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Darker Holic  作者: 和砂
side3
54/113

side3 悪役とちびっこ。5




 ―――レオンは手を振ってみた。




 ―――レオンはお辞儀した。




 ―――レオンはステップを踏んでいる。





 そんなアイコン表示されそうな程、キョウカの搭乗機から聞こえる彼の声音は興奮している。


 そうして実際、彼女の搭乗機である漆黒の機体は、レオンの要望通り、『手を振り』、『お辞儀をし』、簡単に『ステップを踏んで』いた。



 広大な格納庫の一角、ちょっとした広間というが、人間サイズの視点でみれば十分広い場所で踊る漆黒機。

 それから離れた、壁際に小コンテナが積み上げられるそこに、残りの子供達とアルルカンは居た。




「みゅみ~!」




 ミューは時折声をあげて、漆黒機に手を振っている。

 アルファは無感動な表情をぴたりとも崩さず、実験結果を見つめる研究者のような、大人びた視線で見上げていた。


 姫はミューと同様、「凄いですの~」と歓声をあげていたが、興味がアルルカンの持つギターに移ったようで、時間潰しにそれを弾く彼を眺めた。


 視線に気が付いていたアルルカンは、少しの興味から彼女に声をかける。




「珍シイ楽器か?」


「珍しいですの。お父さんが、ときどーき弾く楽器に似てるですの」


「ホう」




 そうしてさらに違う曲調のものを弾くと、姫はにこにこと耳をすませた。


 後ろではレオンが歓声を上げていて、あまり音を聞くには良い環境ではないのだが、姫を十分に楽しませることにはなっているようだ。




「アラク:アに似ている」


「ゥん?」




 ぼそりとつぶやかれた言葉に首を向けると、いつの間にやら蘇芳が近くまで来、足元にミューを纏わりつかせていた。


 ミューもアルファと同じ無表情であるが、こちらは行動がわかりやすく、流石レオンと双子なだけはあると思わせる。

 特に蘇芳が何も言わないのを良い事に、彼の足や錦の裾を握ったり、引っ張ったり、まるで子猫の様だ。




「仕事ハ良いノカ、《No.11》」


「これも仕事のうちだろう?」




 忙しそうかと気を使えば、そういって彼は足元のミューを見た。




「みゅ?」




 見上げてくる彼女をじっと見つめるが、ミューもまた彼をじっと見つめる。



 それを見てアルルカンは、何故、ミューが泣きださないのか不思議に思った。


 時折、地元の学生が社会科見学よろしくわが社に来ても、強面の怪人やらスタッフやらを見ては、顔を強張らせていたのを思い出したからだ。


 今更とはいえ、この四人組はそんな素振りは全くない。




「みゅぅ~~~…」




 視線を逸らせた方が負けと、ミューが悪戯をする様な、悪巧みを持つ笑みを浮かべれば、蘇芳は無感動にそれの頭に手を乗せて撫でる。




「みゃ?」




 きょとんと元の表情に戻る彼女の、天に向くひょんとした癖毛を、髪をすくように彼は撫でる。


 顔は相変わらず眉根が寄った表情で、手つきもどちらかといえば荒々しいが、大事にされているのがわかるのか、ミューは毛づくろいされる猫のように大人しくしていた。




「猫ヲ飼った事ガ?」




 唐突に尋ねると、蘇芳も面食らったか、一瞬手を止めこちらを見る。

 少し考えるようにして、『“ねこ”?』と口を開いた。




「にゃんこ、知らないですの~?」


「みゅう~?」




 子供二人が尋ねるのに彼が単純に頷く、とアルファが『こう』と言って、猫程度の大きさの円を手で示した。




「毛皮があって、ふわふわしてて、気まぐれで、可愛いの。にゃーって鳴くのよ」


「あぁ、“ビョウ”か。ないな」


「ビョウって何ですの?」


「国の言葉だ。わかった、猫だな」


「の」




 姫を納得させてから、蘇芳は再度『飼った事はないが、上に上がる前は、やつらと同じ所で生活していた』と、路上生活を示唆する言葉が出てアルルカンは興味深かった。


 彼が自分の事を話さないイメージだったのだが、単に聞かれなかったからといった様子である。



 元No.2に対するイメージが、DH社幹部で随分違うのだと感じた。

 キョウカが戸惑うわけである。

 アルルカンが納得の理由を見つけた直後、漆黒機からレオンの声が降ってきた。




『僕、ここ、住むよーーーーーーーーーーーーぅ!!!』


「みゃみゃみゃー」




 直後、彼の双子の姉であるミューが、ダメだと言うように手を振った。

 姫も「ダメですのー。帰るですのー」と言い、アルファはぼそりと「ミューちゃん達のお母さんの、アップルパイが食べれなくなるわ」と別方向から諭した。


 だが、こちらからの声が漆黒機まで届くのは難しいだろう。




「ふっふふ。住むのは無理かもねぇ」




 膝をつくようにして動きを止め、コックピットのドアを開いてキョウカが笑う。


 彼女の隣からひょこっと顔を出したレオンは、興奮からか、目を星空のように輝かせていた。


 言われてキョウカを見て「住めないの?」と悲し気に確認したかと思えば、ミューの方、もっと言えばそれがじゃれついている蘇芳をロックオンする。




「ここは住居でなく、倉庫だ」




 多分困ったのだろう。

 彼が単純な事実を告げると、レオンはやはり不満そうに眉根を寄せたが、「また来るもん」と自分を納得させた。



 すぐに気分を切り替えたらしく、整備スタッフなどの手を借りて機体からひょんっと下りると、次には蘇芳の機体を指す。




「僕、アクマジンにも乗るっ」


「アクマジンってなんですの?」




 姫がきょとんとして尋ねるのと、キョウカが耳に入れて噴出したのは同時だった。

 蘇芳は事の成り行きを見守るような無表情だったが、キョウカには冷たい流し目を送り、少し黙らせた。

 彼女は笑みを隠すように口元を押さえつつ、気安くいなすように片手を軽く振る。



 幹部二人をおいて、子供達は群がった。




「悪の魔神だから、アークーマージーンーっ」




 レオンが胸を張って、後半音やリズムを付けるように言う。

 対して、アルファは蘇芳の愛機を眺めて一言。




「でも、赤いわ。あれ」


「そっか。じゃあ、…アーカーマージーンー!」


「ですの」


「みゅ」




 すぐに考えを改めて言い直すレオンに、他の子らも同意し、一斉に蘇芳を見る。




「赤魔神のお兄さん」


「赤魔神のお兄さんですの」


「みゅみゅみゅみゅみみ、みゅみーみゅみゅ」




 ぶはっとキョウカが吹き出し、蘇芳は最高に不機嫌そうな顔を呈したが、子供達は全く堪えず彼のあだ名をそれに決めたようだった。


 確かに良い大人が、嫌いだから嫌だとは言えまい。



 レオンが彼の足元までちょろちょろと走ってくると、錦を引っ張った。




「お願い、赤魔神ん~」




 ミューもそうだが、レオンは女顔で可愛らしい。

 『お願い、お願い』とすり寄ってくる様子は、子猫の様で大変可愛らしいものである。



 どうするのかと思う興味と、子供に変なあだ名を付けられた彼の可笑しさを、肩をふるわせて眺めるキョウカ。

 彼女の興味津々な目とアルルカンが合ったが、どちらも微笑みの形である。



 恐らくどういう状況にあるか、デバガメされているのはわかっているだろう蘇芳は、しばらく黙り込んでいたが、ため息を吐いた。




「来い」


「やったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!!」




 文字通り、レオンは飛び跳ねて喜んだ。




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