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Darker Holic  作者: 和砂
side4
97/113

side4 悪役と聖剣3


 今まで愛機である漆黒機のコックピットが仕事場だった鏡花であるので、このコントロールルームに座っていると、広すぎて緊張する。鏡花の手の回っていない分野、特に迎撃用の接近防御レーザーガンやジャミング弾、攻撃用の対宙ミサイルにブラスター砲の調整、確認用のレーダーとミラーの操作をテストしている蘇芳を盗み見、すぐ隣に歴戦の戦士様がいらっしゃる状況を心強く思った。元No.2の彼なら、この飛行艇どころか戦艦も動かした事があるのかもしれない。負けてられないなと、鏡花はトーヤの合図で全神経を≪感応力≫に使い、要塞から変形した飛行艇を動かした。

 滑走路がほとんどない状態での離陸である。この要塞にあるオーバーテクノロジーか、離陸時は土台として残っている部分に反発的な磁場を形成して行うようだが、予測データを見るに、あまり穏やかにいけなさそうだ。しかし≪感応力≫を使う鏡花の事、イメージとしては足元の反発力から高くジャンプする感じで動かす事ができるので、他の人間より成功率が高いだろう。ただ、飛び出す角度だけは間違えないようにしないとと、次第に傾斜がつくコントロールルーム内で唇を舐めた。




『皆さま、シートベルトの準備はよろしくて?』




 適当に見つけてきたインカムで全室に放送すると、一番問題があったケンタウロスであるガロンが何とか返事を返してきた。早めに離陸して風に乗った方が良さそうだ。鏡花の気合い入れと共に、ヴゥンと≪感応力≫による半透明の情報の流れが形成される。瞬き少なく情報を目で追っていた蘇芳もまた、離陸準備に取り掛かっているようだった。鏡花が微かに口ずさむ動作確認に、彼の復唱が入る。




「各システム異常なし」


「各システム異常なし。アクチュエーター正常作動」




 ≪感応力≫で出現した情報の流れは、加速し、全館に沁み入るようにして消えて行く。機関部から低い唸り声のような駆動音が響いて来た。




「ニュートラムよし。カタパルト作動」


「カタパルト作動よし。オープンフェーズ起動。……鏡花、もう少し右に」




 鏡花の指以上に、ひっきりなしにキーを打ち込んでいる蘇芳が、レーダーを見ながらそう言った。左に寄る癖のある鏡花だったので、言われた通りに軌道を修正する。離陸後、空に浮かぶ穢神の戦艦の後ろを取りたい所だが、装甲が一番薄いのが正面にあったため、どうにか死角になる部分を狙って飛び出そうとしているのだ。ぐるぐると目が回りそうな画面の見方をしていた蘇芳だが、鏡花の計算と合わせて一致した所で、頷く。

 それに合わせて鏡花も目を細めた。彼女の意思に従って、飛行艇の後方に力場が出現。まるで魔法陣のような紋様の磁場と飛行艇のブースターが反発し合う。ぐっぐっぐっと飛行艇全体を揺らす駆動振動をギリギリ我慢して、エネルギー値が上昇するのを待った。




「カウント、30、20、10…」




 オペレーター変わりの蘇芳のカウントに、鏡花は体の熱がごっそり飛行艇に流れるのが分かった。両手に握ったレバ―を自然な動作で倒し、ぐっと体に掛かる圧力ににやりと笑みを浮かべる。




飛行艇バリスタ、発艦しますっ』




 鏡花のオペレートが入ると同時に、一瞬、視界が白む程光ったかと思うと、体を後方に押し流すような圧力を感じて飛行艇は、ばしゅっと宙に飛び出していた。鏡花がバリスタと表現した通り、切り裂くようにして機体が上昇する。外は雨が止んで強風だったらしく、瞬間瞬間で軌道を戻すのに鏡花と蘇芳は精神を使った。ぐんぐんと直線状に上昇していた飛行艇は、重力から次第に解放され、風を掴んで水平に機体を持っていく。やっと一息つけた体勢となった飛行艇だが、鏡花は一等顔色が良くなったガロンとルル達にもう一度注意を喚起した。




『申し訳ないけれど、これからが大変よ。覚悟してくださいな?』




 面白いように顔色を変えたガロン達を見て鏡花が苦笑した直後、タイミング良く蘇芳が「来たぞ」と情報を寄越してきた。二十四門のミサイルをレーダーで確認する。




「もう少し高度が欲しいわ。旋回する」


「死角だけは作ってくれるな、よ――っ」




 回避運動と同時に、螺旋を描くよう上昇していく飛行艇。操縦である鏡花に念押しし、蘇芳はレーダーに映る熱源の六割の軌道計算を終え、迎撃した。残り四割については、何故か不服そうな表情をすると、予測軌道を考えずにそのまま撃ち落とす。




「シューティングも得意だったの?!」




 レーダーと≪感応力≫からの情報、自分の視覚からそれを見ていた鏡花は、口笛を吹いて見せた。それに蘇芳は画面を見たまま「攻撃が単純だ」と返す。実際の所、嗜む程度の遠距離攻撃だが、予想以下の単純攻撃に蘇芳は拍子抜けしたらしい。相手が裏の裏まで読む人相手でなく、機械の反射行動を感じたと零した。




「迎撃回避運動もしない攻撃に、時間はかけん。数を揃えられる前に、突っ込め。装甲も吹き飛ばしてやるっ」


「了解。左舷に熱源反応。アレをどうにかしてくれたら、正面から行ってあげるわ」




 言って鏡花は遠心力を気にせず、ぐるんと旋回すると、目標地点をレーダーだけでなく自分の目でも確認して、一瞬だけフェイントの加速をかけた。こちらの熱源に反応して来るミサイルを、蘇芳がジャミングをかけて方向を狂わせる。




「左へ」




 言われるまま少しだけ進路をかえると、不思議と追尾するミサイルが一直線に並ぶ。鋭く蘇芳がキーを叩き、レーザーガンが撃ち抜いた。爆発。その軽い衝撃を切っ掛けに、鏡花はブースト加速をかけて前進する。


 ―――バババババババッ


 開閉式の扉の隙間に似た敵艦の正面に突っ込むと、左右から攻撃の為のミサイル門が開いた。数を揃えてきたと、鏡花はさらに加速スピードを上げ、それから敵艦にレーザー充填反応を見つけ、鋭く叫ぶ。




「敵艦、レーザー反応っ」


「恐らく、こちらの感知レーダージャミングが目的だ。回避はしろ。フォローする」




 出力の小さいレーダーの反応に、飛行艇にある防護シールドで弾けるとも思われた。けれど、レーザーは防護シールドに弾かれた際に、周囲に拡散しレーダーを乱す。先程の攻撃で簡単に迎撃できたので、それを邪魔しに来たのだろうと蘇芳は言った。瞬間、ぐいっと機体を垂直にする鏡花。真横に熱を感じた彼女の直感だったが、鼻先をミサイルが通り過ぎたのを見て、ひやりとする。迷っている暇もくれない。




「道は作る。飛べ」




 言って、蘇芳は迎撃用のミサイル全八門を開くと、その全てを着火させた。先行するミサイルのいくらかは敵に相殺されたものの、続けて蘇芳が撃つ、撃つ。爆撃に視界は役に立たないと、≪感応力≫の勘とレーダーを信用して鏡花は飛行艇の最高速度で突っ走った。




「キョ、キョーカぁ!?」




 トーヤの情けない声が聞こえたが無視。ちりっと何かかが掠った感覚もある。蘇芳が撃ち落としきれなかったそれを反回転、降下、上昇と無茶な運転をしながら、鏡花は先に見えた、敵ブラスター砲の中心を見てにやりとした。




「目標発見。エネルギー集約中っ」


「―――遅い」




 鏡花が言えば、既に照準を定めた蘇芳が、こちらのブラスター砲のスイッチを押していた。


 ――――シュンッ


 一本の細い光が、敵ブラスター砲に吸い込まれていく。鏡花はそれを見送る前に、機体を大きく捻り、上空へと逃げていた。刹那、集約されたエネルギーをこちらのブラスター攻撃で着火させ、爆発が起こる。




『対ショック防御ぉぉっ』




 鏡花が全員に向けて叫んだ。曲芸のような飛行に付き合わされたガロンは蒼白、ルル達も甲高い悲鳴を上げる。鏡花は普段通り、無意識に、自分が受け身を取る形で機体を動かしていた。早く移動できたのはあるがそれでは不味いと、蘇芳は軽く目を細めて飛び込んでくる光に耐え、後から湧き出てくる轟音と衝撃に備えて爆風の計算、機体を傾ける。

 くるくるくると錐揉み状に爆風を受けた機体は、蘇芳のフォローで被害らしい被害はほぼ無く、次に鏡花は機体を立て直すと、上空から一気に下降した。目標は、敵艦正面、ブラスター砲破壊跡。先頭のシールドを強化して展開し、もう一度鏡花は吠える。




『舌ぁ、噛むわよぉぉぉっ』




 ――――――ゴゴゴォウッ!!


 初め、破壊跡の無残な個所はシールドによってさらに押し広げられ、スピードの乗った機体の体当たりに残った鉄柱も圧し折られる。衝撃は結構なモノで、前後に体を引っこ抜かれるぐらいの圧力がかかり、乗っていた全員の悲鳴を呑みこんだ。

 かくいう鏡花も、着地の際パネルの角に頭をぶつけたようで、一瞬気を失っていた。鏡花が前後不覚になった事で、≪感応力≫も止まり、彼女の手からコードが離れる。そんな彼女を起こしたのは、着地の衝撃が落ち着くなり彼女と蘇芳に駆け寄ったトーヤであった。




「キョーカ!! スオウ!!」




 まさか死んではないだろうかとの心配顔の彼は、蘇芳はゆっくりと起き上がった事にほっとした様で、「心配かけさせんなよ~」とへたり込む。随分荒っぽい着地だったものの、見渡した所全員無事で、鏡花も「あぃったたた…」と頭を押さえて呻いていた。




「皆、大丈夫?」




 ハンドルを握ると性格が変わるのか、起き上がった鏡花は痛む頭を押さえてそう言った。それにガロンが少しよろけながら「もう少し、慎重に飛んでくれ…」と苦言を返す。苦笑いする鏡花の横、あんな事があった後なのに平然としている蘇芳は、一時ショートしてしまった開閉ドアを手動で操作すると、蹴り開けた。




「ブラスター砲は完全に破壊。内部通路まで通れそうだ。いくぞ、トーヤ」


「あぁ。早くリィルを助けないと」




 蘇芳に促され、ひょいっと跳び起きたトーヤは、聖剣を呼びだして掴んだ。ガロンも気を取り直して槍を手にし、ベル、ルル、クルリ、ゼウスと皆が順に侵入した。最後の鏡花は、一応脱出用に飛行艇のプロテクトをかけて出入り口を閉じると、その集団の後ろについていく。




「随分静かね」




 先程の爆撃で内部の所々も破壊されているが、それにしたって静かで鏡花は呟く。それに蘇芳も厳しい顔をしながら「先に、北の皇帝と魔族の長が居るはずだが」と周囲を見た。




「気をつけましょうね」




 一番気配に敏感なベルも、それだけ言って柔らかな顔立ちを厳しめにした。一行は、しばらく通路を通って、閉じてしまった出入り口を発見する。戦闘要員としてよりも、そういったプロテクトを解く事を求められての随行の鏡花は、促されて≪感応力≫を使った。


 ――――――ボゥンッ!!!


「「「―――!?!?」」」


 鏡花が扉を開けると同時に、中から穢神の眷属が殺到してくる。それまで敵の気配がなかった所を見ると、ドアと連動する転送ゲートだろうと思われた。悲鳴もあげれない鏡花に瞬時に駆け寄った蘇芳は、彼女を飛び越え、襲いかかって来る蜘蛛型の眷属を回し蹴る。




「トーヤ!!」




 狭い入口のため少数を相手にすることになり、丁度いい練習と、蘇芳は鏡花を庇いながらトーヤを呼んだ。その時には、トーヤも「うおぉぉぉっ」と叫びながら、一刀の元に怪物型のを斬り捨てる。一刀、二刀と斬り結んで、ぐっと力を溜めたトーヤは、「くらえぇっ」と回転するように刃を振り回し、蘇芳より若干前に出た。

 刹那、後方で機会を窺っていたガロンもまた、ドアの向こうへと躍り出る。下半身の馬蹄で踏み砕くようにして眷属を押さえ込み、手の槍で突き倒し、さらに体を持ち上げるようにして嘶いた。その隙間を飛ぶのは、ベルの矢だ。トーヤがさらに斬り込み、ベルの矢が敵を牽制、怯んだ所をガロンが止めを刺す。見事な連係プレーに安心できたのか、突然の眷属の出現に驚き固まっていた鏡花も、ルル達が傍に来て魔法を使う時には、ほっと深呼吸できた。

 バクバクと心臓が暴れている鏡花に、魔法使いである彼女らの周囲に敵を近寄らせないよう格闘していた蘇芳が、「早く立て」と言わんばかりに冷たい目を寄越してくる。相変わらずクールだ――もちろん悪口である――と鏡花は苦い顔をし、そろそろと立ち上がった。ランクEを戦闘要員に数えないでほしい。




「スオウ、敵が多いっ」




 眷属を倒しながら前進するトーヤ達が、状況を大声で教えてくれる。ドアを開けて転移装置が働き続けているらしく、倒しても倒しても湧いて出るようだ。仲間のレベルもこの何日かで上昇した今、眷属相手に苦戦はしないが、先に進めないのだろう。




「トーヤっ!! ワシらに任せて、先に行け」


「そうよ。リィルをよろしくね」




 ガロンとベルがそう言って、敵を引きつけ始める。ルル達もまた杖を構え、「恩に着てよね」と同じく行動し始めた。素早く蘇芳がゼウスにルル達の補助を頼み、鏡花の手を掴んで走りだす。




「行くぞ、トーヤ」




 トーヤを追い越す際にそう声をかけ、後は後ろも振り返らず、必死でついて行く鏡花に構わず、先行する。




「皆、ありがとうっ」




 トーヤは蘇芳を見、一度だけガロン達を振り返ると、蘇芳と鏡花の後ろを追い駆けて行った。


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