第十六話 行き場のない子供達
新キャラ、登場です。
アルカとガルドの仲が変化します。
「勇者のお姉ちゃん、僕も強くなれるかな?オーガがまた来ても倒せるくらいに強くなりたいんだ。もう目の前であんなことが起きないようにそれを跳ね返す力が欲しいんだ」
「もちろん強くなれるわ。オーガを倒せるくらいに」
「なら…、僕…お姉ちゃんの弟子になる!」
「えぇっ!?強くなる方法なら教えるけど、弟子入りは…無理かな?」
「何で!」
「お姉ちゃんは魔王討伐の旅の途中なんだ。だからずっとこの町には居られないの」
「なら付いて行く!」
「なっ!?」
「聞いたんだ、僕達のことをどうするか…。この町で僕達の面倒を見る余裕はないって。だから他の町に預けようって。売ったほうがいいって」
売ったほうがいいって、の言葉にアルカはピクリと眉を動かす。
「行き当てがない僕達は扱いに困るんだって」
「……扱いに困るねぇ〜」
「お姉ちゃん?」
声の質が変わったことに気づいた少年は思わず声をかける。
「僕達ってことは他にもいるんだよね?」
「うん、他にも3人」
「そっか。いいよ、弟子入り」
「えっ?」
「強くなりたいんでしょ?」
「うん!」
顔を輝かせる。
「あっ、そういえば名前を聞いてなかった。私はアルカ」
「マルコ。僕はマルコと言います!よろしくお願いします、師匠!」
「うん、よろしくね」
にっこりと笑う。
弟子がまた増えた。
「さて、ちょっとお話をしに行こうかな?」
喜んでいるマルコをよそに呟いた。
「あの…、何の話でしょうか?」
町長は戸惑った様子でアルカに話しかける。
「あぁ、孤児のことですよ。扱いに困っているそうですね。売るとか売らないとか…」
にっこりと笑う。
「我々も余裕がないのです。人口も減り、町の復興にもお金がかかる。なら売ってお金にしたほうがお互いに幸せでしょう」
「お互いに幸せねぇ〜」
町長はなぜアルカの笑みを不気味だと思ったのかわかった。目が全然笑っていないからだ。
「子供は宝ですよ。未来を作る担い手です。子供達は私が引き取ります」
「なっ!?何をおっしゃって!?」
町長はアルカの予想外の言葉に驚く。
「構いませんね?」
町長に有無を言わせず、アルカは話を進めた。
「魔王討伐という危険な旅に連れて行くおつもりですか」
「何も魔王を討伐するところまで連れて行きませんよ。私が信頼する、安全な場所に連れて行くだけです。売られるかよりはいいと思いますが」
「なら子供達の意思は!子供達の意思はどうなるんです!?」
アルカの最後の言葉に込められた嫌みに気づいた町長は怒りのままに尋ねる。
「子供達の意思ねぇ〜。あなたがそれを言いますかと言いたいところですが、ちゃんと本人達の了承は得てますよ」
「なっ!?では…、パーティーメンバーの皆様はどうなんです?そちらも了承を得ているんですか?」
「そちらは得ていませんが問題ありませんよ。嫌なら私と子供達で旅をするだけですから」
当然のように言い切る。
「あなた一人で守り切れるのですか!?」
「守り切りますよ、私の命をかけても」
そこまで言われてはこれ以上何も言えなかった。
よって子供達4人はアルカが面倒を見ることになった。
「なぁ、こいつが勇者なのか?弱そうだな」
赤毛に金色の目を持つ少年は私を見て強気な態度を取る。
「ヨハネ、そんなこと言ったら駄目でしょう!?これから僕達の面倒を見てくれる人なんだから!すみません!」
ペコペコと可愛らしい金髪碧眼の美少年が頭を下げる。
「ふん、マルコがあそこまで言うから仕方なくだ。そう思うだろ?お前らも」
賛同を求めたヨハネだったが、
「いや、僕はいい人だと思うよ。あのマルコが認めたんだから」
「私も右に同じなのです。ヨハネと一緒にされたくないのです」
緑色の髪に青い目をした少女も反論した。可愛らしい容姿とは裏腹に辛辣な言葉である。
「何だと!」
「2人共仲良く、ね!」
慌てて間に入る美少年。
苦労人だな〜と眺める。
「お姉ちゃん、話は終わったの?」
「終わったよ。町長には話付けといたから」
「お姉ちゃん…?」
マルコと私を交互に見て茫然とするヨハネ。
「僕はルカって言います。僕もお姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
「いいよ。私はアルカ、よろしくね」
「じゃあ、私もお姉様と呼ぶのです。私はテレサと言うのです。よろしくなのです」
「何!?お前ら裏切り者!」
ヨハネは予想外の展開に叫ぶ。
「何の話ですか。お前が勝手にそう思っていただけなのですよ」
「ぐぬぬぬ……。あいつらが認めていようが、俺は絶対にお前を認めないからな!」
「わかったわかった」
こういうのは受け流すに限る。
これは時間かかるな〜。
マルコは意外と素直だったし、ルカはいい子。テレサはこちらを見定めて判断したようである。
ヨハネは典型的な子供である。意地を張り、引くに引けなくなっているようだ。こういう強情な子供は時間をかけて認めさせるしかない。
子供のお守り、思った以上に大変そうだ。
「はぁ〜!?あいつらを連れて行く〜!?」
子供達のことを聞いたガルドの第一声である。
「異論は聞きません。決めましたから」
「なっ!?ちょっと待て!この危険な旅に連れて来させる気か!?」
「問題ないですよ。私がちゃんと守りますし、最後まで連れて行く気はありません。私が信頼する、安全な場所に預けます」
「それは当然だ!わかっているのか!?足手まといが4人もいるんだぞ!?そいつらを守りながら戦えるのか!」
「戦えると判断したから連れて行くんです!」
お互いに睨み合う。
「2人共落ち着いてください!」
エレナが間に入るが、
「落ち着いてるわ!お前があいつらを守りながら戦えるとして、なぜ俺らに相談しなかった!?」
「相談したところで結果は見えてるからです!」
「なら何でそいつらを引き取った!?」
「面倒は私がちゃんと見ます!心配していただかなくても大丈夫です!」
「心配してねぇ!俺が怒ってるのは俺らに何の相談もなく一人で決めたことだ!ちゃんと責任持てるのか!?」
「持てるから引き取ったんです!」
「……もういい。好きにしろ…。知らんわ。俺は面倒を見ないからな」
「構いません」
その後2人は黙り込んだ。先ほどと違い、静かだが、空気は険悪であった。
「空気が悪いんだけど…」
メイは引きつった顔で呟く。
「そうですね…。どうしましょう?」
エレナは周りを見回す。
「放っておけばいい。これは2人の問題。介入すれば余計にこじれる」
「そうね。それにしてもあそこまで感情をあらわにしたアルカは初めて見たわ」
メイは驚いていた。
「僕もです」
「そうですか?子供達に接している時は感情豊かだと思いますけど。それにいろいろと私に教えてくれますし、セリカさんも薬学のことで話してますよね?」
「アルカは結構博識」
「確かに魔法について詳しかったわね。でも、私達とはあまり話さなかったし、感情を出さないわよ」
「私とセリカさんには普通ですよね?」
「普通」
これがアルカとの距離感の差である。
「問題はこれからですよね〜」
これからの旅のことを思うと沈黙した。