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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

迷い路話

塗り絵のように彩られ

作者: 迷烏

白い紙に、そのものとは違う色で彩る塗り絵のように―――――

色鉛筆、それがワタシの使う道具。

もちろん用途は色を塗ること、そう、塗り絵のため。

今日の課題は果物の籠盛り。籠とバナナと蜜柑と桃と葡萄が書かれた紙、真っ白に線だけで書かれた紙に、ワタシは色鉛筆で色を塗る。それがワタシのやるべき事。

さっそく始める。まずは赤い色鉛筆を左手で持つ。

躊躇(ちゅうちょ)躊躇(ためら)い抵抗一切無く、手に握る色鉛筆で葡萄を塗った。

真っ赤に染まった葡萄を見てから使った色鉛筆を置き、新たな色を手に持つ。

再び、色を紙に乗せて線に囲まれたものに彩りを与える。

一つ彩ったら色を変えてまた一つ、また一つと彩っていく。

最後は籠、新たな色鉛筆を使い、彩る。

……よし、

「……出来た」

赤色の葡萄、緑色のバナナ、黄色の桃、黒色の林檎と、茶色の籠。

「カンペキ!」

「なわけあるか!」

すぱーん!

「はぅ!?」

いきなり頭を叩かれた。

「……なにをしますか?」

睨むように叩いた奴を見る。

「色違いすぎだろ!」

「なにを言います、どこが間違ってるというんですか」

彩った紙を向ける。

「全部だよ!」

「はっ、分かってないですね」

仕方ない、一つずつ説明してやろう。

「赤い葡萄に、若いバナナ、黄桃と、腐った林檎だ。どうだ、どこが間違ってると言うんだ!」

「最初っからだ!」

すぱーん!

「はぅ!?」

また叩かれた。

「何でお前は普通の絵を描こうとしないんだ。こんなあり得もしない組み合わせを描いて」

おや? 今のは聞き捨てならん。

「……なにを言います先生」

叩いた本人、先生に向けて紙を付き出す。

「これがあり得ない、普通では無いなんて決めつけるのはおかしいですよ。こういう籠盛りは絶対に無い、その考えの方が普通じゃないですよ、頑張ればこれぐらい作れますよ」

「ぬぐ……」

先生は口ごもった。

言い返しが出来ないような言葉を言うもんじゃないね。にひひひひ、




「全く先生の奴……ぶー」

まず、美術の授業で塗り絵というのが変わっているんだ。なのにこう、美術的に塗って何が悪いのさ。

なのに先生の奴、居残りで片付け手伝わせやがって。

「ふむ…………にひひ、」

机の上にあった紙に、自前の色鉛筆を走らせた。

赤やら青やら緑やら、絵を描くという時点で答えは無いから自由に真っ白い紙を彩っていく。

そして、ちょうど赤が折れて使えなくなった時、

「出来た!」

完成した。しかし、

「なんだこりゃあ!?」

自分でも分からんもんを書いてしまった。

「うへぇ、たまにやってしまうこれはどうにかせんきゃならんかなー」

「そうでもないんじゃないかな?」

「え?」

紙から顔を離すと、前には女の子がいた。

縦やら横やらの線の模様、例えるなら、迷路のような模様をした服と帽子を身に付けている女の子だ。

「……どちらさま?」

とりあえず学校の生徒じゃない。

「面白い絵だね〜」

質問はスルーですか。

女の子はワタシの持つ絵を見て呟いた。

「何を書いたの?」

「……さぁ?」

「へ?」

「これがなんだか分かる人がいたら、ワタシはその人を変わり者って呼ぶよ」

書いたワタシが分からんのだから、正しい答えは無しに等しいのだ。

「ふぅ〜ん、私は好きだけどな〜コレ」

ほぉ?

紙を女の子に取られる。

「なんて言うのかな? うまく説明出来ないけと……うーん……」

よく分からん絵を見ながら全く分からん女の子がうんうん唸っている。

改めて見れば、女の子はワタシより一つか二つ下くらいに見える。どっかの学生が演劇部の手伝いに来て、衣装のまま校内を歩いてる。って感じか?

「なんか、自由に自由を絵に書いた、ってカンジ?」

……ほぉ。

「なるほど、なかなかに面白い評価をしてくれるね、変わり者ちゃん」

「あれ!? 私変わり者扱いされてる!?」

「当たり前でしょう、この絵になにか意味をつけた時点で変わり者扱いは決定なのですよ、変わり者ちゃん」

「うーわー……分かってはいたけど、いざ言われると何だかな〜」

「誇っても良いのだよ、にひひ」

「ふむぅ……まぁいっか。ちょうど良さそうな人だから♪」

にひ? 良さそうな人?

「てか、変わった喋り方だね? 女の子でしょ?」

「悪いかね?」

昔からこうだ。周りには統一性が無いだの、もう少し女の子っぽい話し方をしろだの、せめてその変な笑い方をやめろだの言われる。

別にコレで良いじゃないか。誰も困りはしないし、なによりワタシが似合ってると思うのだ。他は誰も認めないがな。

「ううん、ぜんぜん。むしろ似合ってるよ♪」

ほぉ……悪くないね。

「という訳で……はいコレ♪」

女の子はどこからか取り出した紙の束を机の上に置いた。

「コレは?」

よく見ると、白い紙に黒い線縁だけの絵が描かれている。塗り絵だ。

「コレ、全部の色塗ってくれないかな? どれをどう塗ろうがそれはアナタの自由でいいから」

いきなりなにを言い出すのやら、先生に言われて掃除をしていたワタシに塗り絵をしろと?

「うむ、任されよう」

やるに決まってるじゃないか。

「自由でいいのだな?」

「もちろん♪アナタの思うがままに彩ってよね♪」

「その言葉、後悔するなよ変わり者ちゃん」

「しないよ、むしろ自由に彩るアナタが気をつけてね♪」

? なぜワタシが心配される?

「それじゃ、しばらくしたらまた来るね♪」

変わり者ちゃんは美術室を出ていった。

よし、彩りまくるとしよう。

色鉛筆を手繰った。


まずは鳥が二羽羽ばたいている絵、片方は緑、もう片方は茶色に彩った



次は車の絵、タイヤを黄色、車体を白、明るい車が完成した



続いては犬の絵、躊躇い無く青で塗り潰す



花の絵、種類は多分桜だが、黒で花を、幹を紫で彩る



自由でいいなら、自由に自由に彩っていいなら。こんなにもうまく出来るのに。

まるで子どもの落書きだ。なにを言う、画家の絵には子どもの落書きとの区別がつけられないものもあるだろうに。

要は見る人の見方一つ、良作が悪く言われるか駄作が良く言われるかじゃない。見た人が好きならスキで嫌いならキライなだけなのに。



なのになのに  なのに

















なの…………………にひ、





















にひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、












「さぁーて、後一枚、」

最後の一枚は空の絵。太陽が登ってるけど、ここはやはり夕焼けでしょう。

とりあえず太陽は白で塗っておいて、赤……

「……あれ?」

赤の先が折れていた。あぁ、そういえばついさっき折った気がしたな。

鉛筆削りは……無い

美術室だし、他の色鉛筆は……見当たらない

仕方ない、他の色鉛筆……全部折れてる。唯一の白も今の太陽で終わった

でも赤がいい、赤が、赤、赤じゃなきゃダメだ。


赤、どっかに赤、赤はないか? 赤ないかな〜……

「ふむ……」

ふと、右手を見た。

……赤いな、肌の色の奥に赤の色がある。

かなりの赤、いい赤、赤、まっ赤、……使いたいな。

左手に握った先の折れた色鉛筆(白)を振り上げ、右手を紙の上に置く。


そしてそのまま……






ブン









「こら! 何をしている!」

「……」

寸でのところで止めた。

「掃除が済んだのなら報告に……て、何だこれは!」

見れば彩った絵は床一面に散らばっていた。

「何故汚している!」


「……」


赤……赤……


「聞いているのか!」


「……」


赤、赤、赤、赤、赤、赤、


「何とか言ってみろ!」


………………………にひ、


「赤」

「は?」










ザクッ













よーし、カンペキ! にひひ♪










にひひひ…………












                                         カラン








「……」

「やっほ〜出来たかな〜?」

「……」

「おぉ! 全部出来てるじゃん!」

「……」

「やっぱり凄いな〜、私絵はぜんぜん出来ないからうらやましいよ」

「特にこの赤、かなりまっ赤でスッゴいきれい♪」












「…………………にひ、」














「え?」

「お褒めにあずかり光栄だね!」

うつ伏せだったワタシはがばりと起き上がった。

「うわぁ!? い、生きてる!?」

「なにを言う、ワタシが死人に見えるか?」

「え? でも迷い路に迷って……それにこの赤、どう見たって色鉛筆じゃ……」

「あぁ、その赤ならちょうど色鉛筆が使えなかったのでな、変わりを使った」

白い色鉛筆を見せた。すでに木に染み込み、先が赤黒い白い色鉛筆を。

「その赤は良い、ワタシもそう思うよ、唯一奴の中に見つけた良いところだ」

「うわちゃ〜」

材料の元を指差すと、それを見た変わり者ちゃんは、やっちまった。という顔になった。

「どうした?」

「う、ううん、何でもないよ?」

「そうか、しかし……こういう彩りをもっとしたいな。変わり者ちゃん、もう塗り絵は無いのか?」

「え? 無くはないけど……そうだ♪」

変わり者ちゃんはなにやら思いついたように指を鳴らした。

「私の手伝いをしてくれたら、塗り絵をあげるよ♪」

「手伝い?」

「うん♪アナタもちょうどよく迷ってるようだし、後はマスターがどうにかしてくれるから、私と一緒の事やってみない?」

ふむ、なにかよく分からんが。

「塗り絵をくれるならやってやろう」

「決まり♪じゃあまずは名前を決めなくちゃ♪」

「名前? ワタシの名前は……」

「ストーップ!」

「むがむが」

名前を言おうとしたら急に口を押さえられた。

「ふぁにをする、ふぁわいもをひゃん」

「名前は今からアナタが新しく決めるんだよ」

新しく?

「ふむ、新しくか……」

芸名みたいなものか。

「ならば……」

「ならば?」


「奇才・イロドリーナ」


「えぇー……」

おや、引かれている。

「それはちょっと……私も呼ぶのためらうよ」

ふむ、良いと思ったのに。

「では、無理やり漢字を当てて、彩菜(あやな)

「おぉ!? いきなり普通! しかもかわいい!」

「ちなみにこれで(イロドリ)(ーナ)と呼んでもよし」

「それは遠慮するよ♪」

にこやかに否定されてしまったが、まぁ良いだろう。

「よろしくね♪彩菜ちゃん♪」

む? 今のは聞き捨てならん。

「変わり者ちゃん、君はいまいくつだ?」

「え? 多分……14?」

「ワタシは16だ。年上にちゃん付けはやめたまえ」

「えぇー」

「彩菜さん。あるいはイロドリーナと呼べ」

「じゃあ彩菜さん」

そんなにイロドリーナは嫌なのか?

「うむ、では君の名前は?」

「私は、一本道迷子、メイコでいいよ」

「よろしくな、メイコ」

「こちらこそ♪」

「うむ」

「あはははは♪」

「にひひひひ、」







ワタシはイロドリーナ。

またの名を彩菜。

ワタシは自らの彩りの為に、迷路の案内人をすることになったので、これからよろしくな……にひひ、


迷い路話、新たな案内人の登場です。

すでに彼女は幾人もの人を行き止まりに送っています。

その理由は、彼女自身のために……


それでは、

感想及び評価、お待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 彩菜ちゃん・・・ いいですね~ 理屈っぽいところとか、軽く病んでるところとか、 活躍期待してます。 P.S. 目玉焼きに砂糖 試してみました。 醤油や塩などとは違うタイプの味だったけ…
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