表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Darker Holic  作者: 和砂
side2
35/113

side2 ジジイ、襲来。2

活報でもお知らせしておりますが、キャラ人気投票二回目開始しました。

H23、4月1日までですので、どうぞ、ご協力お願いします。




「…まだ、居たのか…」




 渋い顔して啓吾が呟く。

 ミーティングの為に下っ端戦闘員エリアに行くと再び、《蘇芳》が皆を投げ飛ばしていた。


 今の所仕事がなくてウロウロしている《マッド》に次いでのエンカウント率。

 啓吾は現在戦隊ヒーロー担当であるので、彼が下っ端戦闘員として行動している以上、仕方のないことだが、SFの仕事はどうした。




「イー」




 まるでこちらにも、本来の悪役の仕事にも興味がないというように、素気なく『放っておけ』と言われるが、啓吾は片眉を上げる。下っ端に扮する《蘇芳》は、相変わらず雑魚の雰囲気など欠片も見せないが、それなりに溶け込んでいた。



 啓吾が先日目にした時は、掴まれる直前まで我慢できずに先手を打って相手を投げ飛ばしていた彼だが、多少の力のセーブとやられ方をマスターし、戦闘服(要するに全身タイツだ)を掴まれるまでは手を出さずにいられるようだ。

 元々の戦闘能力がランクAと高いので、実際彼が下っ端として活動すると、珍しい頑丈さと戦闘センスが伺える動きからバージョンアップしたヒーロー達と数度やりあって倒されるという形に収まるのだろう。


 その一方で、彼にやられた下っ端達の受け身の取り方が格段に上手くなっているという副作用的な効果も出ていた。


 《悪役としてのやられ方》は元来の下っ端戦闘員が文句なしに上手いが、それでも無理な体勢を取らざるを得ない場面も多い。それが、多少手加減したとしてもあの《蘇芳》に無茶苦茶に投げ飛ばされたことで、自然と受け身の経験値が上がったのだろうと思われた。




 今、啓吾が見ている目の前で、数名をヒーローと見立てて、下っ端の一員として蘇芳が動いているのが冗談にも感じられるのは、彼の上位幹部然とした雰囲気と大きな体のせいだろう。


 両手を威嚇するように掲げ、手を爪立てる猫のように構え、且つ、片足を持ち上げた阿呆のような飛び掛かり、《張り付くヤモリのポーズ》なんかもしている。



 見た瞬間「ぶっ」と噴出したが、勤めて無表情を意識して耐えた啓吾は、まだ優秀な方だろう。


 頬と腹の筋肉が痛てぇ。





 しかし、脳内で先ほどの姿をリフレインさせるが、彼の周囲の下っ端は綺麗な悪役として再現されるのに、その間にいたはずの大きな全身タイツ野郎はピンボケしている。


 黒い塊だ。


 今一納得がいかずに、腹筋と顔の筋肉をより一層強化して、ピンボケに焦点を合わせると、むしろ、全身タイツではなく、最初にモニタで見た《元No.2》が眼光鋭く下っ端を打倒している図に変換された。


 どこのヒーローかというような立ち位置だが、やはり再現された彼の顔は凶悪犯罪者のそれだった。


 ヒーローにも悪役にもなれないとは、可哀想な奴である。




 そう感想を抱いた啓吾だが、心中と裏腹、そろそろ引き結んだ口元と腹筋、全身の緊張が限界であった。

 彼らを尻目に、啓吾は次の計画の資料を《職人》に渡すため、模擬練習用の部屋の隣の控室に入った。




「よぉ、《職人》」




 下っ端の仮面を頭に斜めに被りながら、彼は茶を啜っていた。


 ちらりと上目使いに見られ、啓吾は企画書を出す。

 茶は離さずに片手で受け取って、職人。




「次は、いつだい?」


「準備が出来次第すぐに。早ければ、再来週だな」


「ふぅん」




 頷き、机の上のメガネをかけて、職人は書類を捲っていく。

 細々とした部分、特に市役所や保健所と規模の相談、避難経路、予測被害状況等々、話し合わないといけない繊細な部分を、彼は丁寧に目を通した。




「“花園町、大木”…ていうと、採石所かい。そんなら、この動物達は、東の保健所で回収か」




 適当に手を伸ばして、斜め後ろの本立てからボロボロに折り線の癖がついた地図を広げ、職人は指さし確認をしていく。




「あぁ。この47号線を一時ストップさせて、ルートを確保する。

 サクラの人員と、ボランティアとして周囲のおばちゃんに話は通した。

 《SREC》の方で、戦隊ヒーロー達の大学への対応も根回し済みだ」




 あとは、市役所関係だが、ここの役人共は仕事が遅いくせに態度ばかり大きくて、話し合いは確定した内容を通してしか進まない。それはもはや“話し合い”ではないのだが、それは彼らには修正不可能だろう。

 そういう職場の雰囲気と、どっぷり甘えた根性からは傑物やデキるスタッフは生み出されない。期待するだけ、こちらが疲弊するだけだ。

 それをわかっているため、一切無駄口を挟まず、職人は口を開いた。




「役所への書類は?」


「確定後に持って来いと、…いつものパターンだ。頼めるか、《職人》」




 啓吾が書類の入った封筒を追加で手渡すと、彼は唸りながらそれを確認した。




「んー……まぁ、良いだろう」




 あまり気の乗らない様子であるが、この面倒な処理も業務の一環。

 文句を言っても始まらない。


 即座に行動やら指示を出すだろうと思っていた職人からのアクションがなく、啓吾は不思議に思って彼を盗み見た。

 未だ書類を確認中だが、彼はそのまま指示を出したり、動き回るなどするはずなのである。




「…あー…、《職人》? 何か不具合があったか?」




 自分の仕事のミスがあったのかと尋ねると職人はそれに関して否定し、少し悩む仕草をしてみせた。

 原因はどうやら練習場にあるらしく、彼の視線が時々そちらを向いている。


 何となく思い当たる節がないわけでもない啓吾だが、きちんと言葉に出してもらうことにした。




「で?」


「まぁ、お察しの通りだ。…ちょっと、使ってみたくてな」




 やっと使い物になり始めた蘇芳の改善を目の当たりにし、気持ちはわからないでもない啓吾だ。

 だが、第一印象《DH幹部の新人》として見た彼らと、第一印象《元異種族上位幹部》を知っている啓吾では、彼に対する違和感に違いが出るのも当然だ。


 悪役は、格好つけてなんぼ。


 実質幹部であり能力的にも上位幹部という、高貴中の高貴に、果たして下っ端という雑魚をさせてもいいものか。

 判断に迷う啓吾は、後の判断を社長に回せとしか言えなかった。
















 これがどうして、あぁなった。


 次回まで全く関係がないと考えていた啓吾扮する《シュートランス》は、何故か《蘇芳》と共に現場を見下ろしていた。

 《シュートランス》はあの黒尽くめのマント姿であるし、《蘇芳》はSFの衣装ではなく、全身黒タイツの変態と見紛う姿で。



 元々、《キョウカ》の担当するSFの登場人物であった蘇芳だが、万年人材不足のDHの事、珍しい戦闘力と高い知性、暴走しやすい民族にあり一般的な良識と柔軟性のある考えを持つ点から、DHにも理解を示すと考慮され、幹部として引き抜かれた。

 そうして一悶着も二悶着もあった結果、彼は彼の希望するSFの担当ではなく、《シュートランス》の担当する戦隊モノに、現在補助スタッフとしてついていた。




 しかし予想はしていたが、彼は雰囲気と体つきと態度が、他の下っ端達とは恐ろしく違いがある。

 威圧感が人型を取った姿が、その他大勢と同じ群れの中にいた。

 ネズミの群れの中の虎といったところ。

 あの頭一つ飛びぬけている姿に違和感を感じるなという方が無理である。


 本来の下っ端達は慣れてしまったのか、普通に井戸端会議しながら待機しているところが、さらに啓吾の違和感を誘っていた。



 そんな失礼な感想を抱きながら、ぼんやりと現場と蘇芳とを交互に見ていた啓吾だが、様子を伺って注意を向けていたことで、蘇芳が微かに身じろぎしたことに気がついた。

 彼に視線を向けると、気配に敏感な蘇芳も、啓吾の方を見ていた。




「どうした?」


「…イー、イイイイイー、イイイイイイーイイーイ、イイ、イーイイイ。イイーイイー」




 『…このシナリオでは、5人組を主として展開すると聞いている。気配が近い』と、下っ端の中を割って、王者然として啓吾に近づく蘇芳。



 仕事上、下っ端が幹部に気軽に近づくことは少ないが、彼ならばたとえ全身タイツであろうとも、立ち居振る舞いの問題なのだろうが、何故か自然なことだと思ってしまう。




 矛盾的な啓吾の心情は、さらに彼が言葉を発し、間抜けな「イー」音に混じって翻訳される、彼本来の言葉の二重音を聞いていることで深まった。



 啓吾の頭は混乱を示すが、蘇芳の戦闘ランクAは伊達ではない。

 親切な忠告はきちんと聞いておこうと啓吾は尋ねた。




「どっちだ」


「イーイーイー。イイイイイイイー、イーイイ、イイイーイーイ。イイイ。

 イーイイ、イイイイイッイイイーイー」




 『南南東。速度としては、大型二輪程度。一人。後からいくつかが追っている』と、静かに義務的に告げた蘇芳の言葉、大型二輪で悪役に突っ込んでくるといえば、啓吾には言われずともわかった。

 正義の味方の癖に、一般人は検挙しても、制限速度より20km以上オーバーしても免停にならない警察官みたいなことをしている。




「あの反骨精神、相変わらず好き勝手だなぁ。途中で白バイに見つかっても逃走してんだろ」




 戦隊モノのお約束、途中から妙に力量が向上したりするアレだが、現在は一人だけバージョンアップしたブルーだ。

 青いコスチュームだからだろうが、啓吾は、お前ら安直しすぎだろうと、いつか突っ込んでやりたいと思っている。






 そんな呑気な啓吾に比べ、比較的根が真面目な蘇芳は、中央広場の公民館上という現在の待機場所から、敵の気配を読もうと、仮面の下で目を細めて意識を集中していた。


 悪役相手に戦っていた5人組から、一人だけ向上した戦闘力を持ってしまったブルーを、蘇芳はどれほどの加減をして対応をしていけばいいか悩んでいる所だ。

 遠くにある気配で読みにくいが、はっきり言って、ファートの足元にも及ばない。



 その一方で蘇芳が思い返すのは、前回のSFでのミッション。


 元が上位幹部である彼は、力量の差を自覚していなかった。


 第一、敗北は死と同義である阿修羅族の出身であり、これまでも手加減というものをする戦闘の経験など皆無であった彼である。


 戦闘力の高さを評価されたとはいえ、下位幹部程度の実力しかない《キョウカ》と、同時期に同ランクとして登場するには無理があったのだと、冷静になった今ならわかる。


 それで納得できるかといわれれば、無論、否だが。




「お。来た、来た」




 《シュートランス》となった啓吾が言うと同時に、爆音を響かせた二輪が現場に突っ込んできた。


 ブルーの特攻という不測の事態も、長年現場を押さえている職人たちは鮮やかに対応して、道を譲った。

 一瞬騒然となる中、裏方のDHスタッフが慌ただしく軌道修正を図っている。


 幹部である《シュートランス》もそろそろ登場する必要があった。




「イー」




 『一方的だ』と、先日の失敗ミッションで力量を判断するようになった蘇芳が、苦い言葉を吐く。


 いくらベテランの職人とはいえ、若く、腕っ節の強いブルーの遠慮ない暴力に傷ついていた。

 一度認めた仲間や師は大切にしたがる蘇芳の事、残虐と言える行為に仮面の下で顔をしかめていた。


 それ以降沈黙する蘇芳は隣を見る。


 幹部である《シュートランス》とこの場で待機している下っ端達は、あとで現場に投下されるメンバー(新人)たちである。

 相手は《正義の味方》と名乗っているとはいえ、蘇芳から見れば、彼らの行動は不意に手に入れた力に振り回される愚者であり、制御など考えてもいない様子。

 また、シュートランスはともかく、今現場にいる職人たちをフォローする技量はない。


 迷いの後、蘇芳の足は自然と前に出ていた。







 しばらく静観していた啓吾は、じゃあそろそろ登場するかと促そうとして、蘇芳の背中を見逃した。




「おい、《蘇芳》!?」




 慌てて彼の行く先を確認すると、どうやら、より強く蹴りを入れられて吹き飛んだ職人をフォローするために先に登場してしまったようだ。




「「イーッ!」」




 彼につられて、慌てて現場におりていく下っ端。




「マジか…?」




 茫然と眺めながら、啓吾は職人が彼に悪役のすべてを教えてくれているよう祈った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ