第五話 聖剣
ようやく出発します。
カツン、カツンと響く王城の廊下を歩き、集合場所に向かう中、アルカは昨夜のことを思い出していた。
そう、また神が夢の中に現れたのだ。
「やっほー!」
とりあえずイラッときたので即行、容赦なくぶん殴った。
「痛い!痛いよ!?いきなり殴ることはないんじゃないかな!?」
神は頬を押さえ、涙ぐんでいた。
「いろいろと鬱憤が溜まってまして」
「あぁ…、心中お察しします」
「……まぁ、いいですけど。いきなり殴ってすみませんでした」
素直に謝るアルカ。
「あぁ、うん。痛いけどダメージはないから」
「なら…」
アルカは静かに拳を構える。
「ダメージないけど結構痛いからね!?」
仕方なく拳を下ろす。
「で、何の用事ですか?」
「勇者専用の武器と防具を創ったんだ。だからそれを渡しにね!」
テヘッと神が笑う。
「…………」
その笑顔にイラッときたので静かに拳を構えた。
「黙って構えないで!怖いから!」
「つまり、私専用の武器と防具ですか?」
構えを解きながら尋ねる。
「そうだよ!君に合わせた武器や防具を創るのに僕達頑張ったんだから!」
そう言って、何もない所から取り出したのは白い剣だった。シンプルなデザインで、装飾は赤い石があるのみ。実用的な剣で悪くなかった。
「君にしか使えないように設定されているから悪用される心配もないし、君の中に収納されるから持ち運びにも超便利!あと、呼び出したら君の手元に戻る機能付き!君が望む武器になるように形態変化も付けたんだよ!だから使いやすい武器で戦ってね!」
えっへんと自慢げに胸を張る神。
「そうですか。ありがとうございます」
テレビショッピングを思い出す台詞である。
「君は多種多様な武器を扱えるからそういう設定を施したんだ。本来ならその人に適したふさわしい武器になるような設定だったんだけどね。君なら使いこなせるでしょ?」
「もちろん、使いこなしてみせますよ」
「なら良かった。あと、これが防具っと!」
またしても、何もない所から出したのは真っ白な防具だった。赤いラインが縁取られており、可愛らしいデザインだった。
「自動修復と自動洗浄を付けておいたよ。だから戦闘中に傷が付いても修復されるし、血や汗といったものも綺麗に洗浄してくれる。あと、自動回復。怪我してもこの防具を着てる間は回復してくれるんだよ。もちろん、君にしか使えないように設定されてるし、君の中に収納できる。君が呼べば手元に戻る機能も付いてる。君の中に収納されてる間も洗浄機能は動いているから、基本的には君の中に収納しておくのがいいかな」
安全面でもと神は呟く。
「これは…かなりチートですね…」
いろんな意味で危険だろう。神よ、自重はどうした。
「ふふん、どう?かなりすごいでしょ!?これを創るまでに…」
「もういいです」
何か長い話を語り出そうとしたので止める。
「えっ、ちょっと話聞いて!僕達の涙ぐましい努力のストーリーを!」
「本当にいいです。とりあえず、この武器と防具はありがとうございました」
頭を下げ、お礼を言う。
「いやいや、頼んだのはこちらだからね。これぐらいは当然だよ。魔王討伐を押し付けて申し訳ない。ご武運を」
「ここまでしていただき、ありがとうございます。魔王を討伐してみせましょう」
回想していたら集合場所に着いていた。
もうすでに全員集まっており、私が最後だったらしい。
「お待たせしました。では行きましょうか」
そう言うとみんなの視線が私に集まり、なぜか止まった。
ある者は目を見開き、ある者は動きを止め、ある者はポカーンと口を開いていた。共通して言えることはみんな驚愕していたということだろう。
「どうしました?」
その空気に首を傾げる。
「その防具と剣は何だ?」
ガルドが尋ねてきた。
「神から貰いました。勇者専用の武器と防具だそうですよ」
彼女は気づいていない。その防具や剣から神々しい力が溢れ出していることに。そして白を基調としたデザインに彼女の容姿と相まって神秘的な美しさになっていることに。
「それが何か?」
「いや…、何でもねぇ…」
口を濁すガルドにらしくないと思いながらも突っ込むことはしなかった。
「神様から直々にですか!?」
ぐいっと興奮気味に近づいて来たエレナに軽く身を引く。
「えぇ…」
彼女はわかっていない。神はそう簡単に会えるものではない。比較的、神の存在を身近に感じられる世界のため、信心深い人が多いとは言え、神に会ったことがある人は数えられるほどである。
神があまりにも気軽に会いに来てるのが理解できてない原因でもあるが。
「すごいです!神様に会ったなんて!」
「そうですか…?」
周りの反応に戸惑うが、
「出発の時間です」
宰相が口を挟んだ。
国が用意した見栄えがいい馬車でパレードし、その後は旅の準備をされた馬車へと乗り込んで出発する。
パレードをする意味は理解できるが面倒だし、憂鬱だ。どういう反応をされるかわかりきっている。
早く終わってほしいとアルカはパレードが始まる前から思った。