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Darker Holic  作者: 和砂
side1
17/113

side1 Darker Holic社 3

人気投票受付中☆

お好きなキャラと萌えポイントを添えて、一言お願いします。


「あぁ、No.6」




 何としたものかとカードキーを弄びながらやってきた第二セクター、西ブロック。

 これまた珍しい人物に会い、鏡花は目を見張った。


 声をかけてきたのは、人間にはない横に長い耳を持つ色黒の人物。

 ファンタジーではお馴染みのダークエルフ族であり、ここDHではNo.7である。


 中肉中背で髪も長く、中性的な人物で、鏡花はこの人の性別をまだ知らない。

 DH中には両性というのもいるという噂が流れているため、この人がそうではと思うこともある。


 あえて彼としておこう。

 この人は無表情か怒気の表情を見せるものの、他は感情表現が乏しい。

 しかし仕事以外では案外取っ付きやすい人物だ。

 シュートランスとも一緒に飲みに行くこともある、比較的友好的な人物であった。


 それに明るく挨拶して鏡花は尋ねる。




「No.4にいわれて来たんだけど。

 何か、そのぅ…男性を監禁しているって聞いているんだけど、本当?」


「あぁ、あれか。…五月蝿くて敵わない、早く持っていって」




 どうやら思い当たる節があるらしいNo.7。

 貴重な真偽の情報に礼を言うが、どうしてそんな人物が自分に回ってくるのかわからない。


 感応力でも試せというのだろうかと表情を曇らせた鏡花に、No.7は不思議そうな顔をした。

 鏡花の目からして微かに、だったが。




「No.6、彼と知り合いだと聞いた。早く行ってあげると良い」


「は?」




 再び訳のわからない顔をする鏡花に、No.7は奥を指し示す。

 仕方なしに行くと、カードキー専用の扉があり、扉越しからでもわかる不穏なオーラを感じ取れた。


 鏡花はうっと生ゴミを見たかのように顔を歪めて身を引く。


 何だかすごくお近づきになりたくない感じだと思った一瞬後には、扉が人にはありえない力でバンバン凹み、歪むのを目の当たりにすることとなった。




「…労災出るんでしょうね」




 勇気付けるために息を吸って。

 鏡花は扉に能力を使い、ドアを開けれる分だけ、気持ち程度歪みを修正する。


 刹那、内部から息を詰めるような、緊張した殺気が沸き起こったのをひしひし感じた。

 とりあえずノックをしてカードキーを差し込むと、声をかけながら中へ入る。



 薄暗い檻を想像していた鏡花だが、内部は清潔なホテルのような部屋だった。

 No.4から聞いて想像していた、待遇の悪い監禁ではないようだとほっとする。


 とりあえず、例の人物を探して視線を彷徨わせた鏡花だが、人気のないそれに毒気を抜かれた。

 まさか、ポルターガイストのような怪人じゃないでしょうねとおずおずと内部に足を踏み入れた。



 ぞわりと体が反応する。


 すぐ体の傍で湧き上がった殺気に、咄嗟に振り返ろうとして、鏡花は突き飛ばされ床に倒れた。

 反応できずに倒れた鏡花に、飛び掛るようにして殺気の主がマウントになったのがわかる。


 蛍光灯に目を細める鏡花の首を、その人物は即座に締め上げた。

 あまりに強い力に相手が男性だと知れ、さらに苦しくなって鏡花は目を閉じる。

 その一連の動作、随分手慣れていた。


 鏡花も悪役であり、この程度でやられてはならないと、相手の手に自身の爪を立てて抵抗する。




「…ちっ」




 小さく舌打ちが聞こえる。


 何かきっかけさえあれば、この状況を逆転できるかもしれない。

 けれど、思いの外、首を締め上げる手はきちんとしたポイントを押さえており、早くも鏡花は次第に意識のなくなる自分に気がついた。


 となれば、最後の手段。

 阿修羅族母艦を操った実績と能力は侮れない。

 生物には使ったことのない能力であるが、切羽詰まった状況、果たして効果があるのかなど考え付かなかった。



 ただ、荒れ狂う炎のようだと感じた直後、違和感にまみれた戸惑った間が流れる。

 そして首にある手の力が緩んだ感じを受けた。


 反射的に咳き込む鏡花だが、首には触れる程度に相手の手があり、小さな恐怖が浮かんだままだ。


 すると、また戸惑うような間や感情を相手から受けた。

 不思議に思い、相手を確認しようと考える。


 息が収まったところで薄目を開けかけた鏡花の体に、ぞくりとする感覚が走った。


 相手の手は変わらず首にあるのを触覚から受け取ってはいるのだが、《感応力》の影響か、相手の感情の波のようなものを受けている。


 体の表面を慎重に、滑るように撫でられている感じで、鏡花は溜まらず相手を蹴り飛ばした。




「嫁入り前の娘になんて想像してんのよ、変態っ!」




 相手にとっては訳のわからないことをいわれたのだろうが、敏感すぎた感応力のせいで体を撫で回されたように感じた鏡花には切実だ。


 やや涙ににじんだ目で相手を睨みつけ、そして起き上がって不機嫌そうな顔をした相手。


 もっというと阿修羅族No.2を見て、顎が外れたかのような驚愕の表情になった。



 瞬間、咄嗟に体を翻して部屋から出ようとする鏡花。


 だが、呼び止められる。


 否、格闘術を極めた達人であるシグウィルに腕を取られ、投げ飛ばされるようにして奥のソファーに落ちた。




「―――っ、たぁ」




 一本背負いのような乱暴なやり方で投げ飛ばされる乙女という貴重な体験をした鏡花は、もろに打った背中を庇うようにしてソファーから転げ落ちて床に寝そべった。


 いくら訓練を受けているとはいえ、鏡花は機械操縦の方が多いのである。


 しばらく痛みに耐えるようにしてうつ伏せていたが、上に乗りかかるようにしてしゃがみ込んだシグウィルの気配に、そろそろと振り返った。




「何故、逃げる」




 それは、思ったよりも近くに来ていたシグウィルの怒気の表情。

 いつも遠目に見ていたそれを間近で見て、鏡花は自然な恐怖から顔を引きつらせる。


 そんな顔をしていたら普通逃げるだろうと鏡花は思うが、言うのは憚られた。



 先ほど、相手がシグウィルだと気がついたときに、彼はどんな表情をしていただろうかと、思い出そうとして鏡花は断念した。

 最初から、怒っていたかもしれない。



 押し黙った鏡花に、シグウィルは彼女の体を覆うようにして近づけていた顔を離した。

 だが肝心の体の方は退かず、無感動な冷たい目に戻るとついっと彼女の肩に指をかける。



 途端に先ほどの触れるか触れないかわからない、もどかしいぐらいの体を滑る感覚が鏡花に沸き起こり、思わずその手を払いのけ、替わってシグウィルは不当な扱いに眉根を寄せた。




「何なのっ。恨むなら恨むで良いけれど、意味がわからないわ」




 くすぐったいとも違う、痴漢にでも遭うかのような感触。

 鏡花は二度目ですっかり参ってそう言うが、シグウィルは目を剥くように驚愕を浮かべた。


 しばし視線を左右に流れさせ、そうして一度深呼吸してぐっと彼女の顔に自身の顔を近づける。



 急なことで鏡花は気後れして、若干顔を離そうと試みた。


 シグウィルはそれに素早く気がつき、後頭部に手を差し込むようにして彼女の顔を持ち上げる。

 同時に噛み付くようにして口付けた。


 感応力によりシグウィルの感情をダイレクトで受けていた鏡花は、刹那、体を遠慮がちに撫でる痴漢のような気配の靄が、ガスに引火した火のように炎まで燃え上がったのを感じた。



 あの冷淡で無感動なシグウィルが熱い性格とは何となしに感じていたが、炎に包まれるかのようなそれに、鏡花は呆然として抵抗するなんて考えつかない。


 シグウィルはシグウィルで抵抗しない鏡花に感激したかのように、彼女の体を抱き起こして強く抱きしめ、そのまま貪るようにして口付けを交わした。




「……生きていたのか」


「え。あ、はぁ…はい」




 満足いったか、ゆっくりと唇を離してシグウィルが鏡花の襟元を撫でながら言うと、鏡花は展開に全くついていけずに呆然と頷いた。

 告げたシグウィルの目が少し安心したように、心配したように細められた事に一番驚いていたのかもしれない。


 それから何だかシグウィルに押し倒される形になりつつある鏡花は、硬直して成り行きを見守るしかなかった。



 シグウィルは、ふっと破顔するようにして鏡花を上から見下ろすと、片手を鏡花の肩に置き、上体を倒してきた。




「ここは、俺達の居た世界とは違う、な。不思議な装束だ」




 驚きすぎて思考回路が完全に停止した鏡花は、シグウィルの下っていく視線をぼんやりと追う。

 彼の手が自身の服の下に滑り込もうとしたところを見て、再び彼を見上げた。


 彼はさらに鏡花に覆いかぶさろうとしてきて、朱色と灰の瞳がいつぞやの、慈しむような感じに細くなる。


 強面なのに優しくなる表情や大柄で均整の取れている体など、初めて鏡花はこのシグウィルという人を美しいと思えた。



 しかしそれも長く続かず、さっと厳しい顔に変わったシグウィルに鏡花は魔法が解けたのを感じた。



 恨まれているだろうとは、思うのだ。

 DH社員とか、異次元の人間だとか、エンターティメントだとか、結局、彼の疑っていた通り、あの世界ではすべての裏切り者だから。

 分かっているから、シュートランスも悩むんだろう。



 観念して目を閉じた鏡花は分からなかっただろうが、シグウィルが一瞬だけ惜しむような表情をした。


 そうして恐らく監禁されたときに、彼は暴れでもしていたのだろう。

 近くの床に落ちていた本を手に取ると、振り向きざまに渾身の力を込めて入り口に投げた。




「お邪魔した、No.6」




 ぱしっと小気味良い音がして、鏡花は目を開けた。

 もはやシグウィルはこちらでなく、入り口の投げられた本を取ったNo.7を見ている。


 彼の無表情に、セリフに、止まった鏡花の思考は再起動し、顔に勢いよく血が上った気がした。


 警戒心むき出しで冷たくNo.7を睨むシグウィルから慌てて這い出す。

 すぐに鏡花は慌てて彼の肩を掴み、沈黙したNo.7に悲鳴のように言った。




「誤解よ、誤解っ!!」





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