第十三話 ダンの弟子入り
ここからパーティーメンバーの仲が変化します。
ダンが決意し、変わります。
「あの…、この惨状は何ですか?」
ぐっすり眠ってすっきりした顔で下りて来たダンはこの惨状を見て、その中でまともな勇者に尋ねる。
「見ての通りですが」
「いや、この屍のようになっているのはなぜですか?」
「あの後、宴会になりまして。お酒を飲み明かしたそうですよ」
勇者はお酒を飲んでいるがまるで素面のように平然としている。膝には男の子が寝ており、状況がよくつかめない。
「酒は飲んでも飲まれるなということですね」
「まぁ、その通りですが…」
酒臭い。どれだけ飲んだんだ…。
死屍累々とした大人達を呆れた目で見る。
「あんな大人になってはいけませんよ」
勇者は酒の瓶を抱えて寝転がっているガルドをチラッと見る。
「悪い例です」
確かにあんな大人にはなりたくない。
セリカさんは酔っ払いを介抱し、エレナさんもそれを手伝っていた。
そんな光景の中で何より最年少である勇者が潰れていないことが一番おかしいと思う。
「お酒強いんですか?」
飲んでいるところを見たことはあるが酔っている姿は見たことがない。
「まぁ、程々には。たしなむ程度ですよ」
そう言いつつもお酒を飲む。
「そうですか…」
「鍛練しに行かないんですか?」
毎朝、素振りをしていたのを知っていたのだろう。だけど今日はそれよりもやることがある。
「アルカ殿、お願いがあります」
名前を呼んだのは初めてかもしれないと思いながら背筋を正し、
「私に剣を教えてくれませんか?」
真剣に頼んだ。
「はっ?」
アルカ殿はキョトンとした顔をしていた。
初めて見る顔に驚きつつ、言葉を重ねる。
「今回のことで私はまだまだ未熟だと思いました。足を引っ張り、それどころか窮地を助けてもらいました。こんなことでは魔王討伐なんて無理です。私はもっと強くなりたいんです。だからお願いします!私に剣を教えてください!」
真摯に頭を下げる。
「…………とりあえず頭を上げようか」
口調が先ほどまでの敬語じゃなくなっている。
「話はわかった。唐突すぎてよくわからないけど、うん、まぁ、言いたいことはわかったよ。私に教えを請いたいんだね」
支離滅裂な言葉から動揺しているようだ。
「はい!」
「これは予想外だな〜…。まぁ、いいけど。教えを請う者は基本断らないし」
「本当ですか!?」
「あんたの持ち味は何だと思う?」
唐突の質問に戸惑う。
「持ち味ですか?剣の技量が高いことですかね?」
「……全然駄目だね」
ズバッと一刀両断された。
「逆に言えば今はそれしかないってこと。あんたの持ち味は軽快な動きと剣の鋭さ、あと手数の多さ。ガルドとは正反対の戦闘スタイルだね。じゃあ、弱点は何だと思う?」
「えっと……、威力の低さでしょうか」
「正解。まずあんたは己のことを知るべきだね。何ができて、何ができないか。何が得意で、何が不得意か。情報収集は基本だよ」
「はい!」
「長所を伸ばして短所をいかになくすかの万能型、長所だけを伸ばして弱点の問題をなくす特化型と2つあるけどあんたはどっちにする?」
「えっ?僕が選ぶんですか?」
「自分のことは自分で決めるの。ちなみにガルドは前者、セリカは後者」
自分のことをかなり熟知しているガルドだからこそできるのであり、今日まで生き残っていると言える。
セリカも特化型だがあくまで戦闘スタイルのことであり、薬草の知識が欠点を補っている。
「私は……万能型でお願いします」
「わかったわ。その選択は正しいかもね。あんたは騎士だから」
こうしてダンはアルカに弟子入りした。
「基礎はできてるからね〜。圧倒的に足りないのは経験。だから戦術が浅い。オーガに苦戦したのもそのせい。まぁ、逆を言えば未熟ってことは伸びしろがあるってこと。これからの無限の可能性が秘められているから期待値は高い。だからこそ魔王討伐のパーティーに入っているんだろうけど」
「そうなんですか?」
「実際、あんたより強い人はいたはずよ。そういう人達はある程度年を取っているだろうし、完成されつつあっただろうからね。それ以上の成長は見込めない人達よりも若くて未熟で将来有望なあんたが選抜されたんだと思うけど。疑問に思わなかった?」
「思いましたけど」
「ダンは磨けば光る原石だからね〜。教えがいがあるよ」
「そうですか」
楽しそうに笑うアルカを見てなぜかダンの顔が引きつった。