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Darker Holic  作者: 和砂
side1
14/113

side1 be the end of…

 鏡花が何事か呟いて赤い自爆ボタンを押す。

 すると、彼女の愛機である、漆黒の機体内部から閃光が漏れ出した。


 閃光に気がついた正義側の機体が大剣を引き抜き、一瞬痙攣するかのように硬直する漆黒機。

 大剣を引き抜いた流れで、機体は漆黒機を残して飛び退く。



 これまで自分を支えてきた人々の、さまざまな苦悩や表情、希望。

 それらを脳裏に焼き付け、思い浮かべて、ここまで来た。

 彼は追い詰められた状態からも意志の光を失わず、絶望的な状況下、立ちはだかる敵機を斬った。


 だが、相手が若い女性だったことを思い出して暗い顔をする。


 彼が見つめる先。

 硬直から解かれた漆黒機は、反り返るようにして内部から爆発し、一瞬後、余韻を残して大破した。


 肩で息をするように、やっと保っている愛機に彼は小さく礼を言って、さらに先に進む。






 その一方、最終決戦につき、弟であるファートの愛機やその仲間機体と対峙していたシグウィルは、鏡花への通信が切られた即座にレーダ展開をして状況を確認しようとした。


 標準をあわせた途端、漆黒機が大破する様子を目の当たりにし、シグウィルは呆然とする。

 彼女に止めを刺しただろう機体は、ふらふらとこちらに向かってきていた。


 行動するには遠い場所であったが、援護できたはずだ。

 なぜ、アレを壊さなかったのかと、シグウィルは後悔に苛まれた。




「…おのれっ」




 自分で思うよりも暗い声が漏れる。

 絞りだすように発せられた声を自覚し、さらに彼は己の怒りをも自覚した。


 急に気力が上がったシグウィルの深紅機に、ファートが距離を取った。


 その瞬間、シグウィルは印を組んで、念動エネルギーの最高値を更新する。

 それを周囲の正義サイドに、照準を当てた。


 ファートが気づき、周囲に警戒を呼びかけるが、制止を振り切り、血気盛んな機体が飛び出す。


 それを引き金として、シグウィルが技を解放した。




「奥義、《紅蓮降魔陣》!!」




 不気味な赤黒い炎が、飛び出した機体を締め上げる。

 さらに陣状に走った火に、正義側の多くが巻き込まれた。


 ファートも同様で、悲鳴をあげて苦しむも、運良く一瞬後に爆発が起こり、弾き飛ばされた。


 それを見てもシグウィルの気は治まりそうになく、彼は苦々しい顔のまま次の印を組む。



 気力も上がったが被害も受けた正義側は、さらに上昇するシグウィルの気力に恐れてひるんだ。




「楽に倒されると思うなっ」




 冷え冷えとした声音に、ファートははっとして、後方を振り返る。


 先ほどまで翻弄するように動いていた漆黒の機体。

 鏡花が見当たらないのに気がつき、レーダで確認したが感知できなかった。


 まさかと兄を見つめ、彼は苦しみに耐えるように呟いた。




「キョウカ…さん…? まさか…」




 その声が聞こえたのか。


 シグウィルが鋭い視線でファートに標準を定めたため、ファートは顔を歪めて兄を見た。

 それが答えのような気がした。




 思えば不思議な人だった。


 ファートは一瞬にして、阿修羅サイドに居た頃に戻る。


 家族とも戦わなければならない阿修羅族の掟。

 どうしようもない現状について不満を漏らすだけの自分は、どうしようもない、子供だった。

 だが幼い自分に親身になって、阿修羅族にはない考えで話を聞き、助言をくれた女性。



 不意に涙が浮かぶが、それを拳でぬぐい、操作に集中する。




「兄さん。俺は、阿修羅族の掟を否定する」




 そうして、静かに怒り狂うシグウィルの深紅機を前に拳を固めた。

 偉大な兄に勝てるかはわからないが、強化ブーストを回転させ、彼に向かう。


 気がついて、シグウィルは深紅機の拳でファートの愛機の拳を受け止め、蹴り飛ばした。




「うわっ」




 ファートが弾かれるが、それを兄妹機が受け止めて、彼らは頷きあった。

 鼓舞するように、正義サイドの母艦もまた、シグウィルの深紅機に標準を定める。




「キョウカさんは……

 例え最後まで阿修羅族に義理立てしてくれていたとしても、俺に教えてくれたんだ。

 大切な人を守ることの大切さ、その強さをっ」




 ファートが情熱を目にたぎらせて、兄の機体を見つめる。


 それを支えるようにして兄妹機が元気良く励ましあい、そうして感化された正義サイドもまた、気力を復活させていった。



 次々に落ち着いた気配を高めつつ、それぞれ戦闘態勢に入るのを、シグウィルもウインドウ越しに確認する。




「そうだ。我々《SREC》は、阿修羅族にも和解を求めた」




 二重人格と噂の、影のある主人公が、強固な機体から声を発した。




「避けられる戦いも、あったはず…」




 そのパートナーである女性が、シグウィルに標準を定めつつ、ジェット機から同意の言を続ける。

 また、その近くの、別の正義側機体も鼻をすするような声で同調した。


 彼らにもそれなりに苦しみがあり、苦悩があったことは理解できる。

 シグウィルは険しい顔をしたまま、沈黙を保っていた。




「私達は、戦いが多くの苦しみと犠牲との上に成り立つことを、これ以上なく知っている」


「……散っていった多くの仲間にも、この星に住む皆にも、俺達は約束したんだっ。

 必ず、星を救って見せるって!」




 彼らの声をきっかけに、次々と正義側が立ち上がり名乗りを上げていく中、シグウィルは苛立ったように深紅機を構えさせた。




「そうだよ、帰ろうお兄ちゃん。きっと…」


「おう! 帰ろう、皆のいる、あの星に…」




 ファートを支える兄妹機から可愛らしい少女の声が告げると、同じくパイロットであるその兄が力強く続けた。彼らはウインドウにて、ファートにも目配せしている。



 シグウィルは彼らの声を聞きながら侵略者側として憂い顔を呈していたが、先ほどの大破する漆黒機の映像が再び浮かんできて、ぐっと拳を固めた。



 阿修羅族とはいえ、鬼ではないのだから情感ぐらい当然持っている。

 だから、時には割り切らなければ戦闘などやっていけない。


 それでも、ゆっくりと滑り落ちるような喪失感が、自身を苛んで離れないのだ。


 他族でありながら自身と対等にあろうとした、風変わりな女。

 彼女のことを思い出して、シグウィルはぎりっと歯をかみ合わせる。




「ファート、貴様の決心はわかった。しかし、ならば……俺を倒していくことだっ…!」




 ファートは予想していた答えを、しかと現実の兄から受け取り、苦渋に顔を歪めた。

 諦めきれずに兄をじっと見つめ、こらえるように怒鳴る。


 他の味方たちも、兄弟という関係に憚って行動を控えた。


 暗い宇宙の空間に佇む深紅の機体は、風になびくかのように、おのれの気力に威圧感を呈している。




「兄さん、…どうしても、……どうしても、駄目なのか!?」


「………お前は阿修羅の裏切り者、だ」




 思案するような間を残して告げたシグウィルに、ファートはぐっと耐えるように息を吸い込む。


 兄は古風で誠実な人物だ。

 揺らぐ事のない、誇り高い人で、それに憧れていた。


 決心は固いのだと知り、ファートは愛機で戦闘体制を取る。

 周囲に援護を頼むと、自分の奥義を繰り出すために印を結んだ。


 シグウィルも同様、さっと印を組み、念動エネルギーを集中させる。


 高エネルギー反応に、周囲の機体は防御に回るもの、一斉攻撃に回るものと、二手に分かれた。




「奥義、《虎狼爆砕拳》!!!」


「奥義、《妖魔閃赤陣》!!!」




 ファートの愛機が、練り上げたEGエネルギーの突き動かされるまま拳を突き出す。

 シグウィルもまた、重い一撃を食らわせるように拳を繰り出した。


 二人の激しいオーラに、周囲に爆風や閃光などのエフェクトが展開する。


 二人は競り合うように雄叫びを発しながら、さらに気力を高めた。

 競り合ったまま、相手を打ち砕こうと、どんどん機体の同調レベルを上昇させていく。




「「うおおおおおおおおおおおお――――――――――っ!!!」」




 収束した高エネルギーで周囲は太陽の如く煌き…。






 ―――――最終決戦の火蓋は切られた。


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