぺをつねられるなんてご褒美以外のなんでもないけどさ!それでも「つねるよー(ハート)」くらいの言葉は欲しいよ!?」
自分の思ったことを素直に全て吐き出すとクローフィアは笑い出した
晴翔はそんなに面白いことを言ったつもりはなかったが
クローフィアの笑う姿に見とれてしまった。
「ごめんなさい、やっぱり君面白いね、何を言ってるのかは全然わからないけど」
クローフィアは可憐な容姿で物静かそうに見えるが
思ったことはズバズバと言う性格らしく物怖じせず言ってくる様に晴翔は少し面食らった
「それに、私は名乗ったのに君はまだ名前も名乗ってないんだよ?自己紹介もしてくれないの?」
上目遣いで頼み込むように言われた晴翔は不覚にもドキッとしてしまう
『こんなの卑怯だろ』そう思いながらも晴翔は答えた。
「ああ、そうだった、悪い、俺の名前は八那賀晴翔だ。18歳で趣味は・・・・あー、これは言ってもわかんねえか」
晴翔の自己紹介にクローフィアはキョトンとした顔で覗き込んだ
覗き込んだり顔を近づけたり警戒心がないのか距離感が近いのか
晴翔は来てからやたらドキマギしている。
「ヤナガハルト?変わった名前ね、よろしくねハルト」
ニコッと笑い手を差し出すクローフィア、晴翔は人と握手なんて10数年ぶりだ
少しおどおどしながら手を差し出すとクローフィアは笑いながら晴翔の手を強引に握った。
「握手だよ?なんでそんなに警戒してるの?ほんとハルトって変わってるね。でもそう言う面白い人好きだよ私」
不意に好きと言われて晴翔は自分の顔が赤くなるのを自覚した
誤魔化そうと後ろを向いてクローフィアに反論した
「お、俺のどこが面白いんだよ、それに俺のいた国じゃ、そんなに頻繁に握手なんかしないんだから仕方ねえだろ」
クローフィアはクスクスと笑っている。
だが晴翔は心なしか居心地の良さを感じていた
『悪い子じゃない、まだどんな子かもわからないけど、この子といると安心するな。人といてこんな気持ちになったのはいつ以来だろう。』
晴翔が物思いにふけっているとクローフィアが晴翔の目の前に顔を出した。
晴翔は驚き少したじろいだ。
「うおわっ!びっくりするだろ!いきなり顔を目の前に出すなよ!」
その姿にまたもクローフィアは笑い出す。どうやら晴翔をからかうことに面白さを見つけたらしい。
「ほんとハルトって面白い」
そんなクローフィアの姿を見ながら晴翔は少し迷っていた、この子に事情を全て話すべきかどうか
『事情を話せば協力してくれそうだけど、理解はできないし、信じてくれないだろう。とりあえず理解してくれそうな部分だけ話して、この国のこと、街のこと、案内してくれそうなら頼んでみるか』
そう思い晴翔はクローフィアに話を持ちかけた
「えっと、クローフィア、頼みと話があるんだ」
クローフィアは笑うのをやめ、真剣な顔の晴翔に何かを察してニコリと笑ってうなづいた。
そして晴翔は話し始めた、自分が置かれている状況、元の国に帰りたいということ、この国について
帰るにはどこに行けばいいのか、街の案内、宿について
一通り話すとクローフィアは頭を抱え始めた。
「んー・・・ハルトって結構厄介さんだったの?助けなきゃよかったかなー」
真面目なのかふざけてるのか笑えない一言だ
「いや、助けておいてそりゃねーだろ!」
すかさず晴翔も突っ込んだ
「嘘だから安心して、そうだねー、ハルトがいた国に帰るためにはお金が必要だし、どこにあるのかを調べないといけないね。でも私も国の外にあまり出たことないから詳しいことはわからないんだよね。ローエワースにはいろんなお店があるから商人さんとかに聞いてみるといいかも、ドラゴンの貸し場に行けば色々他の国のことを教えてもらえるかも。」
ドラゴンと聞いて晴翔は異世界なのだと確信した、晴翔のいた世界じゃドラゴンなんて存在しないのだから
だが同時にワクワクもしていた、退屈だらけだったあの世界じゃできないことができる、冒険する前の漫画の主人公の気分がわかった気がした晴翔だったが、クローフィアの提案にはいくつか疑問もあった
「提案はありがたいんだが、俺はこの国の街どころかどんなところなのかも知らないんだ。できることなら案内を頼みたいんだ。色々やらなきゃいけないこともあるが、とにかくどこに何があるかわからないと、動きようもないからな。あ、それと街に行く前にこの国のことを教えてくれないか?」
晴翔が国について聞くとクローフィアの顔が少し暗くなった。
どうやら国についてはあまり話したくないようだった。
「話したくないなら話さなくてもいいんだ、街に行った時に聞くからさ」
そう言うとクローフィアは慌てて晴翔を引き止めた
「話したくないわけじゃないの!ただ・・・この国近隣の国と色々いざこざがあってて何から話せばいいのかなって」
自分の頬をぽりぽりとかきながらクローフィアは少し迷った顔をしていた
そして一息ついて話し始めた。