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Darker Holic  作者: 和砂
side2
43/113

side2 ジジイ、襲来。10






「何よぅ、全ぇ然、被害ないって言ったの、…あーたじゃん」




 話を聞いたマッドは、開口一番にそう言って、拍子抜けの顔をした。

 彼の前には小柄な、禿げ頭の爺さんが居て、犬が威嚇するようにマッドを見ている。


 その周囲には、マッドの斜め後ろでパイプ椅子を横向きにして、適当に座っているシュートランスと、爺さんの後ろに未だ鏡花を人質のように、片腕に閉じ込めている蘇芳がいた。



 時折、解放を望む鏡花が身じろぐが、その度に蘇芳はぐっと押さえつけて、さらには冷酷な視線を向けると、試すようににやりと笑った。


 単に爺さんと一緒に居ただけの鏡花だが、何故、自分が人質のように彼に押さえつけられているのかわからないでいる。



 場面としては、No.4、No.8、No.11と、凶悪を選りすぐったような男幹部たちが、犯罪者のように爺さんを脅しているようにしか見えなかった。


 鏡花は、蘇芳の、シグウィルとはまたタイプの違った強盗のような姿に純粋な生命の危険と、三人の凄みを増した悪役っぷりに、先ほどから胸がドキドキしっぱなしである。

 職業病は軽度と思っていたが、失神するかもと、彼女は思った。




「何しろ、本社の度肝を抜いてやろうと思ったんじゃ。わしを、役立たず扱いしおったからなっ!!」


「あーあー。それ、十分効果あるから。わっはー、驚いたー」


「ぃやっかましいわいっ! 棒読みで言われても、嬉しくもなんともないわいっ!!」




 とにかく、爺さんがプライド高いくせに姑息という性格がわかり、鏡花も蘇芳を気にしながらであるが、場を見ることはできる。

 そうして気になるのは、前にいるシュートランス姿の啓吾が、未だ黙っている所だった。

 通常であれば、真っ先に怒鳴るはずなのに、静かなのは、やはり爺さんが何かしら重要なキーであると思わせる。




「それで、襲撃してきた奴らってのは、《SREC》なのか」


「ほうじゃ。たぶん」


「けーっけっけっけ、…証拠不十分だし、ダメダメだよねぇ」




 先ほど鏡花も聞いた話の繰り返しだ。


 啓吾といえば、爺さんの話を聞きながらあながち間違いでもないと思ったが、SRECも内部で派閥があるし、本社共同でないなら、DH社として交渉することも難しい。

 あっちもこっちもいい加減で、どうしようもないのが現状だ。




「物理的に攻撃されたわけではなさそうだ。

 外装的被害は侵入時に窓ガラス2、3枚、侵入者対応でスタッフの怪我と、建物が味方の射撃で少々傷ついているが(DH業務的に)大したことはない。研究員を昏倒させた後は、データと設計図などの関係資料を持ち去られたと考えられる。

 侵入者については、上手く姿を隠しているようでログにも記録にないし、建物などへの攻撃が少なく判断できない」




 爺さんの話を聞きながら、一応報告書に目を通していたか、蘇芳が鏡花を押さえつけながら言えば、啓吾はそちらをあまり興味なさそうにちらりと見て、また興味なさそうに爺さんとマッドに顔を戻した。


 離れるのが名残惜しいのかもしれないが、そろそろ放してやればいいのにと視線で催促するが、蘇芳は無視した。




「でえぇ、警備の方はぁ、ちぃーっとも、……ぷっふっふっふ、気が回らなかったと?」


「ほうじゃ」




 威張る事ではないが、胸を張る爺さんに、マッドは舌を出した。

 予防策を検討する場でないから良いのだが、一向に話が進まない。



 啓吾はマッドに催促の視線をやる。

 彼は、さっと瓶底メガネを取った。


 すると、彼はキモオタまがいの雰囲気でなく、鋭い理知的な目をした青年となった。

 多少無精ひげが生えていたり、薄汚れた成りだろうとも、ワイルドと言葉で片付けられるような雰囲気だ。




「へぇ~…んでぇ、研究データを盗まれた、とぉ?」




 マッドの変化に気後れしたか、爺さんは豆鉄砲を喰らった鳩みたいな顔をして、促されるまま頷いた。

 その何かが問題なのだが、爺さんは未だはっきりと言わず、誤魔化しており、啓吾もイライラしている。それに構わず、マッド。




「まぁ、偶ぅ然、襲撃があっただけぇとも取れるけれどねぇい。

 確かぁ、イビーさんの…くけけっ…電磁砲関連好きだったよねぇ。そんなん?」


「ほ、ほうじゃのー…」




 何かを特定しようとしてのマッドの言葉に、再び爺さんは視線を泳がせた。

 そのはっきりした言葉が聞きたいというのに、一向に本社パワーダウンの関連も見えてこないではないか。


 ふと思いついて啓吾は鏡花を見た。

 それに、蘇芳は彼女の口から手を離し、腕を首に巻きつけるようにして、声以外は拘束する。




「《キョウカ》。さっき、ジジイのデバイス見ただろう。何かあったか?」


「あ…っ、ひ、卑怯じゃぞぉっ!!」




 爺さんが喚くが、特に重要なモノも見せてもらったわけでもない鏡花だ。

 そのセリフに、人でなしを見るようにして啓吾に訴える。




「それより、《蘇芳》様を退かせてよ。何で、私、拘束されなくちゃならないの?」


「そりゃ、そいつの趣味だろ。で、何かあるのか」




 啓吾のセリフに「うひっ」と身を竦めた鏡花。

 蘇芳は勘に触ったらしく、遠慮なく、ぐっと首を絞めてやった。


 彼の腕をばしばし叩きながら、鏡花は「ギブギブ!」と悲鳴を上げ、そうして多少気が済んだ蘇芳に解放されて、数歩離れた。

 軽く首を左右に傾けて調子を取った後、両手を腰に当てた。




「残念だけど、何にも。変な流れみたいなのが延々と見えただけ。

 何かの数式と文字で、むしろ、デバイス自体を起動させるソフトみたいで、無害だったけれど?」




 それに啓吾はため息をついた。

 パワーダウンの原因として、爺さんを挙げるから変に期待したのだが、外れの様だ。




「あ、でも……ええと、何か変な設計図みたいなの、見えたかも。たしか」




 鏡花の言に、かなり期待した目で啓吾は見た。

 同じタイミングで、にやにや眺めていたマッドが懐から一枚の用紙を取り出し、啓吾は期待外れのような、拍子抜けと自分の心配が無駄ったと思う表情をした。




「へぇ、それって、…ふふ…こぉーんな、のぅ?」


「あ、そう、それ。何で、持ってんの?」




 ぴらぴら靡かせる紙を受け取り、鏡花は不思議を通り越して怪訝な顔でマッドを見た。

 何かしら重要なモノなら、これは確信的な誘導尋問である。

 鏡花も認めたそれを見て、爺さんはかくんと、顎を外した。




「あー…っはっはっは、やぁーっぱりねぇ。イビーさんとこの、だったんだぁ。…くくく…」


「だから、それ、何なんだ」




 勿体ぶったマッドに、うんざりして続ける啓吾。

 この爺さんに関係あるのは、本社のセキュリティ担当のマッドと、関係しているらしいSF担当の鏡花、蘇芳であって、あまり関係ないと彼は自覚していた。

 ここまで付き合っているのは、単に付き合いの良い性格のせいだ。

 何せ、幹部の責任者は《No.1》であり、啓吾が後始末の義務があるというわけではないのだから。




「これ、ねぇ…ふふふふふ。多分ん~、イビーさんの、秘密兵ぇ…」


「うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!」




 言いかけた、というか、完全に言ってしまった感のあるセリフの途中で、爺さんが感電した猫のように身を震わせて、マッド目掛けて飛んだ。


 それはもう、見事に放物線を描いて飛んだ。


 啓吾も目を丸くして、鏡花、蘇芳さえもぽかんとする。



 だが、着地地点のマッドはへらへらした笑みのまま、柳のように、さらっと一歩横に避けた。

 瞬間、「ずごほっ」と爺さんの頭が消える。




「………予測不能だな」




 ぽつりと蘇芳が漏らす頃には、現実を認識し始めた啓吾達は、壁と家具の隙間に頭が綺麗に挟まった爺さんの首から下が、じたばたと動くのを認識した。

 隙間の奥からは、「助けんかいっ!」とか、呻いた声が聞こえたとか、聞こえないとか。



 啓吾が蘇芳に顎をしゃくると彼は一瞬だけ不愉快そうするも、特に異論はないらしく、爺さんの暴れる体の傍に寄り、丁寧な動作で隙間に腕を差し込んだ。

 そうして、緩慢に息を吐くと、下から上へ、「せいっ」と乱暴に爺さんを叩き上げた。




「んぎゃあっ!」




 蘇芳の打撃にか、勢いよく抜けたせいで擦った耳たぶのせいか、痛みに悲鳴を上げて爺さんは隙間を脱出し、尻餅をつくと、慣性によってくるくるまわりながら、飛び込む前の元の位置で止まった。


 子犬が氷の上をそうして滑れば可愛いものだが、ジジイが奇しくも同じ行動をとれたからと言って可愛いわけではない。

 白い目をした啓吾はそうして、マッドに先を促した。




「んで、その秘密兵…」


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「煩せぇっ!! もう、ばれたようなもんだろうがっ!!

 結局、本社のダウンは、このジジイのせいなのかっ!?」




 秘密兵器の単語に反応して、瞬間的に悲鳴を上げる爺さんに怒鳴り返し、啓吾は据わった目でマッドを見た。

 最後に続けられた言葉に爺さんは驚いたようで、目を見開く。

 再度顎を外れるように開けると、ぴょんとバネのように飛び上がった。




「んなもん、わしゃ、知らんわいっ!

 わしゃ、盗まれたバズーカが返ってくれば良いんじゃぁっ!!」


「バズーカ?」


「…あ」




 オウム返しに鏡花が呟くと、そう言って爺さんは固定化した。


 にやりと笑ったのはマッドと啓吾で、蘇芳は相変わらずの冷たいデフォルト。


 「へぇ~、ふぅ~ん、そ~ぉ」などと勿体ぶるマッドは、にやにやした笑みのまま、しかしどこか冷めた口調で言う。




「こぉれはその“秘密兵ぇ器”だけど。その設計図ぅ。イビーさんには大切なものらしいぃけどね」


「ほ、ほうじゃ。今度のは、小型化に成功しそうなもので、たったの7mしかないわい」


「はっは! 7mて、あーた。やっぱり、ロボの方がいいんじゃないのぉ?」




 どう見ても、ロボ用の小型兵器といわれた方がしっくりくるサイズに、マッドは笑った。


 しかし、爺さんはやおら真剣に「このサイズをロボに乗せれば、見栄えがしない」だの、「これだけ小型化したのだから、他に応用はいくらでもできる」だの話始めた。

 流石にマッドにも、この爺さんがロボ好きなのは、とてもよくわかる。




「イビーさぁん、もう、いっそのこと、本社でロボの研究すりゃあいいじゃない。

 《蘇芳》の機体なんかおすすめだよぉ。ひゃははっ!」


「うぐぬぅ…」




 闊達に笑うマッドに、爺さんは渋い顔をして唸り、蘇芳は心底迷惑そうに眼を細めてマッドを見た。

 けれどそんな二人を無視し、また冷ややかな目をしてマッドは続けた。




「僕ぁ聞きたいのは、それじゃないんだよねぇ…。

 今日の、ダウンの時に使った、あの、エネルギー源が知りたいのぉ」


「ほ? じゃから、バズーカの中の部分じゃて」




「へぇ?」と感心したような声を漏らしたマッドは、底知れない深い目をしたまま、笑う。

 それに気が付かず、爺さんは胸を張った。




「スーパーウルトラサイクロン構造を応用した、超時空エネルギー割増機じゃ。

 それを舞台に出せるように調整したのが、わしの自慢のバズーカじゃぁ。

 名を、“ミラクル☆サイクロン★スパイラル☆バズーカ”! 略して“MSSビーぃっ…」


「胡散くせぇ」




 スーパーだの、ウルトラだの、どこを基準にしたのかわからない単語が飛び交い、啓吾はそう一刀両断した。

 先ほどまでキラキラした目をしていた爺さんが、そのセリフに不満げに唇を尖らせる。


 SF担当な為に、ちょっと期待するように爺さんの説明をうきうき聞いていた鏡花は、啓吾の対応にしゅんとテンションを下げて視線を床に向けた。

 蘇芳も同じくSF担当だが、爺さんの説明の整合性と論理性を欠いた言葉に、早、聞き流しており、変化ない。




「それってー…もしかして、LANの構造を基盤としてなぁい?」


「ほぉん。よくわかったな」




 天才なのか、単なる変態なのか。

 即座に話を切り出したマッドに、爺さんは改めて自慢の機会を見出し、テンションを上げる。

 自慢げに鼻を鳴らす爺さんだが、マッドはもはや聞いておらず、納得の声を上げた。




「《シュートランス》、警戒Bぃに、レベル上げて」


「あ? 何が。解決したなら、バージョンアップしろよ」




 パワーダウンの直接の原因はわからないが、何かしら解決の糸口を見つけたようなマッドの動きを確認し、面倒そうに啓吾は言う。

 鏡花と蘇芳は専門外であり、話に乗り遅れたように静観しているのが気になるところだ。


 さらに巻き込まれるわけにはいかないと気を張る啓吾。




「《グレイス》は良いんだけどさぁー…イビーさんの言う技術って、ぶっちゃけ僕のだし。

 あんまり困った感が強すぎたから、封印した奴。

 わざわざイビーさんが掘り出して…たぶん、《SREC》に渡っちゃったとするとぉー…」




 言いかけたマッドを遮って、大仰に開き戸が滑った。

 全開にされ、大きな音と共に下っ端が飛び込んでくる。




「イー!!」




 嫌な時にばかり、予感は的中するようだ。


 瞬間的に、啓吾と蘇芳は走り出していた。



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