第十二話 オーガ退治 後編
ここから話が動きます。
これがきっかけでパーティーメンバーの仲も変化します。
「さて」
アルカは片手を上げ、火の雨を出現させる。
「すべて燃やし尽くせ!」
手を振り下ろした。
その結果を待たずに走り出す。
「キサマ!ヨクモドウホウヲ!」
私に向かって振り下ろされた腕を紙一重でかわし、さらに踏み込む。
聖剣を大剣に変化させ、大上段に振りかぶるとまっすぐに振り下ろした。
オーガは綺麗に真っ二つに分かれた。
まずは1体。
大剣を真横に構え、魔力を練る。風属性の魔力を纏わせ、横に振るった。
その斬撃で周辺のオーガは一刀両断され、一掃された。風属性の魔力を体にも纏わせ、次々にオーガを斬っていく。
「貴様ラ人間ナド捻リ潰シテヤル!」
一際図体が大きく、さっきのよりなめらかに言葉を話すオーガがいた。
「魔王様ノタメニモ人間ハ殺シ尽クス!」
魔王様?……魔王!
振り下ろした腕を避け、聞き返す。
「魔王に会ったことがあるのか?」
「アルサ。直々ニ声ヲカケテモラッタ!ソコラノ奴ラト一緒ニスルナ!」
腕を大剣で受け流し、さらに踏み込む。左下から右上へと斜めに斬った。
「ナッ…!?」
「力任せに振るうだけの攻撃なんて避けやすい。当たらなければ無意味だ」
これで2体。もう1体は?周りのオーガを斬り刻みながら見渡すとガルドの方に行っていた。
「エレナもいるし、大丈夫か…」
とりあえず周りにいるオーガを殲滅させてから向かうことにした。
メイは唖然としていた。
「あいつ、魔法使えたの!?」
セリカさんも静かに驚いていた。
当然だ。魔法を使える人間は少ないのだ。理由は様々あり、戦乱の世であること。技能と知識が必要であること。また強力な魔法を使える者が少なく、武力行使のほうが手っ取り早かったことなどが挙げられる。
そして使う者が少ない土属性。オーガの攻撃をすべて防ぎ切っている土壁を一瞬で構築した。
「しかも無詠唱。呪文すらもない…」
ありえないとメイは口の中で呟いた。
ガルドやダンは魔法を使わないからこの異常さがよくわかっていない。エレナさんは状況に付いていくのに必死でそれどころではないだろう。
「メイさん、交代します」
ダンがこちらに来た。
魔力は回復している。問題はない。
「わかったわ」
後できっちりと説明してもらうんだから!
ガルドは疲れていた。精神的に。
予想以上の数にエレナの護衛、ダンの危機、勇者の魔法。ただでさえきついのにいろんなことが起きすぎた。主に勇者のせいだな。
エレナもよく集中力を切らせず、持っている。たいしたものだと思う。
そして何より上位種がこちらに来たのだ。
エレナの攻撃魔法や俺の攻撃があまり効いてないようで厄介だ。
つまり相性が悪い。
エレナの攻撃魔法は光属性でアンデッドといった一部の魔物には効果的だが、こういった魔物には効きにくい特殊な属性だ。それにそもそも彼女は攻撃魔法が得意ではない。
俺の武器である斧も叩きつけるもので図体もでかく、力も強いオーガには効きにくい。
ちなみにダンの場合は経験や戦術が浅かったために手こずっていただけである。
勇者?あれは例外だ。
つまり決定的なダメージを与えられずにいた。
このままではやばいな。
冷静に状況を分析した結果、あまり状況は良くない。敵はかなり減っているが問題はエレナだ。
体力的にも精力的にも限界に近い。むしろよく持っていると言える。そういう意味ではダンよりエレナのほうが精神的に強いのかもしれない。
その時、空から火の矢が落ちた。
「助太刀に来たのだけどいらなかったかしら?」
そこは普通に助力に来たでいいと思うが、素直にそう言えない辺りがメイらしい。
「いや助かる」
そこから戦況は一方的になった。
俺とメイで上位種の相手を、セリカとエレナが周りの相手に俺らの補助と上手く回った。
その姿はパーティーだった。
いつもは個人で戦い、フォローやサポートをたまにする程度だった。だがようやくパーティーとして機能し始めたのだった。
オーガとの戦闘が終わり、まったくの無傷ではなかったが重傷を負った者はなく、無事に町に帰って来た。さすがにダンやエレナ、メイは疲れ果てていたので体を清めてから部屋に戻った。
ガルドやセリカも疲れたもののダン達ほどではなかった。これが実力や経験の差だろう。
その後、町は宴会になった。みんな酒を飲み、笑い、泣き、それでも今生きてることを、オーガがいなくなったことを喜び、また亡くなった者の冥福を祈り、騒いだ。当然、その中心は勇者達パーティーである。3人は寝てしまったが。
彼らは手の平を返したように勇者を褒め称えた。
その様子にガルドは眉をひそめるが何も言わず、酒を飲み、騒いだ。
「おい!お前!」
アルカが宴会を抜け出すと子供の声がしたので振り返る。
「お前がオーガを倒したんだってな」
男の子はまっすぐに私を見た。
「お前がもっと早く来ていたらお父さんもお母さんも死ななかったんだ」
その子は何かを我慢してるような顔をしていた。
「でも、お前がお墓で鎮魂歌を歌っているのは知ってるんだ」
静かに少年を見返し、話を聞く。
「僕より少し年上の女の子が勇者で、あのオーガを倒せるくらい強くて…」
少年はうつむいた。
「何でもっと早く来なかったんだよ。もっと早く来てたら…お父さんとお母さんは生きてたかもしれないのに…」
少年の体が震える。
「わかってるよ!仕方ないことだって!これはただの八つ当たりだって!でも、やっぱり…、生きててほしかったんだ!…僕は…!…僕は!…うっ……うぇ〜ん!」
少年は突然泣き出した。
「何で死んだんだよ〜。何でだよ〜。何で…」
少年に近づくと、そっとその体を抱き締めた。
少年は抱きつき、さらに大きな声で泣いた。
毎日投稿はこの話で終わりです。
毎週土曜日に投稿します。
では、一週間後に。