side3 No.10 ”アルルカン”
side3開始です。
こちらも、またもや見切り発車。
今回、短文です。
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「《アルルカン》」
キリキリと小さな音を認識する。
それが自分を動かしている音だったが、そんな事を考えも、感じもしない程、《私》の存在は未熟なものであった。
赤ん坊のように、声のした方に首を向けた気がする。
人の動きではなく歯車の動きで、《私》は見上げた。
この世に生み出されて初めに目にしたものは、自分と同じ目の色を持つ生物だった。
その当時の自分は、自我も何もないような状態であったが、ぼんやりと移り変わる薄い緑色の瞳は好感を持った気がする。
後から鏡という、反射を利用して己が姿を見る道具を使用して、自分がどういう形を持つものかという認識をするまで、自分も同じ瞳であると知ることはなかったが、何かしら自身と共通するものだと認識していた。
私、《アルルカン》は、創造主と同じ種族を模した人形に、創造主が持っていた《生命の石》を植えつけたモノである。
本来ならば、自我など目覚めるはずのない人形は、しかし、《生命の石》という物質を介して意志を持った。
《魔法》と呼ばれる不可思議な現象のある世界ではあったが、モノに意志を持たせるという現象は終ぞ珍しいものだという。
そんな奇跡の様な《アルルカン》を作り上げた創造主は、緑の瞳が美しい、異世界で《魔女》と呼ばれる存在であった。
またの名を《魔法使い》、また別の地域では《錬金術師》、《人形師》、《賢者》、《隠者》。
大凡定まる事のない呼び名であり、明確な役割の元に定められた呼び名であった。
つまり、《人》とは違う存在であると、認識されている者であった。
彼が何を思って《私》を作ったのかわからないが、恐らく、孤独からではないかと思われる。
暖かな陽光が差し込む、穏やかなアトリエの内部であったが、セピア色のそこに生物のぬくもりを見出すことはなかった。
確かに彼が生活し仕事をしていくための物があり、日々を過ごすために乱雑に物が散っていても、閑散とした印象が染みついていた。
動くものが彼と《アルルカン》しかない、時が止まった、閉鎖空間。
「初めまして、私の―――」
差し出された手。
何も感じない、何もわからない《私》が認識した全ては、そこから始まっていた。
「お前に頼みたいことがある」
これは、《私》の願いだろうか。それとも彼の妄執だろうか。
《私》は、彼の時が止まり眠りにつくまで、ついてからも、動き続ける。
永遠に。