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Darker Holic  作者: 和砂
side3
56/113

side3 悪役とちびっこ。7

”更新されないかもしれません”が出てしまう程の無精をいたしてすみません。

随分久しぶりの更新であり、今後も更新速度は期待できそうにありませんが、どうぞ、お楽しみください。

待ってくれていた読者の皆様に感謝を!!


 珍しいお客が来たことで、鏡花は本日のほとんどを笑って過ごしているように思う。


 今彼女の目の前には、遅い昼食を兼ねて企画書を練り上げている《シュートランス》姿の啓吾と、ばっちり仮面で決めた下っ端戦闘員の面々が居た。



 地下13階という詰所的なエリアがあるが、彼らは幹部である啓吾に影響されたのか、奔放で、よくよく会議場所を変えている。

 今日は社員食堂らしく、ちらりとアルルカンが顔を向けると、場違いな格好で怪人の数名も席についていた。




「おじちゃん、ずるーい! 先回りしたのね!」




 きゅっと顔を顰めたレオンがそんな事を言った。


 アルルカンは心中で、先ほど分かれてすぐの再会であるので当然と軽く頷いたが、鏡花は首を傾げた。

 ふと隣の蘇芳を見上げるも、彼も鏡花と同時に子供たちに会ったので、呆れたように眉根を寄せて見せる。




「僕もお腹減ったよ」


「だ・か・ら、お兄さん、だtry…」




 目を剥いて訂正を入れるシュートランスを遮り、子供たちは一斉に駆け込んだ。

 たたたっと駆け寄ってきた子供達は、見知った顔に喜んだのか、円陣組んで昼食とも、作戦会議とも取れる《戦隊担当》面々の周囲を興味深そうにちょろちょろしている。


 その目は悪役のみならず、彼らの食べている昼食にも注がれているようだ。

 特に熱心に見ているのは、ミューとレオン、双子なのだが。


 物怖じしないレオンがシュートランスにちょっかいをかけて、むいっと横に押しやられている。




「イー?」


「ぅわーいっ」




 職人がレオンにエビフライを向ける。


 アルルカンとしては、なぜ職人が隣の部下の皿からエビフライを盗んだかの方が気になるが、レオンは素直に歓声を上げてかぶりついた。

 しゃくしゃくと衣が咀嚼される音と、こぼれそうな至福の表情のレオンに満足そうに「イー」と頷く。




「イィイーッ!?」




 当然、昼食の一部をかすめ取られた下っ端戦闘員から不条理を訴える呻き声も聞こえたが、職人に逆らう気もないらしく、「イー…」と肩を落とした。



 次いで危なっかしく彼らの足元を屈んで通るミューが、少し離れた場所に座る怪人たちに興味が湧いたらしく、彼らの足元からテーブルににょきっと生える。




「みゅーぅ!」




 “みゅ”としか発言しないのに、ミューもレオンに劣らず愛嬌がある。



 異形な怪人たちにも動揺を見せずに笑いかける少女に、同じように小さな年頃の子供を持つ彼らの心情は大いに揺さぶられたらしい。

 相好を崩して、自分たちの食事から「食べるか?」とから揚げを差し出している。




「イメージの崩壊ね」




 双子の様にしなくとも、姫とアルファもまた、珍しがる悪役スタッフたちからデザートのアイスをもらったり、手持ちのクッキーを与えられたりしている。


 呆れ交じり、苦笑交じりに鏡花がしみじみと告げた。

 その隣には、遅れて入室し、出入り口前で保育所と化している食堂を無感動に眺める蘇芳が居る。




「何ていうのかしら。…猫カフェ?」




 確認するようにアルルカンに問う鏡花。

 彼は知識の照合を行うが、実際に行った事はないのでキリキリと首を傾げた。




「完全に骨抜キニなってイルとハ、理解スる」


「そうよねぇ。クレインさんが、あんなににこにこしてるの、久しぶりだわ」




 子供達に骨抜きにされているのは鏡花も同様なのだが、周囲がヒートすると彼女は冷静になる性質なのか、そう評価した。




 クレインは西洋系怪人で、現在狼系怪人(本名、田中)の膝で楽しそうにもふもふしているミューの気を引こうと、ミニハンバーグを片手に奮闘している蝙蝠型怪人である。




「それも、《怪人》姿で」


「不可解な点が?」




 ふと興味を持ったようで、蘇芳が口を開く。


 彼は前回の新人研修から、よくよく《戦隊担当》へ足を運んでおり、あのエリアを闊歩する怪人ばかり見ていた。


 人事・教育のスタッフから聞いた話では、他のエリアも一通り研修を受けたそうなのだが、この分だと彼ら怪人たちが他のエリアで人型であるなど想像もつかないのであろう。



 もちろん、ミュータントである先天的な怪人もいるが、スタッフが改造手術を受けて後天的に怪人になる場合(特別給与制度)もあり、両者とも社会に溶け込むために人型にもなれるのだ。




「だって、《怪人》スタイルってことは、心境的には業務中だもの。

 《悪役》が子供達にデレデレする?」


「…そういうものか」


「そうよ」




 場所が場所なので、もしかすると彼らも“業務中”の認識は低いのかもしれないが。



 鏡花もそれには共感できるが、心の片隅でそれでいいのかとつぶやく声がする。

 こういう時、《SREC》なんかは、無駄に葛藤を得なくても良いのだろうが、生憎と《DH》社は悪役家業だ。




 このまま入り口で突っ立ってても邪魔だろうと、鏡花は適当に空いたテーブルを確保した。

 椅子に掛ける上着代わりに蘇芳とアルルカンの両名を座らせ、子供達を呼ぶ。




「こっちにテーブルがあるわよ~。いらっしゃい」


「「「はーい」」」




 即座に反応して四人組がやってくると、反対に戦隊スタッフが面白くないような表情で「イー」と鳴いた。

 それに一瞬だけ笑みを返し、鏡花はIDを翳すよう子供たちに話す。




「じゃ、おやつ休憩にしましょう。皆、IDは大丈夫?」




 ―――――ピ。




 テーブルの端にある末端にIDを翳す。

 電子音が鳴ったあと、テーブルがタッチパネルになり、ホログラムとしてメニューが出てきた。



 小さく湧いた歓声に気をよくしたように微笑み、自らも休憩するつもりか、彼女もアイスティを注文する。




「…こう…して、注文しましょうね!」


「僕もやるー!」




 早速メニューを開いたレオンを横目に、“じゃあよろしく”とばかり片手を挙げて、鏡花はカウンタに飲み物を取りに行く。


 女の子達もわくわくとメニューを眺めた。


 レオンは「これも、あれも、これも」と迷っていたが、見かねた蘇芳に一つずつ誘導されて、一番気になっていたチョコパフェを注文する。




 ―――ピ。ピッピッピ。




 興味深々な所を見ると、こういう装置は彼らの住家にはないようだ。

 蘇芳は、今更ながら、この子供達がどこから来たのか気になった。




 彼が社宅に住み始めて“この世界”の文化レベルを見るに、DH社までハイテクではないが、ここもそれなりの文化レベルである。


 けれどこの子供達は、臆することはないものの、自動ドアやらエレベーターやら、普通にあるものまで珍しがっている気風があった。





 知らず難しい顔をしていたらしく、アルルカンが注意を向けるよう軽く指でテーブルを叩く。

 はっと顔を上げると、レオンが同じく眉根を寄せて見上げていた。




「赤魔神も、チョコパフェ食べたい、の?」




 そういうことではない。



















「あーーーーーーーーー」




 濁声が響く、研究所エリア。


 今日もここは怪しく、胡散臭い研究員と、もっと危ない《マッド》、新入りの《イビー爺》が奇妙な笑みを浮かべながら、奇妙な研究を続けていた。

 ちなみに濁声はイビー爺さんだ。




「も、ちぃーっと。も、ちぃーっとだけ、《グレイス》嬢をリフォームせんか?」


「やだねぇ。彼女、僕のなんだよ、イビーさぁん」


「じゃがのう、じゃがのぅ。こうもストーンとしとると、あまりに味気ないんじゃぁ~」




 イビーが見上げるのは、タンク然とした容貌の《リリー:グレイス》。


 一本の木のように天に向かう胴体と、根っこのようなコード群が下にあるだけの、下手をすると牛乳タンクのようなそれが不満のようだ。



 そういう容姿に拘りのないマッドには、迷惑な話。




「彼女はぁ、これで、いいんだってぇ」




 間の抜けた声で拒否するも、連日イビー爺さんは訴え続ける。


 容姿よりも先に中身を充実させたいのだが、そのための構成も算式も、集中もでてきやしない。

 マッドは珍しく、“困って”いた。




「だいたぁい、この間のぉ《ダウン》だってぇ…あーたのせいでしょーぉ。

 僕ぁ、《No.1》に叱られたくないんだよねぇい」


「それについては、大丈夫じゃ」




 対してイビー爺さんは自信満々に胸を張る。


 胡散臭い目を向けられるマッドだが、今はかの土星頭に向けた。




「ワシ、ここで働くことになったもんっ☆」




 マッドが盛大に表情をくしゃくしゃにする中、爺さんはテヘペロ☆と辞令を提示する。


 間違いなく、社長とNo.1のサイン入りを見て、マッドは思わず天井、グレイスを仰いだ。




「オーーーーーーーーー、マイ、スイイイイィィィィィィィィィーーーーーーーーーートォオォォォォォォォォオォォーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


「なんじゃあ、そんなに喜ばれると、照れるではないか///」


「照れてないっ、照れてないよぉ~…イビーさぁん、ならさぁ~。

 余ってるぅ、へぇやぁ~、そっちだから荷物持って




 切り替えたマッドは、遠慮なくドアの方向にイビー爺さんの尻を蹴ってやる。


 「ぎゅわっ」と悲鳴を上げてイビー爺さんは転がるが、何個かフラスコと段ボール箱を巻き込んで、最後はなんとか体勢を整えてぴたっと止まった。



 片膝をついて片手を構えた格好だなんてちょっと素敵じゃないかと、マッドも等しく職業病を自覚しながら、にやりと笑う爺さんを眺める。


 替わって爺さんから見たマッドの瓶底メガネが光っているのは、彼が少々悪役としての意識をして立ち位置を変えたからだ。


 この会社は無駄にそういう悪役ポジションを大切にする。




「くっくっくっく…本社の研究を手にかけておるとはいえ、ワシが来た以上、貴様の天下も、もはやこれまでじゃあ…っ」


「へーっへっへっへ! そぉれでぇ? こっち、殺ろうっての~?」




 けたけた笑う二人の狂科学者。


 しかしながら、特に先の展開を見越した演技モードではなかったらしく、次の瞬間には素に戻り、イビー爺さんは再びいじけたようにグレイス嬢を見上げる。




「《リリー》とつける以上は、女子おなごじゃろ?

 ワシに任せい! 幹部の搭乗機より、可憐に! 美ぅしく! してやるわい!!」


「だぁかぁらぁ、超~ぉ、迷惑ぅ~!!」


「意固地な男はモテんぞい!」


「余っ計な、お世話ぁ、だぁーよ…」




 マッドは辟易した表情を改めもせずにイビー爺さんを見るが、彼に諦める気配はない。


 SRECが先日の件で活動を停止するとしても、正義の味方という粘着質な輩であるので、安心はできないというのに。


 一度目のグレイス嬢への侵入セクハラに、二度目の彼女への妨害パワハラと、結構イライラしているマッドである。

 本気でこの爺さんの頭を切開してやろうかと考え始めた折、背筋がぞくぞくするような、どちらかというと不快な感じが起き、首を撫でた。




 ―――――――?




 ふと横を見ても、爺さんはあからさまにグレイス嬢の事で落胆している素振りしかない。




「………ひひっ、気のせいかねぇ…?」




 下手な口調で呟き、彼は再度首の裏を撫でた。

 鳥肌なんてなく、やっぱり普通の自分の肌だったのだが。
















 チョコパフェをハイペースで口に運び、幸せを享受しているレオン。

 その隣にはアップルジュースを吸い、時折ぶくく…と空気を吹き込んでいるミューがいる。


 蘇芳は着いた席のためか、双子を正面から眺めており、その脳内は、ミューの行為を、躾の為に止めさせるべきか否かに占められているようだ。



 そんな幸せ満載の双子が、不意にぴくりと手を止めて顔を上げたのを不思議そうに見た。




「……ミューちゃん…」


「…みゅ、み…」




 ぴたりと手を止め、戸惑ったような顔の双子。

 レオンが声をかけると、何故かミューも困惑した顔でお互いを見つめ合った。


 能天気におやつタイムを楽しんでいた子供の変化に、蘇芳は軽く眉根を寄せる。

 一段と威圧感を増した蘇芳の顔も見えただろうが、双子はそんな事を気にせずに困ったようにきょろりと周囲を一周見渡した。




「「みゅぅ…」」




 そうして二人同時に、一点で止まる。


 双子の視線に気が付いたか、アルルカンがキリキリと歯車を動かして目を合わせてきた。




「あのねぇ、《アルルカン》」




 機械的な動きで双子を見るアルルカンは、深刻そうな声を発したレオンを見る。


 彼は視線を合わせた拍子に、レオンの青い目の奥に、とろりとした赤い色を見た気がした。

 視界の異常かと瞬時に考えて、義眼の部分に意識を向けるが、生体構成魔法の異常はなし。




「ドウか、シたのカ?」


「うんうん。あのねぇ…」




 パフェ用のスプーンを持ったまま、ちょっとの間だけ頭を抱えるように縮こまるが、次にはっきりと目を合わせて言った。




「《アルルカン》、お願い、《セーブ》してぇ」


「…ン?」




 意味がわからないアルルカンは、言われた事をもう一度反芻してみる。


 よく伝わらなかったと雰囲気で感じ取った双子は、もう一度、今度は二人そろって見上げてきた。


 乗り出した子供にあわせて身を後ろに引き、頭を下げるアルルカン。

 再度、双子の目の奥に赤い色を見るという錯覚を起こし、彼らの青い目を見つめる。




「みゅー、みゅみみゅみ!」


「《セーブ》だよぅ。絶対、今、《セーブ》しといてね?!」




 双子がそろってアルルカンの頬に手を伸ばした。

 両頬、目尻の下を触られたアルルカンだが、何のことかわからずぽかんとする。



 とろり、と、もう一度双子の瞳が揺れた気がした。


 思わず見入ってしまったが、双子がそっと手を離したことで、我に返って席に着く。




「みゅーちゃん、どうしたですの?」


「レー君??」




 ミルクティを飲んでいた姫とアルファが、今度はほうっと座り込んだ双子を心配する。




「《セーブ》って、なぁに?」


「いヤ…意味ガ、わカラナい」




 鏡花が一連のやり取りを掴めず当事者であるアルルカンに尋ねるが、彼もまた首を傾げた。


 キリリと歯車の音がする。


 だが、一瞬だけ、歯車が擦れたように軋んだ気がした。


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