第一話 神託
軌道に乗るまでは連続で投稿します。
よろしくお願いします。
アルカは久しぶりの街で買い物をしながら話を聞き、情報収集していた。
白髪に赤い目と目立つ容姿なのでフードが付いたマントは必須だ。
「魔王討伐の勇者を選定する、か」
今、巷で噂になっているのがこの神託である。
「いや、ないわね。私は絶対に勇者なんて面倒な役目しないんだから」
そう呟き、神殿に近づかないことを誓う。フラグなんて立てないと。
「近づかなければ問題ないはず。それにいくら私が転生者だからって勇者とは限らないし」
そう、よくある物語のような王道な展開は空想の中でしか起こらないのだと、この時は楽観視していた。
まさかあんなことになるなんて思いもしなかった。
「やぁ、こんにちは」
目の前にはにこやかな笑みを浮かべた美しい青年がいた。
「……こんにちは」
私は久しぶりに宿屋のベッドで寝ていたはずだ。なのにいつの間にこの真っ白な空間に来たんだ。っていうか、この青年は誰だよ。いろいろとおかしいだろ。
混乱のあまり、アルカの口調がおかしくなっている。
「現実逃避してるところ悪いけど、話をしていいかな?」
「…そうですね。私に用件があるからここに来たんですよね?」
わざわざ私の夢の中に現れたのだ。何か用があるのだろう。
すぐに冷静になり、そして誰とは聞かない辺りおかしいのだが、残念ながらここには突っ込む人がいなかった。
「うん。君にお願いがあってね」
「お願いですか?」
嫌な予感がする。
「魔王を討伐してほしいんだ」
「お断りします」
即答する。考えるまでもない。
「えっ…?断るの早いよ!もうちょっと話を聞くとかないの!?」
「ないです。他の人に頼んでください」
「いやいや、もうちょっと悩んで!お願いだから!そして、魔王を討伐しに行ってください!お願いします!」
頭を下げられる。
「仕方ないですね。詳しく話を聞きましょう」
「本当!?」
青年はパァーと顔を輝かせる。
わかりやすい。
「えぇ」
聞くだけど。
「実は今回の魔王は質が悪くてね、災害級なんだよ。おまけに魔族以外はすべて滅びてしまえばいいという思想でこちらも困ってるんだ」
「はぁ…、何で私なんですか?」
「君が転生者で強いからだよ。柔軟な思想に高い戦闘技術を持つ君なら今回の魔王討伐を成し遂げられると思ったんだ。もちろん、危険な旅になるからそれなりの補償はする。だから頼む。引き受けてくれないか?」
青年は真剣な顔で頭を下げた。
「私より強いんですし、あなたが魔王を討伐すればいいと思うんですが」
「この世界はまだ出来て日が浅く、世界の情勢も不安定だ。僕達はこの世界を維持するのに力を注いでいる。だから魔王に力を割く余裕がないんだ。それに僕達がこちらに干渉すると、さらに世界が不安定になるという悪循環なんだ」
「はぁ…、わかりました。引き受けましょう」
「本当に!?ありがとう!すごく助かるよ!」
「それで補償ですが」
「君はもう加護持ちだし、勇者になった際に能力を上昇させておくよ。他に要望はあるかな?」
「……そうですね。今のところは特にないです」
「僕達神と交信できるようにしておくよ。何か聞きたいことがあったらいつでも聞いて」
あぁ、やっぱり神だったんだなと思った。
「魔王討伐を引き受けてくれたお礼に一つ願いを叶えてあげるよ。すべてが終わった際に聞くからじっくり考えるといい。あぁ、あまり無茶な願いは無理だよ?叶えられる範囲でなら何でも叶えるから」
「わかりました。考えときます」
何にしようかな?せっかく神が叶えてくれるんだから…。
「あの、本当にできる範囲でだからね?無理なものもあるからね?」
引きつった笑みを浮かべ、焦る神だが、
「わかってます。できる範囲ですよね?」
「うん…」
これはやばいことになっちゃったかもしれない。悪魔と取引したみたいな…。
人選ミスだったかもと冷や汗をだらだらと流し、神は後悔し始めていた。
「神から直々に魔王討伐を頼まれるなんて、さすがマスターです」
「当時は戦争ばっかりだったから戦闘技術が恐ろしく発展してたけど、やっぱり私が持つ技術にはまだまだ敵わないレベルだったしね。まぁ、出来たばっかりの世界だったから仕方ないんだけど」
そう、当時は出来たばかりの世界だったせいで歴史が浅く、様々なものが発展途上で未発達だったのだ。
「いやいや、いろいろとおかしいだろ?本当に突っ込みどころ満載だな、おい」
ブラッドは引きつった顔で突っ込む。
「それがマスターですから」
「それもそうだが…」
アルカ達と長い付き合いのため、いろいろと知っているブラッドは言葉がなかった。
アルカだからという言葉で納得する2人もおかしいのだが、突っ込む人はいなかった。
様々な国が戦争で疲弊しきっていた時に現れた魔王は当時、脅威であった。その時はさすがに国同士が協力した。人間の存亡がかかっていたのだ。過去の戦争のことなど四の五の言っている暇はなかった。
そんな時に神託が来た。
神託は当時の人々に希望を与えた。そして熱狂的に勇者を望んだ。
勇者とは神による選定者。
神の代わりに行う代行者。
世界の危機を救う救済者。
希望の象徴であり、力なき者の守護者。
その神に与えられた力で責任と義務を果たす。
だが、当時はそんな綺麗なものではなかった。
長い戦争で疲弊し、そして信心深かった民は不満や恐怖を勇者に押し付けた。勇者だからという理由で。
あの時の勇者はすべての災厄と希望を一人で背負うものだった。責任と義務という枷で縛りつけたのだ。