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Darker Holic  作者: 和砂
side1
7/113

side1 惑星侵攻4

突発的に予定が解消され、活動報告に記載しました更新予定をフライングしました。つくづく自分は計画性がないのだと理解しました。

お騒がせしてすみません。


「最悪…」




 ぼんやりと鏡花は呟いた。

 前回の作戦は失敗。

 サテライトはDH的には予定通りに華々しく散ったため、DH業務内容としては喜ぶべきところなのにと、鏡花は残念な気持ちを持て余していた。

 そして以前シグウィルと会って一戦やりあった通路の途中にて、うんざりして外を眺めた。


 あれ以降シグウィルと組む回数が減ったところを考えると、どうやら彼が信頼に置けるか否かを二年越しになって鏡花に試す気になっていたらしいと知れる。




「大体、遅いでしょうが。二年よ、二年」




 特に誰の気配も感じない鏡花は、DH社での素に近い自分でガラスに映る自分に愚痴った。

 ガラスに薄っすらと映る鏡花の顔は、如何にもうんざりしている。鏡花自身も見ていて楽しいものでもないので、視線を星々の海へと通り越した。




「…」




 不満そうに溜息を吐く鏡花。

 DHでは、会った事がない上位幹部3人を除いて、大概が気の良い同僚であるため居心地もさほど悪くない。唯一の悩みは、SF担当に該当する能力のあるDH社員が鏡花一人である事。そのせいで、今回の阿修羅族での仕事も一人きりでつまらない事も含まれる。

 その点、兄貴分のシュートランスは、どこでもオールマイティな能力であり、色々と面白い仕事についているように鏡花には見える。


 回想、回想また回想。

 そして、先日のN0.2との喧嘩別れのようなミッションを思い出して、鏡花はさらに眉間のしわを深くした。


 悪役として、仲間意識を持てるほどほのぼのとした職場ではないのだが、No.2は阿修羅族にあって、案外まともな頭の持ち主と思っていただけに、失望の念は大きい。

 そこまで考えて、鏡花は彼の信頼を望んでいたのだと、気がつく。

 逃した魚は大変大きかった。




「…はぁ……帰りたいよ、《シュートランス》」




 鏡花は人の目を気にせずに済む自室でないのについつい呟き、がっくりと肩を落として強化ガラスに触れた。


 阿修羅族は個人主義的で、通路なんぞにたむろっていないのが彼女の救いだ。監視の目から逃れて、一息つける。

 両手を強化ガラスにつき、口付けするように顔を近づけて、夜景に似た景色を覗き込んだ。




「誰だ」




 ほっと完全に脱力した鏡花に、低音の声が降ってきた。

 驚いて顔をあげた鏡花は、強化ガラスに映った自身とその頭二つ分ほど大きな影を見て即座に振り返り、息を詰める。




「シグウィル!?」




 着物に似た民族衣装を纏うシグウィルは、その凛とした佇まいからか、鏡花が幼いころ資料で見た美しい夜叉や鬼のようだ。


 鏡花の声は押し殺してかすれた声であったが、シグウィルは聞こえたらしく、途端に無表情から嫌そうな顔になり咳払いした。それにはっとして鏡花は素早く頭を下げ、せめてもの嫌味で臣下の礼を取る。




「ご機嫌麗わしく、シグウィル様」




 途端に何が気に入らないのか、機嫌悪く片眉を上げたシグウィルだったが、咳払いだけして特に言及はしなかった。替わりに再度繰り返す。




「誰だ、それは」




 シグウィルの言に、初め、何を言われたのかわからなかった鏡花は訝しげに顔を上げた。彼の表情を見てもわからずに、変な顔をして彼を見上げる。


 第一、彼の気配を直前まで感じなかったため、何処から鏡花の様子を見ていたのか、何の事を鏡花に尋ねたいのかわからないのだ。

 正直鏡花は、警戒されていると知って、保身と打算が働いた。




「《シュートランス》」




 鏡花の要領を得ない態度を察したシグウィルは、はっきりと口に出した。

 鏡花は緊張後に頓珍漢なことを言われて拍子抜けした顔で彼を見ただけだった。

 DH本社や鏡花の“出し惜しみ”していた能力についてかと思って、余計に警戒していた矢先だから、思わず顔が歪むように笑ってしまう。


 シグウィルは彼女の顔からその嘲笑染みた意味を読み取り、さらに眉間のしわを深く、視線を鋭くする。特に詰問される内容でも、気にすることでもない。

 鏡花はあまり恐れずに吐き捨てるように言った。




「…関係ないでしょ」




 それが尤もだったためシグウィルは沈黙したが、彼の目を見た鏡花は彼の無言の感情を読み取って、気まず気に目を逸らした。鏡花を断罪する事に対して、彼にもほんの少し、罪悪のような気まずさがあったのを感じたのだ。


 代わって鏡花の態度を監視していたシグウィルだったが、変に勢いをなくした彼女に一瞬にしてむっとすると、乱暴に彼女の肩を突き飛ばす。急な事に、辛うじて踏ん張った鏡花を、さらに強化ガラスに押し付けた。

 少し眉根を寄せたシグウィルは、何か情を押しこんだ様だった。


 一瞬の苦痛の表情の後、鏡花は息を吸って押さえつけるシグウィルを見上げた。

 ただただ鏡花を汚い物でも見るように見下ろすシグウィルにカチンと来て、彼女は視線を睨むそれに変えると、肩を押さえる彼の手に手をかけて爪を立てた。見下ろすシグウィルが微かに痛みに目を細めるのを鏡花は確認する。




「関係ないでしょ、貴方には。

 臣民の事なんか考えもつかない羅刹王に、馬鹿みたいに忠誠誓う男が、他族である傭兵のことなんて気にかけるほどもないんじゃない。

 それとも、ただの傭兵が忍び込んで内部から崩されるほど、阿修羅族ってのは間抜けなの」




 感情の抑制が効いていないことを鏡花もぼんやりと頭の隅で思った。けれど、口に出てしまった言葉を訂正する気力も沸かず言い切る。


 刹那、かっとした様子で反対の手を振り上げるシグウィルが目に入った。


 反射的に逃げようと身を捩った鏡花だったが結局逃げ切れない。


 肌に吸い寄せられるように動く彼の手を、生理的に閉じかけた目で追視していた。



 パンと響いた音や衝撃に鏡花は目を閉じ、遅れてきた痛みに何をされたかやっと理解した。



 女であるためか、手加減されたのはわかったが、訳の変わらない怒りが鏡花を動かした。

 目を見開いた衝動で流れた涙を拭えぬまま、頬を押さえてシグウィルを見る。




「お前に、何が、わかる」



 泣きかけている鏡花を目にし、それでもシグウィルは苦く呻いた。


 激情を抑えるように一言、一言噛み含めるシグウィルに、鏡花は興奮していたが、怒りは急に引いた。逆に泣きそうになって顔を歪めるも鼻をすすって耐え、ただ一言漏らす。




「ごめん…謝る」




 息を噛み殺す音がシグウィルからし、鏡花は居心地悪く唇を噛んで、彼の横顔を盗み見た。

 シグウィル自身も、鏡花にした行為を謝る気もやってしまった事に気遣う気も起きず、ただ悔しそうに歯を噛み締めているのみである。

 彼に何か思うところがあるのは薄々感じていた鏡花は、急に罪悪感に襲われたように再び視線を床に落とした。



 しばらくきっかけもなく、居た堪れない空気だけが流れていたが、緊張もあり、未だ爪を立てたままだった鏡花の手を、シグウィルがそっと自身の腕から外させた。

 それまでの言動と違って多少の気遣いのみられる動作に、されるがままの鏡花はおずおずと視線を上げて彼を見る。


 本当はまだ気持ちの整理がついていないと彼女の表情は物語っていたが、彼は関心を向けることがない。




「…お前は何者だ」




 続いたセリフに、信用していない人物への尋問だけがシグウィルの目的だったのかと受け取った鏡花が失望の色を含ませる。

 それを敏感に感じ取ったシグウィルが彼女の腕を引き寄せ、間近で見つめるようにしてすぐ前に立った。

 目の前にすぐ彼の胸がある落ち着かない状況で、彼女は困惑気味に彼を見上げる。




「…何が言いたいのか、わからない」


「お前に興味がわいた」




 間髪入れずに返ってきた言に、鏡花はさらに不可解な色を深めて彼を見た。

 鏡花にしてみれば、シグウィルは元々何を考えているのかわからない人物ではある。セリフの真意の他に、DHの契約上、自分の素性は同社の同僚にでさえ規制されるため、それに違反する可能性も考え、質問される答えを限定していたかったのもある。


 鏡花が沈黙する態度を改める気配がないため、シグウィルは溜息をついて、続けた。




「お前の漆黒機、あれは阿修羅族にはない技術だ。性能としてそれほど高くもない事は知っている。

 しかし、女。お前はあの機体で俺の愛機ほどの性能を引き出した」




 簡潔に言われた事に鏡花は呆然と、自分を見つめるシグウィルの目を真正面から見た。


 鏡花が先のミッションで、その高性能を発揮した原因を突き止めたい気持ちが強いシグウィルはそれを平静と見つめ返し、一つの漏れもないように彼女を鋭く観察する。


 呆けたような顔をする鏡花だが、そうやって誤魔化すのが常の彼女にシグウィルはさらに促すよう視線を鋭くした。




「…偶然」




 鏡花は事の他、真顔に近い表情でぽつりと呟く。

 完全にDHの規約に触れる事柄に、また、何ゆえ鏡花以外がSF担当になれないかの原因でもある事柄に、鏡花はその一切の表情を失くして答えるしかない。


 ある意味真実味を帯びて響く言葉に、それでもシグウィルは納得しなかった。




「戯言を」




 冷たく言い切ったシグウィルは、強引に鏡花の顎を掴むようにして顔を上げさせ、それに鮮烈な金の眼を寄せて続ける。至近距離での殺気で反射的に息を呑む鏡花に、彼は無表情をつき合わせた。




「先ほどお前が言った人物に対しても、傭兵仲間と済ませるわけには、いかない」




 小さな声であったのに、鏡花には余韻が長く続いたように感じた。


 ゆっくりと顎を放すシグウィルは、寄せた顔を離す間も決して鏡花から目を逸らさなかった。


 掴まれていた顎を解放され、鏡花はへたりこむ。

 No.2の脅威というのを様々と見せ付けられた気がし、完全に鏡花の体は意思の支配を受け付けない。


 シグウィルはそんな鏡花を冷たく見下ろしていたが、演技でないと知れると無言でその場を立ち去った。


あまりに寂しいので、気に入りキャラ、今後の展開予想など、作者の右斜め上を行く感想募集します。お暇な方は是非お願いします。

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