第一章3『異世界の始まり』
「お城?・・・・・」
次に困惑していたのは晴翔だった。
『この子はなにを言ってるんだ、お城?いつの話だ?江戸時代?戦国時代?歴史の勉強の復習か?』
色々考えても答えは出ない、出るわけがない
なぜなら晴翔と少女、この2人が育った世界はまるで違うのだから
「なんの話だよ、城って、今の日本に残ってるお城なんて遺跡としてあるくらいで」
晴翔がそう言うと少女は笑った
美しくも可憐さがある笑い方で、その笑い方、笑う姿に晴翔は見とれてしまった。
ひとしきり笑い、呼吸を整えると少女は言った。
「君面白いね、ニホン?とかいう君の国にお城がないのなら、わからないのも無理ないね。」
それを聞いて晴翔の顔から血の気が失せていく
じわじわと冷や汗が出てきた
「今・・・・なんて?」
動揺を抑えながら晴翔は少女に聞き返す。
だが到底冷静には見えない、顔が笑っていないからだ。
「え?」
少女は少し怯えた顔をして晴翔を見つめている。
「ここはニホンじゃ・・・ない?」
晴翔の中で動揺が焦りに変わる
汗が止まらない、決して暑くはない、冷や汗だ。
晴翔は自分が思っている以上に焦っていた。
「冗談だろ?俺がさっきまでいたのは日本のお台場だ!そして俺は地面にできた穴に落ちた!そして目が覚めたらここに居たんだ!」
発する言葉の語気が荒くなる。
今の晴翔に落ち着けというのが無理な話だ。
「なにを言ってるの?」
少女は怯えていた、助けたはずの人間が突然訳のわからないことを言い出し
自分を責め立てるように言葉を発してくるからだ。
だが今の晴翔に他人のことを考える余裕などあるはずがない。
もともと晴翔は、他人のことを考えて生きてきてはいない、だが例え他人のことを考えてきた優しいと言われる人間でも、この状況で落ち着けと言われて落ち着ける人間はいないだろう。
「くそっ・・・・なんなんだ一体・・・・・」
イライラしている晴翔を少女は警戒した目で見つめていると
晴翔がそれに気づき、自分を落ち着かせた。
「・・・・・悪かった、きつい言い方をしてしまって、改めて教えてくれ、ここはどこなんだ?」
晴翔は自分なりに自分を落ち着かせた、だが実際落ち着いてなどいない
落ち着けるはずがない、内心は焦りでいっぱいだった。
だがその晴翔に少女の答えはシンプルに、残酷に、晴翔に現実を突きつけた
「ここはレトリニ国のローエワースという街の外れにある森の中の私の家、あなたの言うニホンではないのよ。」
晴翔は反応できない、理解が追いつかない、考えがまとまらない、思考がフリーズしてしまっていた。
「レトリニ国?・・・・・ローエワース?・・・・」
理解しようと受け入れようとするが受け入れられない、理解ができない。
晴翔がさっきまでいた日本じゃなく、別の国、そして少女の反応を見る限り
晴翔がいた世界とは別世界である可能性があるからだ。
いくら日本が小さな島国とはいえテレビやインターネット、ましてや
情報文化が発達した現代に日本を知らない国があるとは考え難い
そして何より会話が成立していることが晴翔の別世界説を濃厚にしていた。
ただ外国に移動しているだけなら言葉が通じるはずがないからだ。
焦り、思考が停止している晴翔に少女は続けた。
「そして私はここの家に住んでるクローフィアよ」
だが晴翔は反応できない、それどころではなかった
「ちょっと?聞いてるの?」
少し膨れたような顔でクローフィアは晴翔に問いかける
だが晴翔は聞いていない、と言うより耳に入っていない。
今の晴翔は自分の状況を自分なりに整理することで頭がいっぱいいっぱいだからだ。
『どうなってんだよ、ここは俺のいた日本じゃなく、別の国、でも言葉が通じてるから外国じゃない、ってことは別世界?俺は異世界に来たってことなのか?そんなまさか・・・仮に異世界でこの子の言うことが本当だとしても、俺は元の世界に戻れるのか?』
晴翔はクローフィアを見ながら考えていた。
そしてある一つの答えをだす。
『ここが日本じゃなく、俺の元いた世界でもないなら、戻る方法を探さないと、だが俺1人じゃ右も左もわからねえ。今の状況じゃこの子と行動する以外選択肢はなさそうだ、聞けば色々情報を教えてくれそうだし、とにかく今は情報収集することが先決だな。』
晴翔が考えをまとめているとクローフィアが晴翔のほっぺたをつねった