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Darker Holic  作者: 和砂
side3
51/113

side3 悪役とちびっこ。2



「おー…」




 子供の目には大きいだろう、未来型のオートドアが、見学者用のIDで開く時。




「おぉー…」




 恐らく彼らの世界で見たことがあるのだろう、怪獣の模型や説明書の前で、感心したように頷いている時。




「おぉおぉおおぉーーーー」




 急に開け放たれた休憩室の奥で、途中地点の案内受け持ちだったらしい下っ端戦闘員が、飲もうとしていた湯呑を止め、驚いて固まっているのを眺めた時。






 口を真ん丸に開けて、瞳にキラキラしたものをいっぱいに詰め込んで、そわそわと周囲を見渡す、青い髪の男の子。

 やはり、こういう悪役と正義のヒーロー関連の内容は、小さな男子に有効らしい。


 もはや悪役のみならず、おどろおどろしい雰囲気を出す、ぼろぼろのカーテン(あくまでカーテンだ)にまで、何かものすごい秘密があるかのように慎重に摘まんで、裏を覗き込んでいる。

 青い小さな頭が隠れてしまうと、ふりふりとお尻が揺れた。

 ご機嫌だと、見ただけでわかる。




「レー君、楽しそうね」




 淡い金髪の、おとなしい女の子が呟くと、すぐに双子の片割れである青い髪の女の子も「みゅ」と頷いた。




「レー君は、可愛いですの」




 普段から口に出しているだろう、自然な流れで頷く、水色の髪の美少女。

 こちらにも双子の片割れは「みゅ」と頷き、おとなしめの女の子は「そうね、可愛いわ」と同意した。

 女の子組も怪獣や悪役の写真、コスチュームなど不可思議なモノを見て、楽しんでいることは楽しんでいるが、男の子と同等、それ以上の興奮はない様子だった。




 特に説明もなく、淡々と怪獣資料室や、悪役コスチューム展示などなどを回ってきた一行だが、それは単にここまでが説明を特に必要としないエリアだからだと、アルルカンは思っている。

 四人組はそれぞれが雰囲気を楽しんでおり、気の利かないガイドを気にかけていないのもある。

 だが何より、男の子が思いの外、じっくりと見回り、残りの3人が温かい目で彼を見ていたからかもしれない。




「みゅみ、みゅーぅー」




 不満そうな双子の片割れの声を拾い、アルルカンは目を向ける。


 目を半分に伏せた不思議な表情は崩れず、彼女は片割れを呼んだようだった。

 すぐに「みゅっ」と言葉を忘れて、男の子が振り返る。


 双子同士の繋がりなのか、二人きりの会話は、なぜか「みゅ」で通じていた。




「みゅみみゅみ?」


「みゅ。みゅーぅ」


「みゃあ…」




 何かしら決着がついたようだ。

 彼らは「みゅ!」と同時にアルルカンを振り返り、鏡のように首を傾げた。


 そのジェスチャーは何を示すものかわからず、アルルカンも見たままに小首を傾げてみせると、美少女がぽんっと手を打った。




「もっと、面白い所に行きたいですの」


「ソウだな。でハ、次ノ《ファンタジーエリア》にご案内シヨウ」




 DH社の社内見学ツアーはA-Cまであるが、今回は安全第一のBコースである。

 彼らには、目一杯物珍しいものを見て、帰宅後宣伝してもらわなければ意味がない。


 ツアー開始からそれほど時間は経っていないのだが、男の子のあまりの感動っぷりに、悪役であるアルルカンも感動しており、業務を失念していた。


 早速彼らの希望通りにツアーを再開しようと、奥のエレベーターを、芝居がかった礼で指示する。




「おぉぉぉぉぉー!」




 途端に感動してくれたのは男の子で、他の三人もつられたように「きゃー!」と飛びついていった。



 とはいえ、皆背が小さく、一生懸命ジャンプするも、エレベーターのボタンに手が届かない。


 アルルカンは近づくと、すっとボタンを押した。


 ゆっくり開いていく扉。


 通れるほどになると、促すまでもなく全員が乗り込み、アルルカンは、エレベーターガールさながらの仕草で、優美にドアを閉める。




「ファンタジーですの? 何があるですの?」


「…きっと、スライムがいるのよ…」




 わくわくした雰囲気が伝わってくる会話で、無感動に見えた金髪の女の子も、密かな期待を込めるように小さくつぶやく。

 アルルカンはキリキリと小首を傾げ、彼女らを見下ろした。




「通称《魔の森》。ダークエルフの《イーサ》ガ、君たチノ案内をしテクレルだロう。

 あノ森には、ユニコーンの様ナ神聖生物から、魔物も多ク住ム。

 魔物に近ヅクと怪我ノ危険ガアルノで、皆、私たチから離れなイよウニ」


「「「はーい(ですの)」」」











 ぷしゅーっと、カプセルから放たれるように四人組が顔を覗かせると、そこは深い霧が出て、少し前もあまり見えない状況であった。



 霧があっても心なしか明るいためパニックになる事はないが、ここは屋内である。

 人工太陽や気温調整が行われ、森と呼ばれる通り、植物が生い茂り、生態系をはぐくんでいた。




 ここには、鎖に繋いだり、檻に入れるなどの管理らしい管理はなく、責任者兼管理人である《イーサ》の影響で、ほぼ放し飼い。


 危険生物に関しては、魔法結界を張り、その中で飼育しているのだが、野生動物でも小さな子供には危険だろう。

 アルルカンは万が一のために、兵器でもある自身の手の機能を起動させた。




「の!?」




 特に説明がなく、また、聞く気がなかった四人組は、考えなしに外に出る。

 四人組の中で一番活発らしい美少女が、芝生を踏んだ感触に驚いて立ち止まった。




「みゅ!?」


「きゃっ」


「わーっ」




 そのせいで、彼女の後ろからついてきていた三人は、順々に止まった子の背中に顔をぶつけ、最終的に全員がころんと尻餅をついた。

 「くぅん」と子犬が鳴くような声をあげて身を起こした彼らは、ふるふると頭を振って、ゆっくり周囲を見渡した。




「草が生えてる…」




 男の子が茫然とつぶやき、芝生を掴んでちょっと引き抜いた。

 根っこには、土がついており、霧で湿った芝生のせいで濡れたお尻を心配したようだった。




「お尻が冷たい…」


「みゅーぅ…」




 悲しそうに男の子が言えば、同じようにこくりと、双子の片割れが頷いた。


 金髪の女の子はさっさと立ち上がり、スカートの端を叩いた。




「の。誰か来るですの」




 同じように立ち上がり、二人して双子に手を貸した後、美少女が呟く。

 彼女は身体能力といい、気配にも敏いらしい。


 アルルカンは人形であるので、気配が読めるという感覚はわからないが、馴染みある《魔法》の感覚に《No.7》の存在を知った。




「よく来た。《魔の森》へ」




 言葉少なに《No.7 “イーサ=ヘルマ“》が現れる。


 繊細な金の髪は長さがあり、後ろで三つ編みにして背に垂らしてある。

 ダークエルフ特徴の浅黒い肌がその金髪をよく映えさせ、深い森の緑が彼(恐らく男性という話だ)の美貌をより引き立てていた。

 体の線も少年と取っていいのか、女性と取っていいのか、線が細くすらりとしており、さらに中性的な彼の顔が性別、年齢を不詳にしている。




「ダークエルフの《イーサ》ダ。コのエリアを案内しテクレる」


「「「こんにちはー(みゅっふー)」」」




 アルルカンがガイドよろしく告げれば、四人組もにこにこと彼に挨拶した。


 彼は革鎧という軽装に大きな樫の弓を背負い、軽い足取りで歩きだし、数歩先で振り返る。

 “ついてこい”と言うことなので、四人組もはっとして駆け出した。




「待って、待ってー」




 親カモについていく、子ガモのように歩き出す四人組。

 アルルカンは最後尾についていく。


 慣れた様子のイーサは、時折ナイフや弓で背の高い雑草や、目の位置にある木の枝を折りながら進んでくれる。

 木の根っこに足をとられながらも、「いっしょっ、よいっしょ」と子供達はついていった。




「ここは泉。様々な動物がやってくる」




 言葉少なにイーサが告げれば、早速空から何かが舞い降りてきた。




「わしっ!犬っ!しっぽ、ライオン!」


「違うですの、グリフォンですの」




 男の子が見えたままを告げると、詳しいらしい美少女がそう言って、茂みから前に出た。




「こんにちはですの」




 わしの声そっくりの甲高い声がして、グリフォンは鳴いた。

 それからじっと彼女を、こちらを見ていたが、特に気にしていないように泉の水を飲みだした。




「のー?」




 何の反応もない事が不思議だったか、美少女がそう言いながら首を傾げた。


 するとイーサも同様に前に進み出、グリフォンの近くまで歩み寄り、何事か囁くようにグリフォンの背を撫でる。

 隠れるようにしていた茂みから、もぐらのように顔を出していた残りの三人も、そろそろと出てきた。



 アルルカンはその場に留まり、彼らを見守ることにした。

 姿を現すと現さないとで、状況も違うことがある。




「ん?」




 グリフォンを撫でているイーサの数メートル前で見守っている四人組だったが、男の子がふと右手側を見た。


 かさっと微かな音がして、一歩向こうの茂みからは、白いウサギが出てくる。


 ふわふわもこもこのそれに、一番に気が付いた男の子が、じっと見つめてくるウサギと同じ、真ん丸な無垢の目で微笑んだ。




「もこもこ…」




 にこにこと一歩踏み出す男の子。



 小動物に興味を持つ子供の様子にアルルカンは興味を持って眺めたが、イーサは振り返って険しい顔をし、素早く懐から幅の広いサバイバルナイフを引き抜くと、男の子に向かって地を蹴った。



 白ウサギの一メートル前で止まってしゃがみこんだ男の子は、それをじっと見つめたまま小首を傾げる。

 同じようにもそもそ口を動かしつつ、ぱっぱっぱとキョロキョロ動くウサギ。



 男の子は背を向けているからともかくも、後ろから殺気立つイーサが見えているのに、それは逃げる様子はない。


 流石におかしいと気が付き、アルルカンも右手を起動させた。

 じわりと空気が歪んだ様に見えるが、それが高熱を発しているからに他ならない。




 イーサがたどり着き、男の子の襟首を掴むと、反転するように体を捩じる。


 次に見たのは、アルルカンも驚いた。



 グパッ。



 そう表現するのが、妥当だろう。

 小さいウサギの顔が割け、三角形の頂点方向に伸びるように皮が広がり、体を構成していた部分まで、倍に広がった。



 外側は哀れなウサギの毛皮のようだが、中身はというと、巨大な口。


 グロテスクなそれに、抱えられてよくわからない男の子はともかく、他の子供が悲鳴を上げた。


 ぴょんと単調な動きで跳ねた口が、イーサごと男の子を食べようと迫る。


 予測していたのだろうイーサがナイフを構えた。

 だが、自動人形であるアルルカンの動きはそれより早く、一瞬で彼らの間に立つと、右手を掲げる。




「“閃光の掌”」




 右手の周囲だけ歪んでいた空気が、さらに震えた。

 そのまま空気が弾かれるように、手が発火する。



 放物線を描いて落ちてきた化け物ウサギが、取り込もうとした手の一歩前で、風に押しやられ、落ちた。


 ぎゅっと短い音がして、動かなくなったと同時に、白かった外見は黒焦げになって煙が出る。

 肉の焼ける臭いと共に、小さく縮んだ。



 ほっと息を吐いて、イーサは構えていたナイフを下ろし、よくわかっていない男の子を下ろした。




「う?」


「大丈夫ですの?」




 目をぱちくりさせる男の子に、歩み寄って美少女は尋ねる。

 心配そうな顔をしており、彼女の後ろの二人もまずいものを食べたような顔をして抱き合っていた。



 彼女を見上げて、イーサを見上げて、そうして右手の起動を終えて冷却の為に振っているアルルカンを見、彼はまた瞬きをした。




「魔物だ。肉を食べるために、襲ってくる」




 イーサが簡潔すぎる説明をすれば、男の子はしょんぼりして、困ったように眉を下げた。




「こわいね…」


「ここは、悪役の会社だ。怖いものの方が、多い」




 シビアなイーサの言葉を受けて、泣き出す程でないにせよ、彼は少し気を引き締めたようだった。

 決意をしたような顔で一度頷き、大きな声で。




「うん。きをつけるっ!」




 早速、忘れることにしたらしい。


 イーサは無表情に彼らを眺めていたが、その楽天的な言葉に、微かににやりと微笑んだ。

 仕事の時以外は無表情の彼の事、その顔は悪役ながら、彼なりの感情表現だったのだろう。


 そうしてアルルカンと子供達は次のエリア、第一セクター、戦隊モノ関連施設に進んだ。



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