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Darker Holic  作者: 和砂
side2
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side2 ジジイ、襲来。7


 緊急の使用を求める通知は来ていたが、そのための魔力はあっても、電力がない。


 非常灯の明かりが照らされて多少道が明るくなっていが、まだまだ周囲は闇に埋まっている。

 転移装置を管理する死神は、困ったように黒い頭巾の中の骸骨を掻いた。



 駆けつけてくる足音。

 彼の目は青く光っており、暗闇だとなお鮮明に見えるその目。

 向けると、小柄な爺さんがやってきた。


 どうも生命力が強いらしく、死神の持つ《リスト》にはまだまだ名前が載りそうにない。

 ぱたんと《リスト》を閉じると、爺さんはこちらに気が付いた。




「貴様は、ここの管理者か!?」


「いかにも」




 勤務シフトがあるが、膨大な魔力を持つ死神も管理者の一人であり、頷く。

 それに爺さんはほっとして、しかし近寄ってきたときにあまり見たくない容姿だったらしく、ぎょっとして、数歩下がった。


 死神は背中にデスサイズを背負ったまま、肩をすくめた。




「使用許可は来ているが、パワーが足りない。私の魔力だけで繋ぐことは不可能でな」


「…ほぉん。本当に管理者のようだな」


「先ほどからそう言っている。電力を回復させる技術者が必要だ。呼んできてくれ」




 何気なく爺さんに言うと、心外というように顔をしかめられた。


 しかし、よくここにメンテにくる技術者でないのは、すぐにわかる。

 大した期待をせずにそれだけ言うが、爺さんは怒りに真っ赤になった。




「目の前におるじゃろう、ほれっ。わしを誰だと思っておるっ!!」


「…さぁ。見たことはないな。私の持つ《リスト》にも…」


「まだまだ迎えは来んわいっ! 失礼な骸骨じゃ。そこで見ておれっ!!」




 そうして大きめのスパナを出して、まったく関係ない通信機を分解しようとするので、死神は仕方なく指を指して言った。




「あちらが、主電源だ。では、頼む。最低でも2分以内に、持続時間は5分だ」


「早く言わんか!!」


「それは…すまない」




 一喝されて死神は横にずれた。

 途端に爺さんが、持っていたらしい懐中電灯をつける。


 まぶしさに顔をそむけると、爺さんはこちらに気をむけずに作業を開始した。

 大きなスパナでがばっと開けてしまうと、中の様子をじっくり見たようだった。

 何本かコードを齧り、結びを繰り返すが、反応がないらしく、難しい顔をしている。




「会社本体のパワーがダウンしている。電流は流れていない」


「んなことは知っておるわい。そうではないんじゃ」


「ほう? 今、貴方が《リスト》に載れば、途端に感電死となり、電流が流れるのだが」


「死んでもごめんじゃ。仕方ないのう…」




 死神の因果律調整を知っているらしく、まったく慌てた様子はない。

 結構な古株らしいと見当をつけ、死神はのんびり彼を眺めた。


 仮に失敗しても、今使用許可が出されている地域の人間が死ぬだけである。

 彼の《リスト》には、もう三百人近く名前が書きこまれていた。


 それでも会社の同僚であるため、死神も惜しむ気持ちで爺さんに頼んでいる。

 あまり熱はないが。




 死神がぼんやり見守る中で、爺さんはぼろぼろの薄汚い白衣から、小さなスタンガンのようなものを取り出した。

 一度ばちっと電流を流して、綺麗に火花が散るのを見てにんまり笑う。

 それを方結びした電線に押し当て、自分はポケットから出したゴーグルをつけた。




「骸骨っ! タイミングを合わせぃっ!!」


「よかろう」




 死神は言われるまま、転移装置に魔力を流し込む。


 青い光の目で《リスト》を見ると、三百近い名前は次第に薄れていた。

 どうやら成功するようで、惜しいようやらそうでもないようやらだ。



 デスサイズを床につけると、魔法陣が死神の目と同じ青い輝きを持った。

 人助けをするというのに、何かしらわからないが、おどろおどろしい雰囲気がある。

 そういう気配に、さらに爺さんは高らかに笑った。




「ふーっふっふっふ!! いくぞぉ、…さぁーん、にいぃ、いー、っち…」


「…ディ…トラ……アー…ドズ…」




 死神のぼそぼそした呪文が聞こえ、爺さんはカウントして、スタンガンの最大出力を放出した。






 ぶわぁおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんんんっっ!!!






 何処かの天空の城で滅びの呪文を唱えた時のように。


 一度無音と化す程、光が収束したかと思うと―――。











「んぎゃっふ!」




 ごろごろんと爺さんが弾き飛ばされた。


 そのまま死神の横を転がり、先ほど分解しようとした通信機に頭をぶつけて止まる。




『っ、何だぁ!?』


『どうした、SRECの殴り込みか!?』




 偶然か、必然か。


 爺さんの衝撃で通信機が全館放送になったようである。




 死神は、そんな爺さんや通信の様子は気にせず、ぼわんと広がった煙の先を眺めた。



 人の姿を確認する前に、天井がちかちかと、電力が戻る音がする。

 どうやらパワー回復がされた影響で、通信機も動いたようだ。




「ぐぅおぉぉおおおおぉぉっ!!」




 熊が吠えるように転がっている爺さんに、誰かしら声をかけるものはいない。




 ぱっと蛍光灯の明かりに照らされて死神がその多数の人間を確認した直後。


 緊急として、無理やりつなげた次元転移の代償が吹き荒れた。






 その中で死神は気になるものを見つける。

 幹部が居ることが分かったのだ。



 気絶間際の鏡花を抱いて、突風が抜ける広間に現れたのは年若い作業工。

 彼が上半身裸なのも目を引いた。


 DH社には様々な人種がいるが、彼らが出てきたのは一番最後だったらしい。



 近くには突風にあおられて不快気に呻く、現場から逃げてきたスタッフが大勢いた。

 大半が、大なり小なり火傷を負っている。






 死神は「ふむ」と頷くと、転がる爺さんを邪魔だとばかりに蹴り遣り、通信機に向かっていった。




「転移装置担当の死神だ。至急、援助を頼む」




 彼が死神で、顔の骸骨がアップになって驚いたのか。

 それとも死神が援助などという言葉を使ったのが意外だったのか。


 通信先の下っ端戦闘員は驚いたように「イー!」と言った。


























 救援とはいえ、動けないものは担架に乗せて《マッド》の所へ、動けるものは早々に手当をといった具合だ。

 次元移動の際は、必ず何かしらエネルギーが動くが、管理・監視レーダーから逃げ帰ってきたスタッフを追撃してくるものはおらず、一先ずは帰ってきた彼らの世話をすればいい。


 何より、人数があれば事足りる仕事だ。

 それに打ってつけだったのが、戦隊ヒーロー担当の下っ端戦闘員であったというだけ。




 けれど、担当幹部である《シュートランス》は次の戦闘のための下見に行っており、一時的に今回指揮を執るのが、たまたま研修に来ていた、着物姿の新しい幹部である。


 新しい顔に馴染みがないスタッフは単純に、手際良く出される指示と自らも惜しみなく働く、《新人》という幹部に、ぽかんとしていた。

 だが、元々SF担当のメンバーの引き継ぎが多かったのか、違和感なく、当然だと受け入れられているようでもある。


 その《蘇芳》の指示で、下っ端達もよく働いていた。


 群れを治めるライオンの様に周囲に采配を振っていた彼だが、その一角に見知った顔を見かけて近寄った。






「《トゥーラ・イ》」


「参ったね。ダサいから、昔風に呼ぶのはやめてもらえるか、《シグ・ウ・ル》様?」


「………貴様も」




 前の立場だったら、口を利くことがなかった二人。

 慣れないように微苦笑する蘇芳に、トーイはそう言って軽口を叩いた。


 元No.2が微笑んだことにもトーイは意外な思いがしていたが、彼の視線が、自分の腕の中を見ていることにも気が付いて苦笑する。


 随分様変わりした蘇芳だが、多分、本人は十分満足しているだろうことも、トーイは理解した。

 何せ、トーイも鏡花に黙っていたが、阿修羅族である。




「あんたの姫さん、一応、守っといたぜ」


「礼を言う」


「そりゃ、どぅも。随分素直になったこって」




 軽いやり取りに、気絶した鏡花を蘇芳に渡すと、彼は慣れた動作で抱きかかえた。






 鏡花のもだが、蘇芳の深紅機の再構築は阿修羅族の技術が必要で、元々整備もしていたトーイとその所属メンバーが彼に引き合わされたのは、蘇芳が本社で次元知識を学んでいる頃だった。


 それから研修に行く際に、トーイは同族という縁で、蘇芳から直接頼まれたことがある。

 それが、彼の不在中、鏡花を気に掛けるというものだった。




 以前のシグウィル様を知っているトーイだったので、その頼みに、大仰に驚いた。

 さらに驚いたことに、あのシグウィル様がトーイなんていう下級も下級に頭を下げたことだった。


 随分真剣な頼みに、思わずトーイは受けていた。




 本心を言えば、鏡花とは、前の時にも自身が阿修羅族の出身だと言わなかったので、今回の事は断ろうと思っていたところだったのだ。

 何せ阿修羅族もピンキリで、トーイなんて闘気を操るのもやっとな、学者気質だからである。






 トーイは、真剣な目をして鏡花の様子を伺う蘇芳を眺めた。

 彼女本人の前ではしていないようだが、傍から見ても、蘇芳が彼女に気があるのはばればれである。


 だからこそ、恥を捨てて、頭を下げれたのかもしれないが。



 トーイは反阿修羅派であったので、元の蘇芳よりも今の彼が好ましく、上手くいけば良いなとは思っている。

 満足そうにため息を吐いて、回ってきた応急箱の中身から、傷の消毒を行った。






 蘇芳はそっと膝をついて彼女の顔を眺める。

 優しく目が細まったのは、案外顔色がいい彼女を見て安心したのだろう。



 良い感じだなと、知ったかぶりに目を閉じて鼻歌を歌うトーイだったが、何を思ったのか、厳しい顔に戻った蘇芳は、彼女の顔をばしっと平手打ちにした。




「…え?」




 大変な目にあって気絶した女性の顔を殴るのは、やり過ぎではないか。

 驚いて声をあげると、蘇芳は無情に反対もばしっとやった。



 その顔は先ほど安否を気にして難しい顔をしていた蘇芳でなく、どちらかというと前の時と同様、幹部としての表情。




「起きろ、《キョウカ》」


「…うっ」




 両側打たれて呻いた鏡花に、蘇芳はさらに低い声を出した。


 とても機嫌が悪そうな様子に、トーイは一体どうしたのかと蘇芳を伺う。

 けれど彼の心配をよそに、薄っすらと目を開けて、蘇芳がいることに混乱する鏡花は口を開いた。




「シグ…ウィル、様…?」




 勤めて不機嫌そうに、無情に何か言おうとしていた彼が、ぴたりと固まる。



 こちらから詳しい表情は見えないが、寝ぼけたように呻く鏡花に、無言の蘇芳は次に腹でも殴るのではないかと心配した。

 だが、蘇芳は不愉快そうに大きなため息を吐くと、彼女を抱えたまま立ち上がった。

 着物の裾が揺れ、阿修羅族の衣装では合わせない、不釣り合いなブーツのような黒い光沢の、彼の足を見る。


 全然関係ないが、トーイは一瞬違和感を覚えた。

 何か、そう、幹部には似つかわしくないものを見たのだ。

 いや、今はどうでも良いことで、それよりも。




「…ちょ、ちょっと、《蘇芳》さんよ」




 せっかく助けたのに、頼んできた蘇芳に鏡花を傷つけられそうだと、心配になって声をかければ、意図したものでないにせよ、元No.2の冷たい眼光が返ってきて、トーイは顔を引き攣らせた。


 阿修羅族出身とは言っても、至近距離で見たくない。

 長年植えつけられた阿修羅族の習慣から、強者には平伏したくなる。




「お、お手柔らかに、な?」


「………善処する」




 唯でさえ、か弱い人族で、女性だ。

 傷つけてくれるなよと微妙な声をかけると、彼は途端に目を険しくし、しかしやや頬を赤くして小さく言った。


 いや、まさか。


 だが。


 もしかして……。



 心配の裏返しかとトーイが気付くのは、彼らの姿が消えてから数分経った頃である。



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