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Darker Holic  作者: 和砂
side4
89/113

side4 悪役と正義の仕事11




「ねーぇ」




 コントロールルームの階上パネルに頬杖ついた鏡花が、誰ともなく声をかける。件の人物は同じく階上で、気になっているらしい演算の続きやら、地図上で北の軍隊や南のブラスター砲があると思われる地点を確認していた。その作業を続けながら、蘇芳。




「何だ」


「確か、特殊空間にあるメタルは、手強いガーディアンに守られているって予測だったじゃないの」


「そうだな。エネルギー反応もあったので確かだろう」




 片手間ながら相手してくれる蘇芳から視線を外し、鏡花は階下を眺める。




「そのわりには、早く帰って来たじゃない。何かしたの?」




 彼女の視線の先には、どうだとばかりにリィルに渡すトーヤが居た。リィルがもう一人の聖剣の主だと隠していた事など彼方にやってしまった様子で、彼と彼女の親密度はいつになく高い。その様子を見ているわけでもないだろうが、蘇芳は愉快そうに軽く息を吐き、「さてな」と空とぼけてみせた。それから彼は、やってきたトーヤとリィルの二人からメタルを受け取ると、無造作に機械の中に突っ込み、操作を始める。

 一時間は経っただろうか、要塞の稼働を感じた鏡花が口を開いた。




「……エナジー炉が回復したお陰で、様々な機能が稼働し始めたようよ」


「これでもう安心だな、キョーカ」




 いつの間にやって来たのやら、先ほどまで鍛冶屋の親父と何事か相談していたトーヤが鏡花に声をかけた。振り返れば、少年らしい笑みはそのまま、本当に何があったのやら、どこかたくましい様の彼の顔がある。

 出来のいい弟みたいに思えるファートとはまた違った、でも頼りがいのある顔になってきたトーヤ。やっぱり、その原因だと思われるのは、件のお兄ちゃん、なわけであるが、彼は黙秘を続けていた。




「まだ安心するには早いわよ。敵からのブラスター攻撃は、あれで終わりじゃないわ」




 高エネルギー反応が続いているし、単発のブラスターなんてありえないと鏡花が諭すと、蘇芳が被せてくる。




「敵のブラスター攻撃は、要塞の南東地点から発射された事が判明した。問題は、この地点に再び高密度のエネルギー反応があることだ。どうやら、さらなる攻撃の準備をしているらしい。次の攻撃が来る前に何とかしなければ、不味い事になる」


「わかったよ。また、あんな事されたら、堪んねえもんな」




 阿吽の呼吸というわけではないが、やっぱりどことなくファートと一緒に居た時の様な、そんな空気を感じて鏡花は軽く眉根を寄せる。そんな彼女を放っておいて、蘇芳は慣れた様子でレーダーを出して見せた。鏡花は特にやることも感じなく、あとは二人に任せて階下に降りる。




「ねぇ、キョーカ。ブラスター砲は何処にあるのかしら」




 トーヤと違い、生真面目なリィルはそう鏡花に尋ねてきた。最後まで下りてしまうと、鏡花は蘇芳が言った言葉を繰り返す。

 どこかもやもやした気持ちも話をしているうちに消えて、鏡花はおどけてみせた。




「というわけで、リィル。何とか敵のブラスター砲を破壊出来る?」


「わかったわ。キョーカもスオウも、マスター使いが荒いのね」


「ふふっ。申し訳ないわね。これからは少し気にかけるわ」




 二人でクスクス笑い合うと、階上からトーヤ達も下りてくる。すると、それまでにこにこと話をしていたリィルがそのまま、「ねぇ、トーヤ」と声をかけた。




「トーヤって、何が好きなのかな? 私はあんまり料理が得意じゃないんだけど、何か作ってあげようかな…って思って」




 おっと、と目を見開いて、次にはするりと後ろに二歩下がった鏡花は、展開に期待して目を細めた。何の空気か読めているのかいないのか、同じく下がった蘇芳と二人で眺める先で、トーヤの顔の変化はなく、普段通りに口を開いた。




「ああ、ベルの作ったもんなら、何でも好きだよ。あいつ、料理、上手いよな。量もタップリだしさ」




 きゅっと鏡花の口が噤む。横を見上げれば、蘇芳も拒絶を示す様に閉眼をしており、他人でもわかる空気の変化に、鏡花は先ほどの頼りがいのある雰囲気は幻だったかと思った。案の定、リィルはエルフの弓師の名前を出されて不機嫌に変わる。




「私が作るって、言ってるでしょ! ちゃんと聞いてなさいよ!」


「うわっ、何で怒るんだよ!?」




 折角の良い雰囲気が台無しと、鏡花はじゃれる二人を眺めた。喧嘩というより、じゃれているようにしか見えないものの、若い時の拗れは周囲に怖い。どうか、今日の献立が荒立たないように祈るばかりである。気分的に十字を切りたい鏡花だったが、背後からケンタウロスの戦士に声をかけられて振り返る。




「次の攻撃の前までに破壊出来るだろうか」




 彼が気になっているのは、鏡花らと同じくブラスター砲の脅威であるが、それに彼女も困った様に話した。




「比較的要塞に近い、南東の砂漠地帯にある様ですわ、ガロン様。こちらの要塞のモノと違い、エネルギーを溜めるまでに随分時間がかかる事がネックの様です。明日にトーヤが出発してくれれば、十分間に合うと思います」


「うむ。そうか」




 ほっとしたようなはにかむ笑顔を見送り、再び鏡花が視線を戻すと「女ってわかんねぇ」と蘇芳と話すトーヤが居た。ちょっと考え、鏡花は軽くため息をつくと腰に手を当てて助言した。




「案外、女の子も単純なんだけどね。少なくとも、今日の料理を作るのはリィルなんだから、食べたら不味くても笑顔で”美味しい”って言えば良いのよ。絶対ね」



















 翌日早朝にトーヤとガロン、ルルの、攻撃力が高い三人でブラスター砲の破壊に出てもらい、蘇芳はやっぱり演算の続き、他のメンツは各自のんびりと過ごし、リィルは本を読むと自室に戻ってしまった。

 要塞の機能も問題なし、腕輪とインカムの機能は相変わらずで手持無沙汰な鏡花は、以前からリィルが不安に思っている内容を直接本人に確認しようと彼女の部屋へ足を運ぶ。しかし、彼女の部屋に近づくにつれて話声が聞こえるのに気付き、銃を抜いて息を殺した。こっそり入口から見れば、女の子の部屋に遠慮もなく堂々と、北の皇帝が居るのを見て眉根を寄せる。




「あのような幼稚な性格では、出来る話も出来まい」




 その声が聞こえ、恐らくトーヤの事だろうなと鏡花は軽く目を閉じる。そのまま話を盗み聞きしていれば、どうも彼は聖剣が二本あることに気付いて、リィルに圧迫をかけている様子だった。

 北の帝国といえば、初代聖剣の主が起こした国とされているので、資料が残っているのだろう。リィルも北の帝国出身だったはずだ。

 一度、北の帝国へ侵入し、資料を漁った方がいいだろうかと鏡花は一考する。だが、思考していたのも短い時間だった。




「盗み聞きとは悪趣味だぞ、管理者よ」




 思った以上に近くで聞こえた皇帝の声に、鏡花は転がり出て銃を突きつけていた。同時に、顎に冷たい感触が来てびくりとする。剣が振られていた事に全然気付けなかった彼女は、一度目を見開いた後、ぎゅっと眉を寄せた。戦闘ランクEだというのが、心底残念である。




「そちらこそ。未成人の、女性の部屋に無遠慮に入るだなんて、どうかしてますわ、皇帝陛下」


「ふん。震えながらも、強気な事だ」




 何度も修羅場は潜り抜けている彼女であるが、命の危機にさらされる事は少ない。言葉通りに膝が笑っているものの、鏡花は悪役をしている時の表情を作って体に力を入れた。




「それでも、私が銃に手をかけているのをお忘れなく」


「余が剣を突く方が早くても、か」


「あら。女性には優しくするものですよ、陛下」


「くっくっく…」




 鏡花の言動に関心したかはわからないが、小さく笑うと皇帝は剣を下ろした。余裕綽々な彼に警戒しつつも、鏡花も銃を下げると、「キョーカ…っ」と駆けてきたリィルと抱き合う。




「大丈夫!? 変な事されてない?!」


「え、ええ。キョーカも…」




 リィルの肩に手を置いて左右を確認する鏡花に、困ったようにしながらもリィルは頷いて見せた。




「その王家の宝石を持っていれば、我が城に入る事ができるようにしている。お前が恐れる運命、変えてみたくば、余を信じる事だ」


「……っ」




 皇帝の言葉にリィルと見れば、手に確かに大粒の宝石を持っていた。簡単にそれを手放せないぐらい、彼女の悩みは深いのだろう。鏡花に見つかったのを、少しびくりとしている処から迷いの中に居るとわかった。鏡花は困った顔をしたものの、それについてはすぐに視線を外し、皇帝を見る。




「貴方は、何をしようとしているの。聖剣は戦争の道具には出来ないのよ」


「勘違いをしておるようだな、管理者よ。余は、何一つ、恥じるような事はしておらんっ。これも帝国建国当初よりの悲願のためよ」




 鏡花の困惑する視線に、皇帝は澄んだ目で宣言した。

 そうして鏡花はさらに混乱する。この皇帝もそうだが、魔族の長だって、常日頃見る悪役達の濁りかけた表情や目とは違うのだ。どちらもやましい事がない、道徳に従って行動している人間の目をしているのである。蘇芳は誤解があるのだろうと評したが、鏡花はどうして良いかわからなくなった。迷いがあると見たか、皇帝は手ごたえを感じた顔で頷く。




「余の計画を知りたくば、北の帝国へ来ることだ」




 一言そう告げ、彼はリィルの部屋のバルコニーへと歩いて行く。恐らくまた飛行艇で来たのだろうと鏡花はそれを黙って見送った。

 皇帝の姿が消えて緊張が解け、一呼吸した彼女は、ずっと黙ったままのリィルを振り返る。




「……トーヤと、話をしてみるわ」




 難しい顔をしながらも、ポツリとリィルが言った言葉に、鏡花は思わず顔を綻ばせた。少し心に余裕が出来た彼女の様子が嬉しかっただけなのだが、鏡花の変化に彼女は「ち、違うのよ」と慌てだす。




「ちゃんと話す様に、トーヤと約束したのよ」




 益々笑みを深めた鏡花にさらに慌てるリィルへ、鏡花は「良かった」と言った。彼女の柔らかな表情は、けれど次には真顔に変化し、リィルを真っ直ぐに見つめる。




「ねぇ、リィル。聞いておきたい事があるの」


「ええ、なあに」


「貴女が恐れている事よ。私達”管理者”にも、記憶の制限がかかっていて分からない事が多いの。教えてほしいのよ」




 きゅっとリィルの顔が引き締まる。真一文字な口元に鏡花ははぐらかされるかと思ったが、彼女もトーヤと関わる事で変わったようだ。小さく声を紡いだ。




「穢神を倒すには聖剣が必要、………だけど、その前に二本の聖剣を一つにする儀式が必要なのよ」




 リィルから告げられた話に、鏡花は顔色を失っていた。動揺を抑えるように低い声を心がけたが、鏡花と同じくリィルも小さく震えて視線を下げた。ここでやっと鏡花は、リィルが何故トーヤと関わろうとしなかったのかをはっきり理解した。




「二本の聖剣を一つにするには、もう一人の主を倒す必要がある…?」




 鏡花が確認した声に、リィルは耐えきれずにわっと顔を押さえた。緊迫した場面であったが、鏡花は耐えられず、「嘘よ」と呆然と呟いた。直後、SRECから貰った資料を覚えている限り思い出そうとした。そんな事は一言も書いてなかったと断言出来る。

 SRECは正義の味方の会社だ。そんな生臭い話を仕事に持ってくるはずがない。それとも、そんなのは鏡花の先入観なだけで、彼らもDH社同様、汚い仕事をしていたのだろうか。




「嫌がらせってレベルじゃないわ…」




 もし、リィルの話が本当で、SREC側がこの事実を鏡花達に知らせなかったとしたら許せないと彼女は強く思った。同時に、リィルの話が間違っている可能性もあると考える。何か他に方法があるはずだ。だが、その方法が分からない。




「時間を頂戴」


「え…?」


「探すのよ、他の方法を」




 一つ心当たりがあるとすれば、あの皇帝。それから、この施設にある伝承を纏めた書物か。だが前者はともかく、後者は一般の伝承と大差ない内容で、そのために鏡花もSRECの資料を思い出して書き出す事を優先していたのだ。




「聖剣は、聖なる剣よ? 相手の血の代償でどうにかなるモノじゃないわ」


「でも、伝承では…」


「まだ穢神は復活していない。時間があるって言ったのは、リィルでしょ」




 「他の方法が見つかるまでは、私も黙っておくわ」と鏡花はリィルを元気づける。彼女は、小指をリィルに差し出した。




「約束よ。きっとそんな事にはならないわ」


「キョーカ…。うん、約束する」




 細い小指が結ばれる。ぎゅっと軽く力を込め、彼女たちは内緒の誓いを立てた。


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