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Darker Holic  作者: 和砂
side3
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side3 悪役とちびっこ。1



 《瞬加速》を使って階下に下りた《No.8》を、《No.10“アルルカン”》は最終地点で補足した。


 彼は、四人の子供達の前で、《No.4》である狂科学者の首を絞め、片手で彼から子供たちを遠ざけようと、「しっしっ」と振っている。


 彼は本当に、世話好きだ。




 子供達の要望と社内説明の為、一時カウンタ奥に引っ込んでいた《No.6“キョウカ”》がその状況に気づき、《No.11“蘇芳”》を伴って駆け足で戻ってくる。


 一瞬で理解する所が彼女らしく、慌てて子供達を無理やり抱き込んだ。


 何とも言い難い、状況についていけない《蘇芳》は、二、三言彼女と言葉を交わし、ようやく理解して子供達を抱き込む《キョウカ》の前に立つ。




 悪の幹部のはずだが、彼ら三人とも、お人よしだ。


 悪くないと、《アルルカン》は判断した。




 別段、悪役の仕事をしているからと言って、皆が皆、凶暴でも凶悪でもない。


 かくいう《アルルカン》も、創造主の趣味か、そういった道徳観念はしっかりしていた。

 彼は人間が好きなのだ。




「全く、油断も隙もない…」




 キョウカが苦々しくつぶやいた声を拾い、《アルルカン》は優雅な足取りそのままに、《シュートランス》が高速で駆け降りた階段を下りた。




 硬いものがフロアに当たる音(要は靴音だが)と、キリキリ動く歯車の音を纏ったアルルカンに、腕に抱き込まれて窮屈そうに身じろぎしていた子供達の視線が向けられる。




「お?」




 一番に反応するのは、青い髪の双子の、男の子の方。

 四人の中で一番おしゃべり、そうして一番騒々しかった彼だ。




 可愛らしい顔立ちの、その青い瞳と視線が合って、アルルカンは悪役のサービス精神で、恭しくお辞儀をして見せた。




「おぉおっ!?」




 興味深そうに唇を尖らせる男の子は、アルルカンに釘付けになったかのよう。


 男の子の隣では、双子の片割れが「みゃみゃみゃ」と、キョウカの拘束を逃れようと身じろぎしていた。



 その隣の、水色の髪に紫の瞳の美少女は、男の子に次いでアルルカンに興味を持ったようで、「のー?」と首をかしげている。

 もう一人、地味な雰囲気ながら、朱色の印象的な瞳を持つ、全体的に儚い色彩の少女は、ぽかんとしていたが、その横で身じろぎする双子の片割れも気にしているようだ。




「お人形さんが、動いてるですの」


「動いているわね…」




 「みゃみゃみゃみゃみゃ…」とさらに身じろぎする双子の片割れの頭を撫でながら、金髪に朱色の目の少女が、美少女に同意した。


 アルルカンは、それにも薄く微笑む。




 彼らの元にやってくる頃には、「うら若い、献体ぃー!」と歓喜の声を上げる要注意人物を、シュートランスが強制的に奥に引っ張って行った。


 とりあえず、一時は静かになるだろう。




「みゅっ! みゅみぃ!」




 すぽんっと良い音がして、双子の片割れがキョウカの腕から飛び出し、くるりと一回転して、アルルカンの足に当たって止まった。


 折角のフリルのスカートが汚れる動きであるが、ちっとも惜しむ様子はない。

 キリキリと顔を向けると、男の子と同じく青い瞳が見えた。




「みゃあ~」




 ぽかんとつぶやく言葉に、アルルカンはそっと身をかがめると、キリキリいう歯車の音はそのまま、双子の片割れを抱き上げた。


 そのまま、立たせるように足から地面につけてやる。




「みゅみぃ」




 お礼を言うように、双子の片割れが微笑んだ。


 その瞬間、キョウカに解放された子供たちは、わっとアルルカンに殺到する。




 美少女は彼の周囲をぐるぐる回り、「人が居るですの? 《魔族》ですの?」と興味津々だ。


 彼女と反対に回りながら、金髪の少女は、こんこんと彼の体をノックし、「中は空洞だわ」と調べるように言う。




「おねいさん、これ、なぁに? ロボット?」




 男の子が振り返って問えば、アルルカンはやっと口を開いた。




「私ハ、《No.10“アルルカン”》」


「おぉ、…しゃべった…」




 びくっと身を引く男の子。


 逆に他の女の子は、さらに頻回に彼の周りをまわりながら「凄いですの!」「しゃべったわ…」「みゅ」と関心している。




「ヨうコそ、《Darker Holic》へ」


「こっ…こ、こんにち、は…」




 恐る恐る、怖いもの見たさに手を伸ばすように、男の子が身を引きつつ挨拶する。


 それに軽く小首を傾げながら、「アァ、こんにチは」と返せば、難しい顔をして、一度手を止めた。





 他の三人は言わずもがな。


 男の子とは随分性格が違うようで、「こんにちは(ですの)」「みゅっふー」と思い思いに挨拶を返す。




「《アルルカン》。珍しいな」




 未知のものに対して子供たちの興味が集中している時、腕から子供が消えて寂しそうな残念そうな顔をするキョウカを立たせ、蘇芳がシュートランスと同じことをいう。


 珍しい存在とあって、いつもは本社の奥に居るから彼の疑問は自然である。




「《グレイス》嬢の見舞イに」


「…あぁ」




 簡潔に言うと、こちらも納得したように頷いた。

 そういう所までシュートランスにそっくりである。



 それ以降、彼は特に話すこともないのか、元通りカウンタ近くに立って気配を消すように沈黙した。


 代わって、キョウカは仕事に意識を切り替えたのか、子供達を呼ぶ。




「はーい。じゃあ、皆、この名前札をつけてね」




 彼女は手際良く、社内見学者用のIDチップが入った名札を各人につけてやった。


 早速つけてもらった丸いバッチを、男の子が服を引っ張り、様々な角度から眺める。

 特に何の特徴もないのだが、面白そうに小さく口の端が上がっていた。




「みゅ。みゅー、みー!」




 RPGの勇者の様に、何かレベルアップしたと言わんばかりの双子の片割れは、片手で拳を握り、天へ伸ばした。


 しかし何も起こらない。




「お姉さん、これ、どうするの?」




 金髪の少女が尋ねれば、美少女に名札をつけていたキョウカも顔を向けて微笑む。




「皆、色々見て回るために、ドアの鍵だったり、迷子センサーだったり、案内板を利用するためのチップが入っているの。

 それがあれば、悪役に襲われることはないわよ?」




 にんまりと微笑むキョウカに、少女は「…そう…?」とよくわからない返事をした。




「鍵ですの…」




 失くさないようにしないと、と少し気を引き締める美少女を見て、キョウカはまた笑った。




「お腹が減った時は、食堂でそれを見せてね。お菓子も出るわよ」




 そういうと、子供たちは途端に「「「「きゃー」」」」と歓声をあげた。



 にこにこして見守るキョウカは、思い出したようにアルルカンを見上げる。

 黒い瞳が、磨かれた黒曜石の様だ。




「そうだ。《アルルカン》、案内してもらえない? 私、あと1時間はシフト回ってこないのよ。

 《蘇芳》だと、不安だし」


「承知シた」


「ありがと。Bコースだから」




 ほっとしたように微笑む、彼女。




 ふと思いついて、アルルカンは蘇芳の方を見たが、彼は視線に気づいて目を動かしたぐらいで、他は平常時と変化はなかった。



 これがシュートランスや、論外なマッドであれば、彼はまた違う反応を示しただろうかと、人間観察に余念がないアルルカンは思うが、今回はそれを知る術がなかった。


 それでも残念だと思わず、彼は子供達へ視線を向ける。




「でハ、ゴ案内しヨう」


「「「はぁーい!」」」




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