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Darker Holic  作者: 和砂
side2
46/113

side2 幹部Sの信念3



 墜落しそうな激しいアクロバットの後、落ち着きを取り戻したヘリに、《プロパンジャー》は騒然となった。


 直前に“悪の幹部”である《シュートランス》が侵入したのを認識していることもそうだ。

 彼らの強力なサポート役である《ナビ》に何かあったのは、想像に難くない。


 諦めの悪いイエローが、悲痛な声で《ナビ》を呼ぶ。




「《ナビ》! 返事をしてくれっ」




 がっくりと膝をついたのは、ブルーだ。

 横では四つ這いで拳を地面に叩きつけ、慟哭するグリーンが居る。






 彼らは完膚なきまでに《ナビ》に死亡フラグを建てたいようだった。

 ヘリの快適飛行に余裕を持った啓吾は、そう分析した。




 良く言えば素直、悪く言えばガッツが足りない。

 英雄気取りで言葉を話し、雰囲気を盛り上げていくのに、肝心な時に諦めムードが早すぎる。



 まぁ、早々DH的にいい流れになった事を感謝しようか。

 下っ端達が歓声をあげて騒然としている下の状況を確認し、啓吾は楽しげに苦笑した。






 早速シナリオ変更の仕込みを開始する彼は、まずヘリを《キョウカ》監視するオート飛行へ切り替え、壊したドアを蹴破って姿を現す。



 意図した不機嫌な表情。

 体の方はダメージが蓄積しており、大ダメージを喰らって形振り構っていられなくなった、悪役の雰囲気がよく出ている。




 《ナビ》の明るい声でなく、まだ戦闘に余力のありそうな《悪の幹部》の再登場に、ヒーロー達は絶望に呻いた。




「よくも…やってくれた…。

 俺に、膝をつかせた代償は…大きいぞぉぅ、貴様らああぁぁぁぁぁっ!!!」




 腹から出す最大声音で、逆上したように演出する啓吾。



 いつも小馬鹿にしたような悪役が、途端に切れるのは予兆フラグだ。


 急に雰囲気の変化した《シュートランス》に、呆気にとられた彼らヒーローは身構えた。

 いい大人の男が怒気を放てば、多少なりとも戸惑うのが人というモノ。


 反応に満足して、啓吾は狂ったように笑い出し、優雅に足まで組んで、彼らを睥睨する。




「くっ、くくく…油断を誘おうと、わざわざ部下を気取った遊びだったが、致し方あるまい…」


「どういう、ことだ…?」




 王道的な流れに、レッドがヘリを見上げ、啓吾を睨み付けた。

 殊更に強調した物言いに、啓吾は軽く顎を上げて赤ヘルを見つめ、さらに嘲笑した。

 モノクロムを指先で調整し、威厳たっぷりに告げる。




「貴様らを甘く見ていたようだ。改めて名乗ろう」




 何かが起きる予感、余韻というモノをたっぷり引き伸ばし、《シュートランス》は暗く笑う。

 ヒーロー達が息を詰める間があり、そして。




「俺は、時空帝国《ウィルス:ノロ》、―――――総統、《シュートランス》」


「……え?」




 呆気にとられて、思わずつぶやいたイエロー。


 中の人が大人しい気質であるのが大きいのか、戦隊の似たようなヘルメットの中で、何故か彼の面は気弱さを誘う。

 圧迫をかけるように、ゆっくりと啓吾は末期色…いや、真黄色の照り返しに視線を移した。


 目を細め、動作だけは軽く、声に鋭さを滲ませて。




「貴様ら《プロパンジャー》の、…真の敵だ」


「「「何!?」」」




 “今まで単なる幹部、中ボスだと思われていた人物が実は“という展開に、面白いように動揺するヒーロー達。



 そういえば幹部だと名乗った時も同じような対応だったなと思いだし、今回の若者の応用のなさに少々がっかりする。

 お互い様といえばそうなるが、今後の方針について固めた彼は、内線インカムを通した。




『あー、あー。戦隊モノ担当関係者に告ぐ。

 これより《悪の組織 DH》設定を変更し、《悪の帝国 ウィルス:ノロ》設定を使用する。

 《不備》の可能性も考え、短縮型で飛ばすから、しっかりついてこい。以上』




 言い切った直後から、各部署の了解の声が届いた。

 早速エフェクト班が、随時の場面特殊効果の申請をして来、啓吾は《No.6 キョウカ》も彼らのサポートとして指名する。


 仕事が《不備》になったばかりの彼女だ。

 疲労を滲ませているものの、満更でもなさそうに、微苦笑を漏らしている。






 流れが悪役(DH)サイドに戻ってきたのを感じて、《プロパンジャー》と対峙する下っ端戦闘員や怪人もいつもの調子を取り戻した。


 もちろん、啓吾も。


 だから、さらにセリフを付け加えておいた。




「貴様らの《ナビ》は、俺の手の中だ。諦めて降伏しろ。

 そして、…この星は俺のモノとなるのだ!!」




 にやにやと嫌らしく微笑み、中二病も真っ青な発言をかます啓吾。

 心中は、『あー、言ってみたかったんだよな、これ』である。


 “この星は俺のもの!”は悪役でも“一度は言いたいセリフ”の高順位だ。

 ちょっとドヤ顔するのは、DH社員としては至極当然。






 さて、ここで花形である怪人を紹介しておこう。


 今週の担当は、杉本さん。

 怪人としての彼は、頭はライオン、両腕から背中の鬣にかけてが虎、腹部から腰にかけては馬、足は猛禽の爪であり、背にも鷹の翼を生やし、尾っぽは蛇という、ハイセンスなキメラっぷりである。

 二本の脚ですらりと立つ姿に軽鎧を着衣しており、戦隊やライダーなどのヒーローモノの他に、ファンタジーにも登場する程人気がある。


 二足歩行の怪人が多いのは、特撮番組などでの《中の人》の都合が多いものだが、本物の怪人を有している《DH》社には関係ない。

 彼の堂々とした姿は、悪役に大変人気である。



 吠えるように豪快に笑って、杉本さん…いや、“ウォー:サファリ”氏。




「くくく…ぐわぁっはっはっはっは! 先ほどの勢いはどうした、《プロパンジャー》」




 戦隊ヒーローに対して鋭く片手を向けた怪人。


 下っ端戦闘員が阿吽の呼吸で、彼の前、場映りが良いよう人数を厳選して展開する。

 両手を鉤爪型に握って左右に構え、チューチュートレインのように、四股を踏んでの上体を回転させる《構える蜘蛛のポーズ》で威嚇した。

 前列などは、姿勢を低くし両腕をだらりと脱力して下げる、《這い寄るハイエナのポーズ》をする気合の入った奴まで出てきている。




 まだまだ安心はできないが、《不備》の可能性が低くなって皆が喜んでいるのがわかった。

 満更でもなく啓吾も笑い、あとは幹部として見守るのみにしようと、優雅に高みの見物と洒落こむ。




「くっ…そぅ…」


「人質を取るだなんて……卑怯者っ!!」




 グリーンやピンクが罵ってきたが、それは《悪役》にとっては《称賛》である。

 案の定、さらにテンションが上がったらしい下っ端戦闘員がおり、「イーイッイッイッイッ!」とか笑い始めた。



 冷静そうにしている《職人》や怪人も、ノーリアクションでは勿体ないと思ったのか、微かに身じろぎした。




 ただ一人、不快そうな動作をしたのは、やはりというか《蘇芳》扮する下っ端戦闘員ごついである。




「ふん。負け犬がいくら吠えたところで痛くも痒くもないわっ!! 行けぃっ!」


「「「イー!!」」」




 怪人に命じられ、生き生きとした下っ端が、張り切って戦隊ヒーローに倒されに行った。




「行くぞ、皆!!」




 向かってくる下っ端戦闘員に、レッドがバージョンアップした剣を振り上げ鼓舞する。






 しかし、いくら電子プログラムの疑似生命体とはいえ、《ナビ》を見捨てる気だろうか。

 彼は《人質》の意味を知っているのか、甚だ疑問である。


 そこらへんを突っ込むものは居ないのだが、啓吾は変な顔をした。







 走り出したレッドは、先陣切って変身や武器強化するためのカセットに触れてB5型の特殊効果を出し、何かルーズリーフのようなモノを捲る。


 啓吾は、「ばらららら…」と特殊音や効果が付属されるのをチェックし、場の盛り上がり状況を把握した。




「“レシピ開帳! 《グリル:トーン》!!”」






 訳:炙りトロ。




 上手そうな技名を叫び、レッドが炎を纏った剣で下っ端に躍り掛かる。


 つられたのか、他の仲間達もカセットに触れ、体の前に半透明・3D状の何か(レシピ帳?)を呼び出し、捲った。

 これにも目ざとく、エフェクト班らが特殊効果を付属する。




「“レシピ開帳!”」


「“レシピ開帳!”」


「“レシピ開帳!”」




 シャーベットやらシーザーサラダやら、腹の減りそうな名前を叫びながらヒーローが突っ込んでくる。


 流石、《クッキング戦隊》。


 しかし、いくら誤魔化すような外国語訳をしているとはいえ、そこそこ教育を受けた人間からすると、大変間抜けだ。それで良いのか、ヒーロー戦隊。











 啓吾がある意味不安気に見守っている現場では、ヒーロー達の駆け抜ける方向に合わせてカメラが動いており、下っ端達は通りすぎるように攻撃を受けて転がり、通過されては起き上がりを繰り返す。



 ここでカメラ映りの回数が多いのは、大体、紅一点のピンクと地味系の二人。

 彼らと交差するようにして、憎きハイター小僧がカメラの視点を独占し、それが飛び道具(要するにハイターだ)を放った方向へ、さらにズーム機能付きでアップされるのは、もちろんリーダーのレッド。




 彼の背後をカメラが収めていると、下っ端を袈裟懸けに切り捨てた彼は、タイミングを合わせたかのようにくるりと振り向き、「はっ!」っと掛け声と共に、回転しながら宙を跳んだ。

 続いてブルー以下略も、あおりのアングルで互いに×を描くように、回転ジャンプを決める。

 「すたん」と一斉に着地を決めたヒーロー達は、綺麗な横一列を成して悪役と対峙した。



 中々憎々しい演出に、DHスタッフが微かにため息を吐く。

 ある程度場が収まったのだから、仕事再開しろと心中で念ずる啓吾だ。




 幹部の啓吾が一息つく間があって、一挙一動、全く同じモーションを行ったヒーロー達。




「「「《オーブン:アタック》!」」」




 あっさりした声のトーンで合わせ技らしき、エネルギー弾を怪人方向へ打ち出してきた。


 怪人やその周囲の下っ端が大げさに身をよじると、特殊効果である軽い爆竹が限定範囲で爆発する。

 地面から勢いのある煙交じりに、破裂の音が響いた。



 被害状況はなし。

 だが、悲鳴を上げる怪人と下っ端がいる。




「うぐぐ…このっ…!」




 十分な仕事っぷりを見せてくれる怪人。

 ライオンが唸るように、渋い《ウォー:サファリ》氏の声が聞こえた。











 ところで、場面は順調だが、反対に啓吾は場面の物足りなさを感じていた。

 それは、せっかく人質を取ったのに、それをスルーする戦隊のせいかもしれない予感。

 もっと悩み苦しんで戦ってもらわねば、フラグを真っ二つに折ることになる。


 有効活用しようと、啓吾は大声を出した。




「良いのか、《バーナーレッド》! この《ナビ》がどうなっても…?」




 刹那、心得たもので鏡花が《ナビ》を一部解放した。

 ヘリから彼女の声が響く。




『私の事は良いの。やっつけて、《バーナーレッド》ォ!!』




 しっかり状況把握している所が強かだ。


 啓吾の感想はそんなところだが、声を聴いて人質の意味を漸く悟ったらしいレッドが動きを止める。

 ブルーも苛立たし気に舌打ちして、構えたハイター銃を下ろした。


 そうだ、そんな凶器捨てちまえ。




「く、…レッド。どうするっ」


「《ナビ》が…!!」




 小さく視線を投げかけるブルーと、必死に《ナビ》の存在を強調するピンク。


 自作自演というか、勝手に盛り上げてくれるところが、何とも言えず、《SREC》の操り人形である。




 悔しげに見上げてくる彼らに、何てことないように肩を竦めて見せ、彼は怪人に顎をしゃくった。

 軽く頷いた“ウォー:サファリ”氏は、飛び上がると両手の虎爪を構える。




「“ハウリング:クロー”!」




 鈍く輝く効果が瞬時につけられ、残像のエフェクトを残してヒーローが切り刻まれる。




 彼らは悲鳴を上げて、軽い爆発に巻き込まれながら回転し、何故か崖から落ちるような飛ばされる絵があって、地面に転がった。

 ぴくぴく動いて、戦闘スーツから白煙が上る、芸の細かさっぷり。


 呻き、もがいているが、たった一撃である。

 ナビの悲鳴が、悲壮感を出す要因かもしれない。




「うぅ…これじゃあ、全滅してしまう…」




 イエローが言い、途端に弱弱しくなったブルーが、倒れている地面の砂を掴むように拳を作った。




「どうすれば…っ」




 DH的には、完全にいつもの流れに戻っていた。

 強気な悪役、へたれの正義の最たる例である。



 回を追う毎に、ヒーロー達の諦めの速さが際立ってきている気がする。

 このまま次回持越ししてもらうと困るので、やはり早々にお帰り願わないといけない。


 人質を取って撤退するかと考えるが、現在忘れられているとはいえ、本社が狙われているのだから、あまり意味もない気がしてきた。


 こっそり内線インカムを入れて、啓吾はナビに通信を付ける。




『おい、数字系。お前、この落とし前どうつけるつもりだよ』


「わ、私たちは、アナタみたいな悪に屈しはしない!」




 不機嫌そうに囁いた啓吾に、返ってきたのは、外線に通じる《ナビ》の声。


 協力スタッフへの通信のつもりで行ったのに、そんなことではヒーロー達に気づかれると啓吾は慌てるが、《ナビ》は困惑した雰囲気を崩さない。

 本心から、敵対する悪に声をかけられる理由がわからないといったところだ。


 彼女の悲鳴に、ヒーロー達が騒ぎ始めた。




『《ナビ》…?』


「ま、負けない!…んだからっ」




 啓吾の、心底心配したような声にナビは狼狽したが、彼女は次には気丈に抵抗を声で示した。






 今日の戦隊ヒーローの仕事は変だ。


 予定外にもヒーローが本拠地攻めをしてくるし、仲介役のナビは頓珍漢な事をいう。

 先ほどの、啓吾のトラウマを抉り、塩と唐辛子を塗り込むような単語を言い放った声といい、何かがおかしい。




 《SREC》で何があったのかわからないが、向こうの本社にも連絡が付かない。

 啓吾には想像しかできないが、ナビの中で、《DH》や《SREC》などの介入組織の点だけが抜け落ちているようだと考えられた。

 本社のパワーダウンで電子系統が混乱したのと、何か関係があるのだろうか。




 啓吾が押し黙り、しばし時間が流れたかと思われた直後、《ナビ》が消え、代わりに鏡花が通信してきた。





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