side1 a case of …
遠い、遠い宇宙の何処か。
阿修羅族と自称する、超人的な能力と高度な機械文明を持つ生物が住む惑星があった。
その惑星は生命を育むほどに素晴らしい環境だったに違いない。その中で阿修羅族は争いを続けていた。もちろん、それは鏡花の住む世界にも当然としてあったことであるので、愚かだとは言いがたい。
けれど、その争いも一つの法律の下、ある程度統制できるようになった。それが、力が全てという、割とシンプルな考えだ。
ぶっちゃけた話、人口問題、環境問題、モラルその他を詰め込みすぎた結果、あまりに余裕がなくなってきて、阿修羅族全体が大混乱していたのだろうと鏡花は考えている。
まぁ、弱肉強食社会で上手くいけば良いに越したことはないのだろうが、血の気があり、すぐ頭に火がつく阿修羅族の性格から見ても、最後は上手くいかなかったのだろう。
とうとう、星は滅んだ。
そして、崩壊の最中、宇宙を回遊できる船を作り上げ、滅亡を免れた生き残りが新天地を目指して放浪の旅を始めたという報告を鏡花は受け取っている。
悪役派遣会社のD.H.では良くあるケースだ。
さて、D.H.が悪役派遣をしているという話は隠さず主張しているが、別段D.H.は世界征服を狙う悪の組織というわけではない。もともとの趣旨は、いかにして視聴者、要は顧客を満足させるか、という事であり、社会貢献するその他の会社となんら変わりがないのである。
敬愛する、我が社の社長は、一風変わった人であることは間違いないのだが、会社を興す際にこう考えた。
幼少期にわくわくして見ていたあの番組。あれの主役は一体誰であったのだろうか。
苦悩し、成長していく主人公か。
はたまた、派手な爆発音と共に蘇る巨大ロボか。
華麗な演出と効果を出すチームだったのだろうか。
―――――――――否!
それは、主人公たちより足蹴にされ、倒されても、再び倒されてもカメラが切り替わる瞬間を狙って立ち上がる、不死身のHero。引き立て役として華々しく、爆発音も巨大に響かせて散って逝った、彼ら。
悪役だ。
そういうわけで。D.H.は社長の趣味の極み。
顧客の求める筋書きとするため、ストーリィを盛り上げるスペシャリストである、様々な能力を持った悪役たちを育成、派遣している。
アクションスタントと何ら変わりない職業であるため、下積み期間として入社してすぐは下っ端戦闘員からスタートするのだが、その育成過程で、ある突出した能力を持った人物を幹部として、(色々バックサポートも充実してはいるが)最前線に送り込む。
今回はそれが鏡花であったということなのだが、たかが派遣社員と侮るなかれ。
顧客については個人情報が五月蠅い時代であるので鏡花はあまり知らないが、幹部が潜入するストーリィは映画のような想像の産物ではなく、ストーリィの当事者(ここでは阿修羅族とか)にとっては現実問題。
実際に生死をかけた戦闘もしているし、鏡花の身分は役者ではなく、傭兵として働いている。
実際に現場にいる鏡花の心構えだってただのアクションスタントでなく、文字通り登場人物に気取られないよう、また顧客にとっても不自然でないように行動するスパイに近い。
ハイリスク、ハイリターン。文字通り命をかけて仕事をしている。