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Darker Holic  作者: 和砂
side2
47/113

side2 幹部Sの信念4




『《シュートランス》、上!!』


「!」




 途端に知り合いの声に変化した機器を見やり、次に言われた通り、彼は上空を見上げた。



 晴れた青い空に、中途半端に雲が流れて糸を引いている。

 それよりもっと地面側に、次元転移する際にも御馴染みの黒い闇が丸く広がっていた。



 陰ったそこに、怪人から意図を問う内線が入るが、啓吾にも理解不能だ。

 何せ、この転移は準備段階でスタッフの移動に使用する以外、基本的に物語に登場しないのだから。




「どうなっている?」




 インカムでなく肉声で出た声に答えたのは、鏡花だ。

 後ろの方で騒然とした音を聞き取り、慌ただしい。




『こちら、本部。何か転送されているわ。それも、《DH社(本社)》経由で!』


『馬鹿言え。戦隊担当(俺達)が転移使うはずないだろっ。調べろ!』


『今しいてる!』




 興奮しているらしく、彼女から怒鳴られ、啓吾は職人側に目を向けた。


 彼は一度啓吾を見ると、微かに肩を竦めて見せる。

 職人側でもないとすると、さらに戦隊ヒーロー担当とは関係ないものだろう。




 暗黒神の力を利用したそれは、毎回毎回禍々しい事この上ないが、今回のはさらに輪をかけて不気味である。


 粘着質な映像が、ゆっくりと何かを吐き出してきた。



 生物でなく、無機物。


 怪訝そうな啓吾の目の前で、五色の機械が落ちてくる。




 ―――――まずい。




 咄嗟に彼はヘリから飛び降りた。


 重量に見合った速度で、金属の塊が振ってき、ヘリにぶつかり、それごと落ちる。




 能力使用した啓吾は、着地と同時に落下地点から離れた。


 間一髪で、ヘリが墜落する。




 《ナビ》は疑似生命体で、本来はヘリではない。

 彼女(便宜上)は大丈夫だと自分に言い聞かせたが、やはり気分の良いものではなく、一瞬だけ呆気にとられた。






 騒音と土煙、墜落した際の爆発、吹き飛んできた破片の流れ弾。




 戦隊ヒーローも含めて場が騒然となり、啓吾がさっと確認しただけでも、爆発に巻き込まれてスタッフが本社に運ばれていくのが見えた。



 エントランス側には、応援を呼ばれて珍しく人型を取った《竜人》が、険しい顔で怪我人と向き合っている。

 彼の魔法で治癒されている所を見て、それらの心配を捨て置いた。




『杉本さん、場を継続!』


「うをぉぉぉぉぉぉーーーーー!」




 意地でも終わらせると、指示を出せば、驚きに固まっているヒーローに怪人が突撃していった。


 はっと我に返った彼らは、怪人を迎撃するため(先ほどのダメージはどうしたのか)勢いよく立ち上がり、衝突する。




 舌打ちを繰り返す啓吾を放置し、怪人とヒーローはいつも通りの、スーパーヒーロータイムを展開、独自の世界に入った。



 ブーツを響かせ、下っ端が消火活動するヘリの残骸に近づくと、墜ちてきたらしい機械は無傷。

 上空にあった転移は、影も形もない。




『《キョウカ》。どうだ?』


『本社の回線はグリーン。他部署も使用状況なし。

 パワーダウンと同じ結果が出て…ハック、されていた可能性…』




 正直、またかと思っただけだった。


 二回も本社への介入を許しているし、対策を十分に打ち出せていない短期間に繰り返されたところが状況を結びつける。


 どうあっても、見もせぬ誰かは、この仕事をダメにしたいらしい。


 何の理由があるのか、目的は、手段はと、苛立たしい事ばかりだ。






 ふと、啓吾は機械を目にして思った。


 すべて別々の色であり、このカラーバリエーションが見覚えのあるもので構成されている。

 フォルム的にも、何となく、よく見かけるもの。

 そこに《SREC》の文字がなくとも、形状は正義の味方が好む格好よさ、精練さを出している。




 ―――――ピピピ!!




 一斉にヒーロー達のカセットが鳴り、啓吾は振り向いた。


 怪人から一度離れた彼らは、条件反射かカセットに触れる。




『『―――now load―――』』




 やけに発音の良い低い声と効果音が出、嫌な予感に、怪人、下っ端、もちろん啓吾も踏鞴を踏んだ。



 さらにヘリ側をばっと振り向いた啓吾だが、その時には遅く、機械は一度特殊効果“光の玉”状になると、各自のカラー対応ヒーローの元へと飛んで行った。


 こんな異常事態でもエフェクトの情熱と効果は続き、目の前に対応した色の機械が現れたヒーロー達は、ふわりと光に包まれる。




『間に合ってよかった! 皆、新しい武器よ!!』




 いつのまに元のカセットに戻ったのか、電子界上で《キョウカ》に拘束されていた《ナビ》は元気にそう叫んだ。

 人質が勝手にヒーロー側に戻り、彼らのように単純に状況を受け入れられない悪役たちは浮足立つ。




『皆の力を一つに合わせて!!』




 強力な武器らしいモノの出現と、動揺の走る悪役を感じたヒーロー達は、言われるまま、戸惑いながらも各自の武器を変形させ、合体させた。


 そう、ロボの前の段階でよく見る、波動砲的な何かを形成。


 標準を、王道的に怪人に向けていた。




 本心としては逃げ出したいところだが、悪役としての仕事中である杉本さんは、逃げることなく、狙われるまま後ろに二、三歩下がる。




「わしの、《MSSB》いぃぃぃぃぃぃ―――――――――――――――!!!!!!」




 横殴りの、爺さんの悲鳴が聞こえ、啓吾はちらりと横目でエントランスを見た。

 今にも飛び込んできそうな爺さんを、下っ端の二人掛かりで押さえつける。




 『警戒レベル、Bぃに、上げて』




 マッドの声が、今頃再生された。


 普段から無茶苦茶やるマッドが、あまりの威力に封印したという技術を用いたもの。

 バズーカの先端に光が収縮していくのを、まずいとは思いながらも眺めるしかない。




『40,50,60…エネルギー、制服耐性値を超えて、収束中!

 《シューちゃん》、《杉本さん》死んじゃうよぉっ!!!』




 一旦切っていた鏡花が、強引に通信を開いて訴える。


 機械関係に詳しい彼女の能力から出た予想で、言われた言葉は間違いないのだろう。

 見ているだけの啓吾も、死の予感らしい戦慄と、背を伝う冷や汗を感じていた。



 緊張で、喉を嚥下する。


 目測したカウントダウンが頭の中で警報を発しているが、啓吾の《瞬加速》では今の状況をどうしようもない。




 逃げろと叫ぼうと彼が口を開いた瞬間、杉本さんの、ライオンの横顔がちらりと啓吾を見た。






 ――――――――――仕事を、続けろ。






 頭が真っ白になった。






「やめろおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!」




 怒号と悲鳴とが、場を揺らす。



 最大値まで収束したエネルギーは、眩い閃光を放ったかと思うと、皆が息を飲んだ瞬間に、轟音を立てて解き放たれた。




 白い、泡立つような光の帯が、最期の見せ場と吠えた杉本さんの、正面から押し込まれる。




 反動に身を固くした戦隊ヒーロー達。


 思わず演技を忘れる下っ端戦闘員。


 啓吾の悲鳴に振り返る《職人》。



 人の形に光が堰き止められ、影が出来たのを、啓吾は見た。



 それも秒を追う毎に堰切った光に溢れ、飲まれ、濁流へと変えられていく。



 焼けるような輝きに視界が白くなり、目を閉じる前に闇が襲ってきた。




 叫びが衝撃となって、自然と目頭が熱くなったが、目に焼き付いたライオン顔が叱咤してくる。


 辛うじて顔を歪めて耐え、彼は戦隊やつらに飛び掛かろうとした自分を押しとどめた。

 《幹部》として、仕事を続けなければならない。


 内線インカムで指示を出そうとした啓吾は、再び聞こえた悲鳴に、再度光の通り道に目を向けた。






 目が慣れるまでの数秒をやきもきしながら待つと、重苦しい気配がそこから伝わってくる。

 ぼんやりと物体の影が見える程度になったそこに、二つの影を確認した。


 戦隊ヒーローの誰かが移動したのかと、警戒して短剣を手に取った啓吾。

 だが単なる大学生の奴らに、鉛を流し込まれるような重苦しい気配を放てるわけがないと思い直した。


 多分、光のせいで頭が痺れていたのだと後で彼は考察するのだが、そんな気配を放てる者など少ない。






 わっと湧いた歓声。




 タイミングよく吹いた風に遊ばれた灰髪と黒い端切れが、衝撃的な印象として網膜に焼き付く。

 涼しげな顔をしているのに、底冷えするほど力のある金色の、鷹の目が開眼された。




「ははっ…」




 脱力だろうか、悔しさだろうか。

 良くわからない感情に揺らされ、啓吾は額に手を当てた。




 注意して見れば、予想以上の威力に腰を抜かす戦隊ヒーローも見え、さらに冷酷そうな表情で仁王立ちする彼、《蘇芳》に睨まれ、震えているようだ。


 確かに、あの威圧感で、あの長身、あの表情とくれば、泣きたくもなるだろう。

 別の意味で啓吾は泣きたいわけだが、同情した。






 伊達でなく、あの爺さんが作った《MSSB》は、兵器としての威力があった。


 それをどうこうしたのかわからないが、耐性を超えた下っ端スーツはぼろぼろで、辛うじて彼の下半身を守り、襤褸切れのように纏わりついている。


 風に吹かれた彼は、戦場に現れる幽鬼の様でもあった。

 下手をすると情けない状況になる格好であるが、身に着けている者が格上なためか、いっそ、扇情的ですらある。



 しっかりした足取りだが、スーツがボロボロな所といい、軽い火傷のようなモノが肌に浮いている所といい、彼が怪人を庇ってエネルギー波を受けたのは間違いない。


 シャンと立つ蘇芳だが、流石に無傷ではないだろう。

 その証拠に、次の行動がやや遅い。




「…悪戯が、過ぎる」




 「ふうぅ…っ」と長く息を吐いた蘇芳は、威圧感のある強面に似合いの深く低い声で、今から骨を折るぞと言わんばかりに告げた。


 少なくとも啓吾は耳に入れた瞬間、すり鉢か何かで砕かれる自分の足を想像した。

 それぐらい、恐ろしい声だった。



 そんな啓吾の心境を余所に、蘇芳はさらに眉根を寄せる。

 眉間の縦皺はもう何年も消えていないに違いないと思わせる深い溝で、青筋が浮いた顔立ちは般若だ。


 トラウマのあるイエローが、真っ先に失神する。

 支えが欠けたバズーカは、よろめいた他のメンバーも巻き込んで地に転がった。


 そんな無様な状況だが、蘇芳に慈悲は…一見しただけでは見当たらなかった。






 蘇芳は、戦神を思わせる強靭な四肢で彼らに歩み寄る。

 その一歩一歩の動作が酷く緩慢で、王者の風格というか、高貴な印象と、滅びの予兆というか、絶対的な恐怖を思わせた。

 後者は特に、物理的・肉体的な破壊という種類で。






 尻餅をつく彼らの前で足を止めた蘇芳だが、顔はそのまま、目だけが『ギンッ』と動いて捉えた。


 「ひっ」と悲鳴が届いたが、それも至極当然な事だ。

 遠目に見ているこちらまで、怖い。




「力に溺れた、愚か者共」




 多分、ヒーロー達から見て、蘇芳は逆光だ。

 顔の影に金の目だけが、血を求めるように輝くのだろうと、ホラー映画の一場面を簡単に想像できた。

 低く脅すようにかけられたセリフも、恐怖に拍車をかけている。




「…だが…」




 いよいよ殴り殺す気かと身構えた啓吾だが、蘇芳は殺気を放つ目を閉じた。

 片手を額に当てて、囁く。




「力に振り回される若輩を…」




 何かを思い出すように、彼の拳が握られる。




「―――…諌めることは、先立の勤めだ」




 振り上げられた、それ。


 目に入れた後、間髪入れずに、悲鳴を上げて逃げ出そうとした戦隊ヒーローの各自の脳天に、狙いを外さず落とされた。




 ぱっと瞬間に、啓吾や他のスタッフらの目が逸らされる。


 鈍い音が容赦なく響き、悲鳴は途端に消えていく。




「う、うぅう…」




 静けさを取り戻した場面で、聞こえた呻き声。

 はっとした啓吾は、蘇芳の足元に転がる杉本氏を発見した。



 実戦担当だけでなく本社の他スタッフも、誘導に従いより遠くへと避難させられた一般人も、言葉を失っていた。




 あの状況でと、諦めていたのだ。




 けれど、――――生きている、…生きている!




「イー!」




 職人や感激した下っ端戦闘員が、杉本さんに駆け寄った。

 本社側の下っ端や事務員までも、担架を用意してくる。




 現在の状況は、一般人の被害ゼロ、本社被害が1割以下、下っ端戦闘員3割が負傷、怪人が戦闘不能に近い状態。


 最後に主役である《戦隊ヒーロー》が、それまで下っ端戦闘員であった《蘇芳》に殴られ、まさかの、《全滅》。




「はっ…ははは! あの馬鹿、やりやがった…!!」




 『《悪役》として、絶対やってはいけない事をやってしまった!』と、啓吾は馬鹿笑いする。

 あんまり可笑しすぎて、涙まで浮いてきた彼だ。




 仕事は間違えようのなく《不備》で、強制的に《破棄》である。




 事後処理や、関係スタッフへの謝罪などすべき面倒事が山のように浮かんだが、彼は《良し》とした。

 安い映画のような展開だが、こうなると、《不備》として仕事を切られても諦めが付く。




 何せ、いつもやっつける側の正義のヒーローを、《天然、悪の幹部》が圧倒的な恐怖と暴力でコテンパンにしてしまうという、ものすごく珍しく、且つ気分爽快になる出来事の当事者となれたのだから。


 何より、最高の仕事を提供してくれる本社と、わが社の大事なスタッフが助かった事実。

 これは天秤にかけられない。




「さーぁって、始末書でも書いてやろうじゃないか」




 粗方殴り終え、しかし、躾と称して今度は正座プラス説教をし出した《蘇芳》を眺めながら、啓吾は微苦笑を止められなかった。




 この件を通して、その後、純粋な悪役である彼が、長い研修を終えて現場復帰を果たしたのだが、それはまた別のお話。



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