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Darker Holic  作者: 和砂
side4
86/113

side4 悪役と正義の仕事8

 パネルに手を置いて逡巡、鏡花は険しい顔で階下を見た。




「蘇芳。ちょっと良い?」




 すぐに気付いて階上へ上がった彼に席を譲って横にずれ、≪感応力≫でパネル上を操作する。単調とも呼べる周波数の曲線とその詳細、鏡花の考える以降の影響についても目を通すと、彼女と同じ様に眉根を寄せた蘇芳。




「……おかしい。この信号は、いったい何処から入ってきた…?」




 微妙な空気に途方に暮れる階下と違い、急に慌てだした階上の二人。それに気付き、トーヤとリィルが上がってくる。




「どうしたの」 「何のトラブルなんだよ」




 鏡花と蘇芳、両者ともちらりと彼らを見て、しかしすぐにパネルに視線を戻した。一言二言交わすと、画面上のパネルが鏡花の視線に従って動く。しばらく彼女から話を聞き、眺めていた蘇芳は、ようやく鋭い視線を二人の主に戻した。




「実は……少し前からある信号を受けていたようだ。かなり微弱なもので今までは内容が不明だったのだが、このところ、要塞の機能が充実し、ようやく信号の内容を増幅して解析することが出来た」




 そこで鏡花に視線が移り、彼女はあるグラフを表示する。




「どうやら救難信号らしいの。発信位置と救援を求めるという情報を、繰り返し伝えてきているわ。

 恐らく、この要塞と同時代に作られたシステムが生きていて、この信号を送ってきている……と思われるの」




 鏡花と蘇芳は困惑の表情。SRECの事前の資料にもそうだが、この時代において機能している遺跡があるはずがないとの見解を北の帝国も出している。そんな幻の遺跡が急に現れてしまい、今後の対応をどうするか考える顔であった。




「その信号があると、何が問題なの? 意味がない物なら、放っておけば良いんじゃないかしら」




 本当に、そうであれば鏡花たちも嬉々として放置するだろう。だが、鏡花は唇を噛むようにして思案する。たった今解析が終わったばかりだと考えて、これから要塞内に影響が出るだろうと思われた。このシステムは、要塞内の機関ブロックに関係が深い。




「うわぁ――――ん、こわいよぉ―――っ」


「どうした、クルリ! 何があった?」




 急に響いた魔族のちびっこの声に、びくりと彼らは階下、さらにその下の機関ブロックへ続く扉を見る。こちらに泣きながら駆け寄ってくるクルリに、トーヤは走って降りた。

 怖い怖いと繰り返して、B1に続く機関ブロックを指すのを、一言落ち着かせようと、トーヤは声をかけて駆けていく。だが、すぐに「わぁ!? なんだよ、これ!!」と悲鳴が聞こえたかと思うと、彼も再び戻って来た。




「おい、スオウ! 機関ブロックがとんでもねえ事になってんぞ!」


「……画面に映すわ」




 トーヤの叫びに、「あっちゃぁ」と声を上げて鏡花はパネルを操作した。

 バシュンと強引に映し出された映像には、困惑するケンタウロスの戦士と「わ、私のせいじゃないわよ!?」と狼狽する魔女っ子が居る。彼らの前には鮨詰め状態の防御ロボットの群れがひしめいていた。そのどれもが「救難信号を受信しました」と繰り返しているのだが、ロボに慣れているはずの鏡花も蘇芳も見るなり、うっと呻いた。




「やっぱり問題が出たわね…。全ては救難信号のせいよ。

 この信号、防御ロボット達を指揮する最上位ロボットから発信されているの。それで、彼らは救助に行こうとして、あんな暴走状態になってるってところね。すぐに、救難信号を止める必要があるわ」


「わ、わかった! その信号って、何処から出てんだ?」


「要塞の北東にある古代遺跡から、発信されているようね。でも、今北は……」




 鏡花の視線は、レーダー画面の北側の赤い部分に移る。そこでは帝国軍が偵察目的か、攻略目的か、関所をもうけている場所であった。それに「仕方あるまい」と嘆息するのは、蘇芳である。




「丁度、北の関所の前、ルフール村から東に迂回すれば、いけない事もないだろう」


「………留守を狙われたら?」


「残っているメンバーで迎撃するしかないだろうな。行けるか、トーヤ」




 先ほどまで攻勢のままで経過出来ると考えていたせいか、蘇芳の顔も若干苦しい。トーヤに合図すれば、相変わらず「おう!」と頼もしい返事がくるものの、鏡花たち、物語の裏方からすれば、本物の古代遺物に登場されるのはかなり不味い。と、そんな折、鏡花は「ちょっと待って」と彼らにストップをかけた。




「この古代遺跡はIDが必要だったはずよ。私はともかく、蘇芳、貴方はこの要塞の要だから動けないはず。だから、今度は私が主に付き従って行動するわ」




 途端鼻白んだ蘇芳に「本物が出られると困るでしょう。細工してくる」と耳打ちする。機械関係を手足のように動かせる≪感応力≫の持ち主である彼女が適任なのはわかるので、渋々と彼は目を閉じた。




「そういうわけで、お願い出来るかしら、リィル。

 それと、流石に女の二人旅は辛いの、ガロン様、ご助力お願いしますわ」




 急な指名にきょとんとしながらも頷くリィルとケンタウロスの戦士に鏡花は笑みを浮かべた。苦々しい顔をする蘇芳だが、それも正論と思っているのか特に文句は出ず、「それで良いか、主よ」とトーヤに声をかける。




「おう。頼んだぜ、リィル。必ず助け出してくれ」


「え、えぇ。わかったわ」














 これまで封印していた銃の使用を、彼女は自身に許すことにした。あとはこの世界にもある防刃対策の防具をネ=ギルナから購入して装備する。他の防寒具もリィルと似たようなそれで揃えて、中途半端に長い耳にイヤーマフが使えない事に絶望した。

 旅はルフール村までは単に雪が積もった中を歩いていく程度だったので単純な体力の問題だったのだが、村を過ぎて坑道を行く際から次第に寒さによる弊害を味わうようになる。坑道から出てさらに山中を歩く際などは、吹雪いてきてそれはそれは苦しかった。時折、ケンタウロスの戦士が、その巨体を持って風避けになってくれていたため、文句を言うなど出来ず、けれど吹雪のおかげで特にモンスターに遭遇するわけでもなく遺跡についた。それは、広い氷の湖の先にあり、そこからぴたっと吹雪が止んだせいもあって、三人揃ってほぅっと息を吐いた記憶がある。

 困難といえば、出入り口にはガーディアンのような魔物が居たがリィルの魔法にケンタウロス戦士の突撃、鏡花の≪感応力≫による縛りと銃での止めから勝利し、遺跡侵入の際に、鏡花が少し時間を取られた程度であった。

 何故か、聖剣の要塞のパターンが使用できず、初めから解析することになったからだが、その理由は後から分かる。この遺跡は、実は、穢神の要塞の一部であったのだ。









『エラー発生。エラー発生。エラーの発生源を除去してください。

 自動的に再起動を行います』




 思った以上に小さな遺跡であり、周囲の破損具合からどこかの一部らしいと見当をつけた鏡花たちが、最奥の広場手前でそう繰り返す球体の鉄の塊を発見した。




「キョーカ、これ?」


「えぇ、ここから信号が出ている。でも、エラーの発生源っていうのが内部の故障ではなさそうなの。一体何なのかしら」




 鏡花は≪感応力≫で状況を探りつつ、繰り返される報告に首を傾げるリィルと頭を捻る。直後、見張りをしていたガロンは、はっと槍を構えた。




「む。二人とも、後ろだ!」




 言って、何か飛んできた棒状の物を彼は叩き落とす。が、それはぐにゃりと曲がったかと思うと瞬っと元に引き戻された。「え?」と戻った方向へ銃を撃った鏡花だが、そこはフロア床で弾かれる。

 と、ばきっと床が破壊され、巨大な二枚貝のような物が飛び出してきた。呆気にとられたのも一瞬、その貝の隙間に歯のような物が見え、鏡花はリィルを抱えて転がった。




「ガロン様、魔物よ!」




 言って鏡花は、遠慮なく二枚貝の隙間を狙って三発撃った。一発は硬い甲羅に弾かれたものの、二発は口腔内に着弾、貫通してそれは絶命する。再び違う方向から棒状の物が飛びだし、それが舌であると鏡花は把握した。




「伸縮性の舌を持ってる。壁からも出てくるから気をつけて!」




 鏡花が叫んで再び銃弾をばらまくのと、リィルの詠唱が終わり炎が放たれるのは、ほぼ同時。貫いて絶命して倒れたその先の、蜘蛛のような細長い節足の魔物を炎が包む。




「何、アレ」


「わからないわ。こんなの見た事もないもの」




 鏡花が、不気味で普段見掛ける魔物より一回り大きい魔物の姿を見て眉根を顰めると、リィルも険しい顔をして続けた。本の虫の彼女が知らないというと、かなり希少なものなのかもしれない。同じく突撃を繰り返して防波堤になってくれているケンタウロスの戦士からも、同様に見た事がないと返された。




「でも、魔物で、集団で襲ってくるってことは、何か司令塔らしい物があるんでしょう。ガロン様、もう少し耐えてください。探索します」




 言って、鏡花は無造作に遺跡の床へと両手を付けた。集中するため目を閉じると、彼女の近くにあるコードが、能力に応じて両手に巻きついてくる。少しだけ、鏡花は普段と勝手が違う感覚に身震いした。穢神の要塞のためか、どうも、聖剣の要塞と真反対の、殺伐としたイメージがついてくる。と、群れる魔物の奥に、巨大な機械のような影を感じた。




「見つけた。奥に、機械反応。リィル、雷で撃って!」


「”雷よ”!!」




 巨大な轟音と共にガラガラと崩れる機獣に、周囲の魔物も息絶えた。直後。




『聖剣の波動パターンを登録しました。聖剣によるエネルギー供給を開始します』




 まだ周囲に残党が居ないかと歩きまわる三人に、さらに『各種駆動経路チェック、オールグリーン。メイン記憶回路起動します。人格インターフェイス起動します』と続けられる。

 どうやら脅威は去ったと、まだしばらく見回りをガロンに任せ、リィルと軽く頷きあわせて球体の傍に戻った。すると、それはゆっくりと立ち上がり、球状の体のおまけにしか見えない手を軽く持ち上げて見せた。

 よろめくようにして、鏡花はさっと球体に手をやり、ざっと最上位ロボットの情報を攫う。一瞬の眩暈後、どうやら、これは鏡花達が住む要塞より以前に作られたものの様で、それだけで鏡花達の存在を誤魔化せる事を認識した。

 以降はそれほど重要でないと考えて打ち切り、頭を振る鏡花の横、戸惑ったリィルの姿を認めたロボは「…もしかすると、それは聖剣ですか?」と質問してくる。




「まさか、あなたが正当な聖剣の所有者なのですか?」




 機械な為かあまり抑揚がない声音は、時として責めるように聞こえるが、リィルも軽く訝しく。




「私は、正当な聖剣の主よ。何か不都合なことでもあるの?」




 「いえ、そうではありません」と返した球体ロボは、変わらず抑揚のない声で続けた。




「覚悟はしていたのですが、やはり、マスターギルバートはもはやこの世にいないのですね」


「……どこかで聞いた様な名前ね。それが、あなたのマスターなの?」


「はい、そうです。私が最後にマスターを見たときから、既に3019年5カ月と13.5日がすぎてしまいました」




 人が絶対に生きられないだろう年数を言われ、鏡花とリィルはそろって顔を見合わせる。鏡花はもう少し彼の記憶を見る事にして、球体に手を当てた。





 ――――――――…一本の聖剣が見える。


 この頃には聖剣が一つだったと言う事は、もしかすると、彼は初代聖剣の主に使えていたのかもしれない。爽やかな笑顔が素敵な青年で、正義の味方らしい熱い考えの持ち主だったようだ。そんな彼が穢神の誕生を阻止できずに場面が移る。


 元は聖剣を祀る神殿だった場所は、穢神という害意的なエネルギーに取り憑かれたために、破壊と殺戮をもたらす様になり、赤い雨の降る地上には、先ほど遺跡の中で見た、見知らぬ魔物が徘徊する土地となった。

 雨により荒れる土地と、魔物によって荒らされる街。また、穢神が取り憑いた神殿は形態を変えて飛行戦艦と化し、地上に攻撃を繰り返す。


 阿修羅族の戦闘など可愛いものだったと思えるような、物量的な攻撃を前に、鏡花は眩暈がした。これは本気で洒落にならないレベルの災害が相手である。

 また、彼の記憶から分かったことだが、この穢神は、エネルギー体に近い存在のようだ。確かに聖剣からの光エネルギーがなければ攻撃も不可能だろう。




「キョーカ?」




 ≪感応力≫で情報を読む彼女は、目を開けたまま気絶している状態に近いように見えるらしい。それまで静かだった鏡花を訝しんだリィルが声をかけてきて、彼女はびくりと我に返った。思った以上に深く記憶を読み込み、少し引っ張られかけていたらしい。




「あ……あぁ、大丈夫よ、リィル」




 返答が返って、視線があったことに安心したのか、リィルが球体ロボに鏡花を紹介する続きをしたようだ。




「彼女は白の剣の守護者よ。貴方の仲間ということになるのかしら」


「白の剣……守護者ですか?

 何を言っているのか、私には理解不能なのですが…」


「え?」




 返された発言に、さらに困惑した表情をするリィルに、鏡花は軽く笑みを浮かべる。これまでの記憶と言われるだろう事柄への説明は考えていた。「私は聖剣が折れた後に造られた、ヒューマノイドなの」と、軽く口が動く。




「初代の聖剣の主、マスターギルバートが、穢神との戦いで折れてしまった聖剣が以前の様に神の力に清められるまでの間、貴方達、守護ロボットと同じ様に、主に仕えるために生み出された存在よ」




 相手のロボは、鏡花と蘇芳の腕輪の波長からこの話を信じると知っている。不安気にするな、笑えと鏡花は念じてその通りにすると、球体ロボは情報処理の為に少し時間を置いて続けた。




「………そういうことだったのですか。私は、知りませんでした。

 マスターギルバートが穢神と戦った時、聖剣が二本に折れてしまっていたとは」




 そこまで言うとリィルに向き直り、「それでは、貴方も私のマスターなのですね」と手を差し出す。




「これからよろしくお願いします、マスターリィル。紹介が遅れましたが、私の名は『ゼウス』と申します」


「こちらこそ、よろしくね、ゼウス」




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