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堕転生  作者: 菜柚月
あの人を探して
4/7

目的

 ククルは目を疑った。

 人は本来、身体を引き裂かれるほどの傷を負うと死ぬ。それが彼女の常識だった。

 だが目の前にある人間(げんじつ)は、その常識をあっさりと撃ち砕いた。

「……そこの君……なんで…シヴ君の隣にいる……の?」

「……シヴの仲間だから…」

「違う!なぜ僕じゃなくて君なんだ!?シヴ君、どうして?どうしてどうしてどうして?ねえどうして僕じゃだめなの?ねえ!!!」

 俺はククルの手首をとっさに掴んだ。

「あいつは今関わると危ない。突っ切るぞ」

「え……うわぁっ!」

 掴んだ手をしっかりと握りしめ、俺はキアランに背を向けて走り出した。

 キアランの〈絶対的侵入(アブソリュートインベイジョン)〉は、一時的に効果が切れている。やつと離れるなら今だ。

「シヴならあれくらい簡単に倒せるんじゃないの!?」

「記憶が戻ったら確実に倒せる。今の俺は、転生者が糧とする負の感情がキアランより弱い。とにかく、あいつとの戦闘は避けよう」

 俺たちは草木をかき分けながら、全力で森の中を駆け抜けた。

 背後を一瞥すると、そこには未だ狂気に顔を歪ませたキアランの姿が。身体に大きな穴が開いているにもかかわらず、その勢いは変わらない。

 こうしてみると、転生者が人間離れしていることが痛いほど分かる。

 自分も、凄まじい負の感情を持ち合わせている。だが、記憶がない以上、まだ他の転生者に及ばないのだ。


「……?」

 突如、謎の寒気がした。

 何気なく空を見上げると、小さな黒い鳥が羽ばたいた。

 なんだ、ただの鳥か…。



 しばらくすると、キアランの姿はなくなっていた。

「…うまく巻けたみたいだな」

「あいつの目的は何?」

「俺と一緒に世界を変えたいらしい」

「変えるって?」

「やつはこの世界を転生者が支配する世界にしようとしている。千五百年前の世界のようにな」

 かつてこの世界が転生者に支配されていたことは、誰もが知っている事実。知らない者はいないと言っても、過言ではない。

 キアランは自分を苦しめた人類に復讐するため、混沌の時代をもう一度(よみがえ)らそうとしている。

 だがそんなことはさせてはいけない。また、俺たちのような悪魔を生んでしまう。

 キアランは目的のために俺を必要としている。だが俺はそんなことをしたいと思っていない。


「……声……?」

 ふと耳を澄ますと、かすかな人の声と気配がした。俺たちはいつの間にか、街のすぐ近くまで来ていたのだ。


 茂みをかき分けると、目の前に巨大な灰色の壁が見えた。

「なんだあれ……!?」

 俺は初めて見るその光景に、思わず驚愕した。

 かべは円の様な形をしており、壁の奥には背の高い建物がいくつか見える。どうやら中は街のようだ。

 壁の周りには、壁を囲むように広く川が流れている。

 その川には橋が架かっており、橋の先には巨大な門がある。どうやらそこから中に入ることができるらしい。

 たくさんの人間が橋を渡り、門の中に入っていく様子が伺えた。服装から見て、旅人や商人だろう


「なんだ、ここ?」

「私の家があるよ」

「は」

「ここは国なの。私と結婚しそうになった王子が治めてる国。私の家もあるよ」

「地図を見たときに気付けなかったのか……中に入ってもバレないか?」

「たぶんバレる…」

 仕方ない……と、俺は首に巻いていた布を取り、できるだけ顔が隠れるように、ククルの頭に被せた。

「これでバレないだろ」

 その布は、いつも自分の首の痣を隠すために纏っていたものだ。

「いいの?そっちが転生者ってばれちゃう」

「それはよくない」

「ダメじゃん」

 俺は、後ろで束ねた長い髪を首に巻いてみせた。

「俺はククルほど顔を知られてない。前に来た追っ手も全て倒したから、首を隠せば問題ないだろう」

「でも…もしバレたら……」

「そのときは戦う。普通の人間ごとき、敵じゃない」

「…大丈夫…かな…」

 珍しく不安そうだ。

「心配なら家に帰ってもいい」

「もう家になんか帰らないもん!ずっとシヴの味方になるって決めたもん」

「結局そうなのか」

「そうだよ!ていうか反応が薄い!」


 ククルが俺の前に立つ。そして明るい笑顔でいった。


「ようこそ!マルダングール王国へ!」



 *



 黒い鳥が頭上を羽ばたく。

「がはっ、げほっげほっ」

 僕は立ち止まり、大量の血を勢いよく吐いた。足下の地面が赤色に染まる。

 貫かれた腹は緑の光を帯び、少しずつ再生を始めている。

 鳥は徐々にこちらに近づき、肩にとまってきた。


 脳内に直接声が聞こえた。

 声の内容を理解するのに、さほど時間はかからなかった。

「もう帰ってこいというのか。それにしてもシヴ君……君の力はそんなものじゃないはずだよ」

 僕は踵を返す。

 その姿を、鳥は赤く濁った眼で静かに見守る。

「やっぱりあの女のせいだ。君は人間の温かさを感じつつある」

 鳥に手を触れると、鳥は瞬く間に巨大化し、人一人が乗れるほどの大きさになった。僕がまたがると、瞬く間に飛び立った。

「君は優しくなってはいけない。人間を信じてはいけない。幸せになってはいけない。だから今度こそ」


 引きつった笑みを浮かべ、僕はある場所へ向かった。



「君の幸せ、全部壊してあげる」



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