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堕転生  作者: 菜柚月
あの人を探して
5/7

マルダングール王国

お久しぶりです。

急いで仕上げたので殴り書きに近い文章になりました。ですが、読んでいただけると幸いです。

 国へ入って行く者や、国から出て行く者がいる。

 人混みにもまれながら、俺たちは苔むした石橋の上を行く。

 少しずつ歩を進めると、橋の一番奥、巨大な門に辿り着いた。門は常に開いていて、そこには長い列ができており、列の先には門番が四人ほどいて、入国者の検問を行っていた。

 俺は小声でククルに話しかけた。

「布をもっと深くかぶれ。あと、俺に話しかけるなよ。声でばれるかもしれないからな」

 ククルは黙って頷いた。布を深くかぶっているため、顔はほとんど見えない。

 列は意外にも速く進み、あっという間に門番の目の前までやってきた。

 俺たちを担当する門番は、二十代前半くらいの若い男だった。仕事に慣れてないのか、少し挙動不審だ。これなら、ククルの存在もばれなさそうだ。

「この国を訪れた理由は?」

 門番が聞く。

「旅のついでに立ち寄るだけだ」

「二人で?」

「そうだ。こいつは兄妹で」

「そうか」

 できる限り無理の無い嘘をつく。どうせ門番ごときにはばれないだろう。俺は門番を鋭い眼で睨みつけた。「ひっ…」という声が聞こえ、相手には焦りの色が見え始めた。

「じゃ、じゃあ、通っていい」

 門番に軽く会釈をし、俺たちは足早に門を抜けようとした。

「良かったな。ばれなかったぞ」

「うん!ていうか暑い!もうこの布取っていいよね?」

 ククルはおもむろに布を脱ごうとした。

「やめろ!そして声が大きい!」

 布はほとんど脱げ、ククルの顔は周囲に晒された。

 俺は強引に布をかぶせ直した。全く顔が見えなくなるほどに。

 周囲の人間がこちらをちらちらと一瞥する。中には凝視する者もいた。先ほどよりざわつきが増したような気がした。

 これは危ない。目立った動きをするつもりは毛頭なかったのだが、やむを得ない。この際、全力疾走で突っ切るしかない。

 身構えた瞬間、背後から声がした。

「待て」

 そこには、一人の壮年の男が。

「少し、話を聞かせて貰おうかな…?」

 肩を掴まれ、無理矢理振り向かされる。

「ッ……離せ」

「この国には貴族がいて、一人行方不明の方いるのだよ。誰だかわかるか?」

「知らん」

「ククル=ミュラー様だ。マルダングール王との婚約をされている、あのお方だ。………そこの女、よく似ているように見えたが?顔を見せろ」

「そんな人間は知らない。こいつは俺の兄妹だ」

 なんだなんだ?と、人間が集まり始める。不味い。

 ククルの方に目を向けるが、布をかぶっている所為で、表情は伺えない。

「違うなら顔くらい見せてくれてもいいだろ?できないとは言わせないぞ」

 今さら逃げる訳にはいかない。

「こいつがもしそのククル様だったら?」

「お前は獄中に入り、ククル様は宮殿に戻られる。さあ、どうする?」

 どうすべきか。

 すると、会話に割って入るようにククルが話し始めた。


 ……話し始めた……というのはやや語弊があるが。


「……ちっがーーーーーーーう!!!!!」


 ビリビリと鼓膜に響くような声で、ククルは叫んだ。その声はククルかどうか、いや、女かどうかすらも疑うような低い声だった。

 辺りは一瞬にして、しんとした。

「わた……俺はククル=ミュラーじゃない!!!お、男だし!!絶対に違う!!!声も違うし!!しかも下手だけど魔法も使える!!あなたの言ってるククルさんはこんな人じゃないで……だろ!!?」

 ちょっと待て、何が起こっている。

「ク……いや、お前どうし」

「$%○☆♪¥+*〒々^〆」

「突然どうしたんだよ……あ」

 布の小さな隙間から、ククルの視線を感じた。「フォローして」と言わんばかりの期待の目だった。

「…こいつは童顔だから女に見えるが、実はこの通り男だ。他人の空似だろう」

 門番は呆気にとられた顔でこちらを凝視する。

 野次馬の罵声が聞こえる。「そんな変な奴がククル様なわけないだろ!」「ククル様に失礼よ!」

 なるほど、これが狙いか。

 どうやらククルは、ククルが思う『変な奴』を演じ、観衆や門番に自分は人違いだと認めさせようとそんな行動をとったようだ。

「通っていいだろ」

 狼狽える門番を前にして言った。

 門番は無言で頷き、道を開けた。


「お前、意外と機転が利くんだな」

 ククルは布を被り直す。

「えへへっそれほどでも!」

 ククルは屈託のない笑顔で笑った。

「ところで、お前前まではこんな性格じゃなかったのか?さっきはあれで誤魔化せていたが…」

「…この国では、王は民衆に顔をさらすことが多いんだけど、貴族…特にミュラー家はあんまり顔を見せることがないんだ。でも何回か外に出たことかあって。その時私はお父様に言われて、おしとやかな淑女を演じさせられていたの」

 先ほどの民衆はククルのことを、『ククル様はそんなことをするお人ではない』と信じていた。俺からしてみれば先ほどのククルは普段のククルとさほど変わりは無かった。ククルは今まで、その静かな姫様の判を押されていたのだ。

「何と言われたんだ?」

「『お前には貴族としての品格がまるで無い。民衆にそんな恥ずかしい娘は見せられない』って。だからこの前まではほとんど喋らなかったし、人と会ったりしなかった。…お父様怖い人だから、言いつけを破ったら娘とか関係無しに倉庫に閉じ込めたりするし…」

「お前なり色々と、苦労してるんだな」

「まあでも、今は自由だからいいよ。こんなに一人の人と話したの久しぶりだし、何より、シヴに出逢えた。今が人生で一番最高だなぁ」

 人からそう言われて悪い気はしない。こんな俺だが、少し気恥ずかしかったりはする。

 門を抜けると、そこには賑やかな市街地だった。様々な人種、身分、職業の人間が行き交い、声が飛び交う。そんな人混みに入ることがあまり無かった俺には、改めて新鮮なものだと感じた。建ち並ぶ商店には、初めて見る魔法道具や食べ物などの売り物が置かれていた。

 街並みを眺めていると、細長く天に伸びた一際高い建物が目に入った。この国は技術が進歩しているのだと実感させられる。おまけに、民衆も皆幸せそうな表情をしている。明るい雰囲気の国だ。

「ねぇ、あれ見て!魔導書?っていうのが売ってるみたい!」

 ククルの指差す方向に視線を向ける。

 そこは古い魔法道具店だった。発展した周りの街の風景と明らかに馴染んでいない。決して大きな建物では無く、むしろ小さな民家のような店だ。あまり清潔感があるとは言えない。そして、人気(ひとけ)がない。

 ククルはこちらを気にすることなく、店内へ足を運んだ。

 後を追うようにして、俺も店内に入る。

 暗く狭い店内には、沢山の杖や銃、魔導書などの商品が半ば乱雑に積まれていた。

 奥にいる店主の老人は、客に対して見向きもしない。眉間に皺を寄せ、座って新聞を読んでいる。

「うわー、なんだかすごい、古そう!」

 ククルがごそごそと、積まれた店の商品をあさる。上に積まれていた物は床に崩れ落ち、床が軋んだ。

 ククルが一本の杖を持ち上げた。

 杖の先には月の形をしたオブジェが付いている。持ち手には、金色の見事な模様が施されていた。その杖から発せられるオーラは、極めて神秘的なものだった。

 ククルはそれを暫く見つめた後、明るい声で言った。

「これ欲しい!買う!」

 だが見るからに高級そうな杖。「そんなものを買う金がどこにある」

「あるよ」

 ククルは自らの鞄の中をあさった。鞄からは、金属の擦れる音がする。

 鞄から出てきた掌には、光り輝く大量の金貨が。

「おじさーん、これ下さい」

 老人の目の前の机に金貨を数十枚置く。

「値段分からないけど、これくらいあれば買えるよね?」

 金銭数十枚とは、平民が働いて一生で稼げるかどうかも分からないような価値だ。

 こいつ、金銭感覚がどうかしている。

 すると、老人が言った。

「金はいらん。持っていけ」

「え、なんで?」

「急いでいるんだろ。じきに奴らが来る。早く逃げろ」

「………おじさん、何…言ってるの?」

「いいからここから立ち去れ」

 老人の表情が険しくなる。

「あ……うん」

 ククルが杖を持って、外に繋がる扉まで歩こうとした。老人の発言を不審に思いながらも、俺も後を追う。


 悲劇は突然起こった。


 入り口の反対側、つまり老人のいた方から爆音がした。振り向くとそこには、椅子にもたれかかる血塗(ちまみ)れの老人の姿が。その後ろに店の壁は破壊され存在せず、そこには太陽の光が射していた。

 強い風が吹き、ククルの頭の布がはだける。

「やっぱりアレン様の予想はすごいぜ!こんなに早く見つけられるなんてなぁ!」

 光の先にいたのは、大剣を肩に担いだ青年。青年は俺を指差す。

「そこのお前、俺と勝負しろよ。ククル様をかけてな。お互いククル様を守る者同士、楽しくやろうぜ!」

「俺は守ってるわけじゃない」

「あ?じゃあなんでククル様と一緒にいるんだよ」

 青年がこちらへ向かって飛び出す。大きな大剣が俺の頭上に掲げられる。

「なんとなくだ」

 刃物と刃物のぶつかり合う音。

 俺は大剣をすんでのところで自らの剣で受け止めた。

「……そうこなくっちゃ」

 青年は口を歪めて(わら)った。


 *


 私は現在、憂鬱だ。

 さして大きくない、綺麗に整理整頓された執務室。そこに私はいた。

 椅子に座り、天井を見上げる。そこには何もないのだが、私は底知れぬ不安に駆られ、足をばたつかせた。


 ーー最愛の家族の一人がいなくなって、数日が過ぎた。

 お前は今何をしているんだ?空腹を感じていないか?誰かに近づかれてないか?

 あらゆる不安が頭をよぎる。

「君は城下町の古い魔法道具屋にいる。それが分かるのは私だけだ。どこにいようとも、私が見つけてやる。だから」

 だから、どうか無事でいてくれ。私は心から願うばかりだった。

 だがもし、他の人間が君に近づいたりしていたら。

「その時は……君の兄であるこの私、アレンが容赦せん………」


「国を挙げてでも君を救ってやる、ククル!!!」


ククル兄のフルネームは、アレン=ミュラーです。書かなくてもわかりますね、はい。

ククルちゃんは天真爛漫なだけです。検問シーンでの行動は決して作者のネタ切れではありません。

決して作者のネタ切れではありません。

次回もまたよろしくお願い致します。

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