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Darker Holic  作者: 和砂
side1
5/113

side1 惑星侵攻2

…意図せず、乙女ゲーのような雰囲気を出してしまいました。

苦手な方は戦術的撤退をしてください。


 適度に起伏あり平野ありで、攻め入るにも迎え撃つにも良い地形。


 惑星侵攻のための拠点占拠も兼ねた、今回の作戦。正義サイドはこちらよりも早く地点に陣を張っていたが、チームワークが上手くいっていないのか戦力に偏りが見られる。対して阿修羅族は件のNo.2をトップとして、量産型戦闘機で隊を形成していた。

 鏡花は傭兵であり、量産型のチームに多少とも指示を出せる権限を持っていたが、基本的に個人プレーだ。それも、阿修羅族の駒的扱いで、陽動や撤退の際の最後尾、はたまた最前線での斬り込みを主とする雑用である。


 山の麓に陣を張っている正義サイドと、海上から侵攻してきた阿修羅族が睨みあっている状況で、鏡花はエリアの中央東寄りに居た。迎撃するには機動力に優れた機体ばかりで違和感が拭えない。自身の搭乗する漆黒機の視覚センサで正義サイドの隠形を探そうとスキャンをかけるが、発見できなかった。


 しかし、阿修羅族は侵攻する惑星の原住民とは違い、既に確立された転移システムを持っており、それを利用して何回かの戦闘に勝利している。今は姿を隠し、状況を判断するNo.2もそれを使用して、正義サイドの陣を襲撃する予定だ。




「そろそろ、だと思うんだけれど…」




 鏡花の使用する漆黒機は機動力重視の機体である。最前線である中央で、その素早さにて正義サイドの何体かを罠に誘導、奇襲をかけて潰し、さらに前へ出てきた軽量型の機体をプチ潰す。また逆らったら大変恐ろしいNo.2の指示通りに隊も展開しており、阿修羅族側が有利であった。


 と、そんな時に漆黒機が通信を傍受する。阿修羅族とも完全な仲間とは言えない立場の鏡花は、当然彼らの電波もハックするが、今回は正義サイドだ。どうやら、さらに仲間を増やしてこちらに応援に来ているらしい。苦境の仲間に対する応援も含めてなので、概要するとそういう事だ。




「---……シグウィル様。応援呼ばれてるけど」


『………』




 慇懃無礼な鏡花の通信に、一応通信を繋げた気配がある。予想通り無言ではあったが、鏡花の眺めている先、正義サイドの陣で真っ赤な火花が上がった。阿修羅族No.2の率いる奇襲隊だ。

 機動力よりむしろパワー重視のシグウィル様の機体は、ド派手な深紅。これで奥義も炎というから王道である。機体に搭乗しての戦闘にも関わらず、阿修羅族は格闘技を模した接近戦のプロフェッショナルで、今回の奇襲も大いにこちらが有利だった。




「ところでシグウィル様。私はそっちの物資回収した方が良いのかしら。

 それとも、あのやってきた三体で遊ぶべきなの?」


『好きにしろ。近づけば、命の保証はせん』


「はいはい。了解。遊んできますよ」




 正義サイドに応援に来た機体は、流形のフォルムが美しい最新機体と従来のどっしりした機体、なんとなく生物的な機体の三体だった。今までの戦闘で正義サイドに協力するようなしないような、中間の立場をとっていた奴らだ。どうやら説得に成功した様子である。

 押している最前線を量産型に任せ、漆黒機は三体の前に出た。

 早速ビームにて迎撃されるが、機動力重視のこちら、軽く避ける。対三体の不利な戦闘でも、今までのデータやDHの添付資料(阿修羅族にはもちろん内密ですよ)にてある程度の解析を済ませていた鏡花は、あっさり生物的な機体の弱点である、羽根の付け根を切り落とした。




「はい。戦闘不能」



 正義サイドの仲間になった途端に弱くなるという、ある意味王道定義は、こういうDHの地道な仕事っぷりにあると鏡花は思っている。続いて最終決戦に向けて正義サイドの機体を育てたい鏡花は、残りの二体を手玉に取った。まだまだ初期のこの段階では、漆黒機の方が有利なのだ。

 戦闘はまた阿修羅族の有利で終わるのかと予測していた鏡花だが、物資の回収と共に正義サイドの陣が崩壊する音を聞いて思わず振り返った。




『もらったぁっ!』


「あたっ。…く、15%か」




 不意打ちに漆黒機がダメージをくらう。それでも陣を確認すると、物資を回収して上手く立ち回れないシグウィル様ご一行が困惑していた。どうやら火がついたシグウィル様が勢い余ってというわけでなく、正義サイドの自爆のようだ。

 はっきり言って、量産型はともかくシグウィル様の深紅機が施設自爆ぐらいで傷つくはずもない。優先するべきは物資の回収とシグウィル様は量産型を本拠に転移させ、自分は撤収の最後を取っているらしかった。




『喰らえぇ―――っ!!』




 レベル上げのために相手をするつもりだった二体から、さらに守るものがなくなって身軽になった正義サイドの何体かが、一斉に飛びかかってくる。

 流れが変わったと感じた時には、いつもは遠巻きにするシグウィル様にも正義サイドが殺到していた。むしろ、普段なら漆黒機に群がってくるはずだが、それにしては鏡花の側が少ない。

 近くにいた量産型四体が戦闘不能、自爆に追いやられている。


 何という、綺麗な逆転。


 悔しい思いをしつつ善戦していると、正義サイドの変わった行動に気がついた。シグウィル様に群がっていると思われた正義サイドだが、その近くの機器やら量産型にも攻撃を向けている。それも、脅威であるはずのシグウィル様を無視した形を取って、だ。

 その先陣を切るのは、シグウィル様の深紅機に大変よく似た、青い機体。




「ファート君じゃないの。道理で」




 先ほどまでフィールドに居なかったのは、阿修羅族の技術を使っての隠形らしい。もっと念入りにしておくべきだったと鏡花は舌打ちしたが、全くもって、後の祭り。DH業務としての今後の展開に都合が良いこの流れは、転機だ。

 こうして最優先である物資の回収は済んだものの、阿修羅族側の敗退に終わった。











 



「あーあ、結局、《転移陣》取られちゃうしさーぁ」




 やるせない思いと吐きだした溜息は重い。鏡花は先の戦闘の後、自室に直行した。


 宇宙を駆ける漆黒の愛機の姿は搭乗者である鏡花にも美しいと感じられる。業務実績として、常にログを取っているため、鏡花は後でDH社にそれを見せてもらうのを楽しみにしていた。

 そして今回、また別の楽しみがある。

 奇しくも相まみえた宿命の兄弟。

 N0.2の搭乗する鮮烈な紅い機体と、正義サイドに入ってしまった件の弟君の清涼な青の機体の競演は確かに幻想的であった。

 その幻想は、DHの望むところ。盛り上がりのクライマックスを呼び込むものだ。

 その一方で 一応あれこれと策を巡らせた悪役でもある彼女は、勝敗五分五分とはいえ、高価なテレポーテーション装置を呆気なく正義サイドに取られた悔しさがある。


 そんなジレンマを解消するためにも、月に何度かの会社への通信に、鏡花は溜まった愚痴をこぼしていた。

 現在鏡花が居る阿修羅族と惑星の世界とは、DH本社と次元が違う。異世界間という次元の差のせいか通信も不良で、通常は映像を映すディスプレイも砂嵐だ。しかし、DH、No.8《シュートランス》の声ははっきりと届いている。




『諦めろよ、それが仕事だろ』


「まぁ、…そうだけど。悪役だって、奉仕じゃないんだよ? シューちゃん、冷たくなーい?」




 非難の台詞を吐く鏡花。しかし、返答がある度にディスプレイの砂嵐が若干変化するのも、鏡花は楽しく眺めていた。




『シューちゃん言うな。通信切って、縁切るぞ』




 不機嫌に言われた台詞に小さく笑って、鏡花はベッドに寝そべったまま脚をばたばたと動かして答える。

 戦闘服である黒いボディースーツではなく、阿修羅族の民族衣装である着物に近い形状の柔らかい部屋着だ。




「親愛の情を何で否定するかな。それより、一人孤独な妹分に、激励のプレゼントとかないの?」


『俺より給料良いくせに、馬鹿言え。俺の方が欲しいぐらいだ』




 一瞬大きく乱れた砂嵐からは、何もかもうんざりだという声と響きしか発せられないのに、聞いている鏡花の笑みは濃くなる。

 意地悪な人物を気取っているくせにあれで面倒見が良いDHの兄貴分は、鏡花と同じく、ミッションのために派遣されているスタッフを通して、後からこっそり便利な道具を送ってくれるに違いない。

 基本的に身内に甘いDHの中でも、鏡花とNo.8の関係は親密で、彼女は特に愛されているなぁと感じる。兄弟のような関係を築いているとはいっても、シュートランスは別に血縁でもなんでもない、赤の他人であるのだが。




「はいはい。わかりました、頑張りますぅ」




 眉根を寄せて不景気面をしている黒い髪の彼を思い浮かべ、本社で仕事をしている時のような、ほんわかと安心した気分を味わう。わざと兄を困らせる妹らしく言って、鏡花は別れの挨拶後、通信を切った。

 長い時間同一姿勢だったので、ぐっと背伸びをしてリラックスする。

 かといって部屋に閉じこもりきりも何なので、扉から出、何となしに愛機のある格納庫へ向かった。


 この艦は今、安全区域を飛行中であり、艦のクルーは自由行動中の者が多い。

 鏡花以外の阿修羅族幹部が気軽に通路を歩いている所を見た事はないが、そのせいもあって、誰も異種族である鏡花を咎める者もいない。




「…………変なの。消し忘れ?」




 特にパスもなく格納庫の扉を開け、明かりのついていた階段を下りる。

 鏡花も普段身につけない阿修羅族の衣装とそれに合わせた柔らかい布靴で過ごしていたので、階段を降りる足音もすっと布靴に吸収されてしまった。

 そうして愛機である漆黒の機械巨人の前に立った鏡花は、沈黙する彼(鏡花はそう思うことにしている)にふっと破顔する。


 入社とほぼ同時に彼女のパートナーとなった彼を眺めていると、自然と柔らかな笑みが浮かんだ。

 それは、無愛想な兄貴分と同じイメージを持っているからだろうか。


 ふと物音を感じて、鏡花は振り返る。

 膝を立てた愛機が隔てる向こうへと、二・三ステップで身を乗り出した。




「シグウィル…」




 存外に小さな声だったが彼に届いた様子で、氷の視線が返ってきた。

 久しぶりのDHへの通信で気分が良かったのもあって、なんともいえない、不味い物を飲み込んだような表情に変わった鏡花を、シグウィルは興味ないと体現して踵を返す。




「あ…」




 挨拶もなしに別れられると、人として呼び止めたくなる。

 ふと声が漏れた鏡花だったが、さらに意外な事に、シグウィルまでもが振り返った。相変わらず無遠慮な冷たい視線ではあったが。




「何だ」




 低い声が返ってきて、鏡花は驚きの表情を浮かべたあと、場を取り繕うように愛機を飛び越え彼の前に立った。ひらりと裾がはためいたが、勝手が違う服なので、さっと形を整えるだけに済ませる。

 彼女はいつものように気取った仕草を取った。




「意図して呼び止めたわけではないけれど、…奇遇だと思って」




 不機嫌そうな表情からシュートランスを思い出し、鏡花はOFFでなければ見せない、やや柔らかい印象で苦笑した。対してシグウィルは無感動に視線を降り注がせていたが、やや視線をずらして答える。




「何処に居ようが、貴様に関係ない」


「…まぁ、そうでしょうけれど」




 予想通りといえば予想通りの答えに、鏡花はやれやれと溜息を吐いた。

 そして唐突に思い出したことがあり、彼に問う。




「……そういえば………なんでこの前、止めなかったの?」




 それはシュートランスに愚痴ったミッションでもあった、転移陣を取られたアレである。

 あからさまに転移陣を狙ってきた正義サイドを、彼はそのまま見送った。彼らがこれからの阿修羅族への攻撃に転移陣を使うと、絶対気がついていたはずである。




「王に言った通りだ。ファートの可能性に賭けた。しばし静観し、邪魔であれば排除する」




 鏡花と同様、シグウィルも阿修羅族幹部の非難に立たされた先ほどの会議の内容を繰りかえす。

 あまりに素っ気無い答えに、思わず鏡花は笑っていた。小さく笑い声を響かせたこともあり、シグウィルが怪訝そうな視線を向けてくる。

 その時の鏡花の行動は、彼女自身、後で思い返してみても不思議なことだが、悪役としての自分の役割を忘れてしまう、頭のシナリオにない、明るい行動であった。




「あ、あはっ、はははっ…素直に言えば良いじゃないの。《お兄ちゃん》」




 途端に不可解さが最高値に達したような表情になるシグウィル。それに気がついたが、さらに鏡花は無視して続けた。




「ふふ…ちょっと、気まずかったんでしょう。今まで貴方にとっての、素直で従順な良い子だった彼が、向こうに行って……理由が知りたかったんでしょう?」




 眉を吊り上げ、今度こそ憤慨に顔を歪めたNo.2に、鏡花は尚も笑い続けた。

 怒りに言葉を失くしたシグウィルが立ち直って、怒鳴り返そうとしたその瞬間、彼女は目じりを下げた柔らかい笑顔で彼を見る。




「案外可愛いところあるのね、シグウィル」


「……」




 それは、これまで向けられたことのない種類の感情だったのであろう。

 シグウィルは、目を見張って沈黙した。

 彼の色素の薄い長髪が、さらりと肩から滑り落ちる音がする。鏡花は仕事上、上司に当たる彼に憚って笑いを止めようとするのに必死で気がつかない。




「……どういう意味だ」




 長い沈黙の後、シグウィルが言った。

 鏡花は笑いをそろそろ引っ込めようとした最中であったが、それにさらに噴出した。

 可笑しくてたまらないといったそれは、本来のシグウィルには不快に映ったかもしれないが、彼はそれよりも理解を優先したのだろう。




「だって、…そんな兄弟なら当然の感情、どうして抑え込むのかわからないからよ。ねぇ、それとも阿修羅族No.2が照れているの? その仏頂面で?」




 言いながら鏡花は、自分の言葉にさらに笑い転げた。仕舞いには、目尻に浮かんだ涙を指で弾きつつ、腹が痛いとのたまう始末だ。

 シグウィルは不機嫌を増強したが、それさえ鏡花には照れ隠しに思えないこともない。




「ねぇ。不思議よねぇ、阿修羅族って。弱い奴は死ねって平気で言うのに、結構身内に甘いところとか」


「馬鹿な。そのような意味ではない」




 きっぱりと言い切ったそれに、鏡花は生返事を返して、シグウィルを見上げた。いつもの嫌そうな表情ではなく、年頃の娘らしい、愛嬌のある表情だ。

 それに呆然としたのか、シグウィルが止まる。




「貴方はどうなの、シグウィル。ファートの言う、制圧以外の別の道って奴に、興味はある?」




 存外、真剣味を帯びた鏡花の声に、シグウィルは動揺する己の一切を感知することをやめた。言葉を選ぶように慎重に口を開くと、視線を伏せつつ返す。彼にとっても重要な事なのだろう。




「阿修羅は、一度世界を失った。これまでのやり方では、同じ事を繰り返す可能性がある」


「それで?」


「興味がないわけでは、ない」




 さらりと言葉に出た事に、シグウィルは変な顔をした。

 鏡花は笑いを引っ込めたそれで彼を見上げ、何事かに満足したように微笑んだ。

 それをシグウィルは視線を動かすだけで確認する。




「貴方、悪役には向かないわよ」




 それがあまりにも物珍しい鏡花の表情であったので、シグウィルは上官に対する無礼に咎をかけることを失念した。不覚にも、定期巡回でやってきた見回り役が格納庫の扉を開ける音を聞くまで眺めてしまっていた。


 遠くからの音を拾った鏡花は、はっと顔を上げるとシグウィルから距離をとり、しかし、今までに見せていた邪険な態度でなく、ある種共感めいたもので彼の名を呼ぶ。




「じゃあ、また、《戦場(フィールド)》で」




そして彼から怒鳴りつけられる前に、逃げ出したネズミの様に、その場を後にした。


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