第一章1『穴に落ちました』
退屈だ。
何か取り柄があるわけではないが、彼はそう思っていた。
いや、正確にはやる気がないだけだ、勉強、人間関係、学校、全てが退屈だった、無気力に彼は帰路についている。
帰り道には男女の仲睦まじいカップルのような二人組が何組も歩いている、だがもはやその光景すら彼にとっては退屈な光景だった。最初は嫉妬とかいう感情も芽生えた、だがいつしかそれも無くなり、当たり前の風景になっていた。
「彼女・・・ねぇ・・・作ってなんの得があるんだか・・・・」
側から聞けば嫉妬にしか思われないような言葉を言いながら、彼は歩いた。何があるわけでもない家に向かって、というよりそれ以外に道がないからだ。
ここで人間離れしたような悪者が女の子を襲っているような構図に出くわして、すかさずそれを助け出す!なんてことも1年くらい前は妄想していた。
だが現実はそんなにご都合主義に満ち溢れていない。神様ってやつは何もしない奴には冷酷だ、救いの手は愚かチャンスさえ与えてくれない。そんな曖昧で冷酷な存在を彼は信じていなかった。
「ちょっと!どいてよ!」
尖った声で肩を思い切り押された彼は少しよろめき顔を上げた。
「何あいつマジでキモいんだけど」
変わらない尖った声で制服を着た少女が彼を罵る。彼にとってはいつもの光景だ。
「あんなやつ相手にするなよ。時間の無駄なんだからさ」
髪を金髪に染めた男が笑いながら言う。
『時間の無駄・・・か、的を射てるな』
彼は少し感心しながらそう思った。自分で自分と関わるのは時間の無駄であるとわかっていた。
「俺なんかに構う暇があるなら、もっとましな男を見つけろよな・・・」
彼はボソッと口を開いた。今の彼にとって、この世界での出来事は自分に無関係なものでしかなかった。
ニュースで流れる交通事故や殺人、何もかもがどうでもよかった、退屈だった。
謎を解く名探偵になりたいわけではないし、そこらへんの女の子からモテまくるハーレム系主人公になりたいわけでもなかった。
ただ心が踊るような出来事がほしかった。
フッ・・・・・・・
「え?・・・・・」
突如、彼の足元の地面に円形の穴が空いていた。いや、正確に言えば彼の足元の地面が円形に消えていただろうか、彼の頭の中に走馬灯のようなものが浮かんだ。
『マジで?俺死ぬの?こんなところで?そりゃ人生退屈してたし、嫌気もさしてたし、神様なんてクソだって思ってたけど、穴に落ちて死にましたとかそんな死に方はあんまりじゃない?』
心の中で色々考えるが彼の体は無情にも穴の中に落下する。
「え・・・うわああああああああああ」
落ちる時のテンプレのような叫び声をあげながら彼は穴の中に落ちていった。