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Darker Holic  作者: 和砂
side3
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side3 悪役とちびっこ。8



 よりディープな顧客は、癖のあるAやCコースを巡るものだが、通常Bコースとは、悪役資料室、ファンタジーエリア、戦隊モノ担当部署、エフェクト班、SF担当部署と巡り、最後に怪獣管理室へと進む、一般人にとっても、わかりやすいコースである。


 もとより《悪役》会社であるため、年間の顧客数は、この世界の社会科見学以外まばらであり、来たとしてもAやCコースを好む変人層が多い。




「キョウカお姉さん、次はどこに行くの?」




 ミルクティから顔を上げたアルファ。

 それに素早く反応したのは、子供たちの中で一番のおしゃべりなレオンである。




「次は、怪獣さんね!」




 それに「おっ」とアルルカンは顔を向けた。

 パフェから顔を上げたレオンは、スプーンを振り上げている。



 まだ次のコースの説明をしていなかったのを思い出したのだが、先に蘇芳かキョウカが伝えていたのかもしれない。


 蘇芳であれば、一体いつの間に勉強したのかと疑問も尽きないが、仕事と関係のあるものは大体把握しているのでは、とも思わせる。




「怪獣ですの?」


「ちょっと怖いけど、迫力あるわよ~」




 不思議そうに尋ねる姫に、キョウカはにやっと少々意地悪い笑みを浮かべた。

 それにきょとんとする四人組と蘇芳。


 どちらもあまり想像できなかったからだろうが、後者は彼の愛機よりも巨大な怪獣たちを見ても、素手で倒せるのではないかと思う。




「そうね……皆食べ終わったら、お姉さんに教えてね?」




 ちらりと時間を確認するキョウカ。


 戦隊担当スタッフらが相好を崩しているのを困った顔で見ていた彼女こそが、現在、一番相好を崩していた。

 どこかで聞いたが、女性は可愛らしいモノと子供らに目がないのは本当の様だと、アルルカンは感心した。
















 先のゲート前の柵をスライドさせ、心なしか意地悪な笑みを浮かべたキョウカは、ちらりと視線を動かした。

 その先にはSFの機体倉庫と同じような、金属製の大きな扉が見える。



 同じように視線を動かした蘇芳は、それを視界に収めた後、キョウカの視線が自身に移ったのを感じた。

 軽く眉根を寄せることで意図を促したが、当然彼女に通じるわけもなく、怪訝そうになった彼女にふいっと視線を逸らされてしまった。


 次に彼女と目が合ったアルルカンは、じっと視線を返したが、彼女は苦笑し、小声で「頼んだわよ、ランクC」と小さく告げる。




 DH社も万全をきしているとはいえ、次のエリアは大型の魔獣や怪獣を飼育している危険地区だ。

 悪役の会社であること、どこも危険に変わりはないが、言葉が通じる人間でなく、本能が優先される獣のエリアは警備が特に物々しい。


 キョウカの様に戦闘レベルが低いスタッフは、ツアーの際、常時警戒している本社の警備スタッフと同行するのが常である。


 アルルカンはレベルCと、悪役には平均的な戦闘レベルであり、人が認識できる前後の速度でしか動けない縛りはあるものの、遠距離・近距離の攻撃スタイルで重宝される。



 キョウカも少し期待していたらしく、ほっと気の緩む笑みを見せた。

 彼女はそれから確認するように、護身用の武器と社内回線の通信具の位置を確認する。






 さて、この会社での幹部の扱いは花形であるものの、彼女の場合、どうもそうではないらしい。

 アルルカンは考え事をしながら、ぼんやりと眺めた。


 キョウカが事務所受付のようなガラス越しのカウンタに声をかける。


 幹部が3人も居て物々しいが、彼女自身が戦力外であり、受付OL兼用と知っている怪獣エリアの常勤スタッフは驚かない。

 むしろ快く事務所を出て、目が合った《アルルカン》や《No.11》に驚いたようだ。




「のー…変な気配がするですの。おっきいですの」




 わくわくするレオンとは別に、姫が向かう先の扉を眺めながらのんびり口を開いた。




「みゅみ?」


「ですの。生き物ですの。可愛いですの?」




 ミューが何事か聞き返すと、言葉が通じるのか姫が頷いた。

 最後に尋ねたのは、キョウカへ、だ。




「そうねぇ…お姉さんは、そこそこチャーミングだと思うわよ?」




 何せ職業病持ちである。


 その影響を考えないではない彼女だが、迫力があったり、コメディカルな怪獣だっているのも本当である。


 ファンタジーエリアではサイズ的に飼育不可な、成獣ドラゴンなど、大人しい種であれば撫でることもできた。

 大きな爬虫類なので、慣れるまでは怖いのだが。




「の。飛竜より大きいですの? 私はまだ一人で乗せてもらえないですの」


「……あぁ」




 姫の言に、本社のある次元出身の彼女は一瞬言葉に詰まり、姫の言う“魔王の娘”の立場を思い出して納得した。




「…そうねぇ。お姉さん、飛竜がどれぐらいの大きさかわからないから、どうも言えないけど…」




 ふと何か探すようにして左右を見、蘇芳と目が合った事でピンと来たらしい。




「“赤魔神”のロボットよりは大きい子が多いかなぁ?」


「の! 飛竜より大きいですの! ヴィーヴぐらいですの!?」




 《ヴィーヴ》という魔王の部下、兼、姫の“先生”は、蘇芳の搭乗機より大きいらしい。


 思わずキョウカは吹き出しそうになったようだが、耐えた。


 アルルカンも多少興味が惹かれるが、彼の専門は《魔法》関係で、イーサのように《魔獣》系ではない。バイオ学は彼(?)に任せねば。




 子供達の話半分、ふと黙り込んでいる蘇芳を見ると、彼はさっさと通信具で怪獣管理室と連絡を済ませている。

 中扉である小さなドアを開いたまま、こちらを眺めていた。


 その奥にさらに大きな扉が見える。

 丁度、防火扉のようなそれ。




「赤魔神ん~。僕も行く~」




 すっかり蘇芳に懐いたレオンが駆け出した。

 彼をきっかけに、女の子達もパタパタ駆け出す。


 しかし、べりっと音がして足取りが重くなり、子供たちは立ち止まって片足を上げようと苦心する。

 「ふんっ」とレオンが気合を入れて片足を上げた。




「テープだ!」




 研究所各所にある、感染予防のテープマットである。




「「みゅ、みぃ…っ! みゅみぃっ…!」」




 後から不快そうな双子の声と、ベタッと張り付いてはベリッと剥がれる足音が続く。

 ちょっと慣れると、子供たちは面白そうにべりっべりっと歩き回った。


 キョウカも軽く眉根を寄せてそのマット上を通り過ぎると、次に蘇芳が入って行った中扉の内側に入る。




「一番ですの!」




 彼女と一緒に足を踏み入れた姫だったが、ぶわっと風が発生して、キョウカに抱きついた。




「何ですの~!?」




 同じようにキョウカの足元に抱きつく子供達だが、悲鳴を上げながら、吹きつけられる風にもがいていた。

 風が収まると、キョウカもまた乱れた髪を指先で整える。


 恐る恐ると彼女の足から離れる子供達は、さらに奥の大きな扉の前、アロハシャツの青年と蘇芳と見つけた。




「赤魔神! あれ、なになになに…っ」


「へー、可愛いねぇ。さっきのは、あれだ。シャワーだよ」




 蘇芳の代わりにアロハシャツの青年が答える。

 それに変な顔をしたミューは「みゅ? みゃ!」と否定するように首を振った。




「シャワーは、お湯じゃないの?」


「空ww気wwwwのシャワーだよwwww 服についたバイ菌を落とすのさ」




 レオンも同様に言うが、笑い交じりに追加されて首を傾げつつも頷いていた。

 素直である。





 このエリアでは、社内見学のルールの一つとして、このスタッフも一行に付き添う。


 腕にセーフティ装置、緊急用の空気エアや警報、その他諸々を、ちびっ子達に身に着けさせ、内部に入れば、客人ゲストと幹部らは、スタッフの運転するカーゴに乗せられた。



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