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Darker Holic  作者: 和砂
side4
83/113

side4 悪役と正義の仕事5

 主人公達が体に強化の紋章を刻む度に、鏡花たちの腕輪にも少しずつ紋様が入るようになったと気付いたのは、メインシステムを起動させ、次にブラスター砲を目覚めさせる段取りになってからだ。紋様の入り具合から考えるに、主人公達を強化し、旧文明を滅ぼしたラスボスと戦わせるまでがこの腕輪の効果かもしれないと考える。

 次元転移は目的達成までを期間にして一時的に送り出すと何処かで聞いた覚えもあるし、それに賭けて鏡花は今日も仕事に励む事にした。

 ブラスター砲の起動の為のクリスタルを取りに行ったトーヤをレーダーで見守りながら、鏡花は横道に逸れた彼に通信する。




「そっちは違うわ。もっと西の遺跡よ」


『了解』


『あ、ちょっと。待ちなさいよね~っ』




 トーヤの後に入った声は、モンスターに追われている処を保護した二人組の一人だ。どうやら魔族らしく、魔法攻撃を得意とした少女達だった。こちらも聖剣を探しに来たらしいのだが、トーヤ達を見て、まだ何かあるらしくここに残ると言いだした。

 見た目は子供なため、皆注意を払っていないが、蘇芳と鏡花はこっそり彼女らを見張っている。魔族と言えば、南の一大勢力。以前、メインシステムを起動させる際に必要なクリスタルをトーヤに取りに行ってもらったが、その際、キャント村で魔族と北の軍人とで衝突があっていたというのも、何かありそうだ。

 その上、相変わらず鏡花たちの持ってきた仕事道具は、地図機能を残して他は死んだまま。シナリオでは、鏡花たちが最初は主人公らの敵役として登場し、彼らを鍛える予定だったのだが、それからは大幅にずれている。幸い、要塞そのものに彼らを強化する機能があったから良いものの、レギュラーなのかイレギュラーなのか、進行がチェックできないのが痛い処だった。

 そして、鏡花個人としてちょっと気に喰わない事がある。




「へい、毎度あり~」




 お金の音と、それがあるとさらに良くなる、威勢の良い声。

 ちらっと階下の広間を見れば、端の方で商売に精を出すキツネの獣人が見える。この世界に来てからお得意様になった、ぼったくり商人、ネ=ギルナの姿だった。


 聖剣が目覚めて姿を顕した要塞のエネルギー供給装置が地上と繋がっている場所にあるせいで、野良モンスターが頻繁にやってくる。それを追い払う役目を要塞に残った主の片方に頼んでいるのだが、それを上手い事言いくるめて図々しくやってきたのだ。正直、商売したり鑑定をしたりしてくれるので便利ではあるのだが、相変わらずぼったくってないか、鏡花は訝しく思っている。


 今日も今日とて、暇そうな蘇芳に「旦那、ここはちょいとばかし不便じゃないですか」なんて声をかけている処だ。何かしらするにも金金金と、大変素直な彼なので、何かしら要求してくるに決まっている。

 そんな処、リィルにまで声をかけてなんと、1000GPも巻き上げていた。




「ネ=ギルナ!」


「ひいぃぃぃっ」




 ≪感応力≫を使っているため行くに行けない鏡花は、そう怒声を響かせるが、それにリィルはくすりと笑って言った。




「キャント村の鍛冶屋さんを紹介してくれるんですって。その紹介料らしいわ」




 流石に要塞で武器の強化は出来ないので、それはありがたいのだが、きっと紹介料なんて必要なかったに違いない。きっと奴を睨めば、しっぽがぶわっと広がっていた。やはりだ。

 まだ顔を強張らせている鏡花に気付いたか、蘇芳は無言で彼女の顔をパネル側に向けた。何も言うなと言う事だ。




「あんた達、本当に甘いわよ」




 ぼそりと言えば、次にレーダーは大量の敵の数を発見し、彼女もそれどころじゃなくなった。全館に警戒警報を発すると、居住ブロックからケンタウロスの戦士とエルフの弓師が駆けてくる。警報に眉根を寄せたリィルも階上のコントロールパネル前までやってきて声をかけてきた。




「キョーカ。今度は何処?」


「第三ゲートね。でも、もっと多数の本陣は北にあるみたい。軍隊のようよ」


「……とうとう、北の帝国に目をつけられてしまった…?」


「かもね。ブラスター砲が起動できれば、本陣はどうにか出来ると思うわ。手前の軍勢だけ退けて」




 ブラスター砲の威力も文献で知っているらしいリィルが少し顔をしかめるが、それどころではないとわかっているのだろう。頷いた彼女に、鏡花は「気をつけて」と送り出した。

 そして、北よりも微細な反応がある第四ゲート、地下でも敵の影を発見していた彼女は、蘇芳を呼びつけて言った。




「こっちは野良モンスターだと思うわ。二個目のコンバータもここにあるし、撃退してきてもらえる?」


「良いだろう」




 言って蘇芳はさっと階下へ飛び下り、足早にコントロールルームを出て、リィルが向かったゲートと反対側のゲートに入った。主人公達の手が足りない際は、こうして蘇芳にも単独で迎撃してもらっている。

 彼が初めて入った第四ゲートの先は薄暗い洞窟で、その先にコンバータがあるらしい。そのまま真っ直ぐ一本道を駆けようとしていた彼は、視覚では見えない気配を捉えて半身、翻していた。


 ―――ひゅいぃっ


 まるで枯木立を渡る風のような音がし、両手を突き出すようにしてこちらを攻撃してきたのは、幽鬼である。それを確認して彼は、闘気を抑えられている我が身を思って舌打ちした。すぐにピアスの通信機を使って鏡花に声をかける。




「こちら蘇芳。敵はゴーストだ。相手が悪い」


『みたいね。今確認したわ。そっち行くまで保てそう?』


「奥に骸骨も見つけた。まだ数は少ない、何とかなるだろう」


『了解』




 言って蘇芳は一瞬だけ姿を顕した幽鬼の気配を探りながら、こん棒のような武器を振りかざす骸骨兵の手を取って地面に投げ飛ばした。がしゃんと音がし、ばらばらになるどころか砕けてしまう。これで再生不可になった、と、骸骨兵は煙の様に消えてしまった。

 さらに顔を上げれば、奥からワラワラとこちらに武器を向ける骸骨兵の姿がある。足を止めずに一歩進もうとしたところで、また気配があって下がった。

 軽く肩を擦ったのは、やはり幽鬼で、さらにそちらを蹴りあげるが、姿を消して避けられてしまった。




「しゃがんで!」




 洞窟に響く声に身を伏せれば、その上を銀の矢がバラッと散っていく。ガシュンと音がして、次の装填がされたのがわかった。鏡花はネ=ギルナに言って用意させたボーガンを手に、第四ゲートから出てきたばかりのようだ。何発か幽鬼に当たり、数体が塵と消える。

 さっと立ちあがった蘇芳は、銀の矢を受けて倒れた骸骨を跨いでやって来た、仲間を仲間とも認識していないような骸骨に、深い眉間の皴をさらに深くする。




「っふ」




 向かってくるこん棒を半身引いて避け、相手の頭部を掴んで膝を打ちこむと、バキッと、あっさり頭が砕けてそれは倒れる。さらに向かってくる骸骨兵の奥で、コンバータが攻撃されているのも見た。




「先に行く」


「どぉぞ」




 ガシュッと装填し、鏡花が返事した。彼女は今、≪感応力≫を何とか応用してゴーストを見つけている処だろう。慣れない作業で気を張り詰めているのが、真剣な表情からも見える。


 こういう野良モンスターは大概が、指揮をしているボスを倒せば諦めて帰る事が多い。コンバータ付近で骸骨と組み手をしながら様子を窺うが、それらしき影は見当たらなかった。

 さらに奥に居るようだが、まだ数を減らさない事にはどうにもならない。闘気が扱えればと思わずに居られないが、力を使おうとすると腕輪に邪魔されているのがはっきりとわかった。




「―――ふぅぅぅ…っ」




 だが、こちらも阿修羅族である。一度深く吸気して軽く目を閉じて集中すると、かっと目を開いた。

 ふっと呼気した一歩目掴んだ骸骨の手を折り、さらに吐いた二歩目で足払いをかけて二体を転倒、三歩目踏み砕く、四歩目右から来た幽鬼の顔面に手甲、手ごたえあり。そのまま足を引いた姿勢から右に体重をかけ、左に蹴り抜く!




「ひゅぅ。かぁっこいい」




 蘇芳の蹴りで三体が纏めてバラバラになったのを見て、鏡花は軽口を言った。

 言いながらも彼女もさっと矢を装填し、コンバータに近づいた気配に向けてばらっと矢を放つ。纏めて仕留めた後は、矢を装填するまでに向かってくる幽鬼を銀の柄で殴っているからたくましい。伊達に悪役をやっていないという処か。




「レーダーで、洞窟外にボスの反応よ。行ける?」


「相分かった」




 蘇芳が駆け出そうと身を縮めれば、ようやく要塞本体から防衛ロボも出てきてコンバータ付近に陣取る。それと背中合わせになりながら鏡花も矢を装填して蘇芳の行く方向へ向けた。ぎりっと狙いを定めて引く。




「行って!」




 銀の矢が刺さり、幽鬼と骸骨兵が倒れる。それを壁に斜めに飛んで彼は、敵の壁を飛び越した。骸骨も幽鬼も知能は低いと思えて、コンバータ付近は多かったが、さらに奥にはまばらしかおらず、奪ったこん棒で叩き殴って、先へは比較的楽に進めた。

 階段を駆け上がり外へ、扉を押しやる。

 外は、南の魔族の国との境である、古代遺跡跡だった。真っ直ぐ南に向かって道が出来ており、中央は円状の広間、さらに貫いて南へ続いている。


 周囲や足元が明るいなと思っていると、月が出ており、南の、それこそ広間の上で煌々と輝いていた。

 暗い洞窟から出てきたせいだろうか、月を見て、一瞬だけくらりとする。それから血圧を戻すように心臓が大きく動いた気がして、頭を振った。


 そんな折、殺気を感じてそこから横に飛ぶ。ガキンと硬い音がすれば、先ほどまで居た場所に突き刺さる鎌が見えた。死霊レイスが深くフードを被った骸骨の目でこちらを見ている。咄嗟に大地を蹴り、懐に飛び込む。固めた拳で下から突き上げたが、ふわりと宙に浮いている奴には浅くしか入らず、そのまま転がって距離を取る。




「っあー、もう、何なの、これ」




 声が聞こえてみれば、少し高さのあった要塞への出入り口で、四苦八苦しながら鏡花が出てきた所だった。こちらと対峙していた死霊も鏡花を見るが、少しでも動けばこちらが動くとわかっているためか、注意はこちらに向けたままだ。




「あっちゃぁ、レイス…」




 鏡花もまたボスの姿を認めたか、そう言って矢を構える。刹那、死霊がくるりと回転して姿を消した。まさかと思うと当時に走ったが、矢を番える鏡花の後ろに出現したのを見て顔をしかめる。




「鏡花!!」




 言われて背後を振り返ると、大きく鎌を振り被った死霊の姿。だが、鏡花はそれにボウガンを向けるでもなく、避けるためと注視した。振り下ろされる鎌。しかし、彼女に届く前に腕輪の紋章が光り、それを弾く。




「へ?」




 弾かれた今頃になってボウガンを構える鏡花は、何故鎌が弾かれたかわからず間抜けた声を出していた。だが、好機だとは分かっているようで、銀の矢を死霊の額に向ける。


 ―――バンッ


 額を貫かれた死霊は、瞬間、さらさらと崩れ落ちた。


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