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Darker Holic  作者: 和砂
side5
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side5 悪役と悪役7


 首の後ろ辺りに、じかぁっと痛みが走ってからの記憶がない。後ろ手になって縛られている事で、恐らく、適当な地位にいる幹部で扱いやすい奴と思われて攫われたんだろうというのは考え付いた。ぶっつりと途切れた記憶のまま目を覚ませば、即座に埃っぽい臭いに閉口する。半年ほど掃除しなかった倉庫みたいな部屋だ。横になったままは嫌だったが、のたうち回って服を汚すのも嫌で鏡花はじっとしていた。下がコンクリ床なためか、それとも日が落ちた時間に暗がりに居る為か、肌寒い。正面のドアの窓からは薄らと明りが見え、どこかの室内に居るのはわかったが、それが何だというのだろう。少なくとも建物の雰囲気からSRECではないなと彼女は考えた。あの長かった研修も無駄ではなかったということだ。




 ―――十中八九、新興組織よねぇ。




 SRECがDH社の様な下っ端戦闘員を使うはずもない。攫われた間抜けな幹部の文字が浮かび、鏡花はうんざりとため息を吐いた。これで晩御飯まで食いっぱぐれているわけである。ぐぅっと鳴りそうなお腹に力を入れて押さえ、鏡花は目を閉じた。

 マッドも新興組織の本部の位置を知らないと言っていたし、何処かに通信装置や電線があれば、≪感応力≫で助けを求める事が可能だ。けれど、そういった能力である≪感応力≫が使える自分が、何故、こうも見張りなく、野放しにされているのだろうか。どこか監視カメラでもあるのかと気配を探って見るが、この部屋の中には見当たらない。ふっと眼を開け、鏡花は「減給確実よねぇ」と嫌な呟きを吐いた。




『そうです。SF担当の、ロボ使いですよ』


『ほほぅ。で、奴のロボはどこだ』


『ボス。話を聞いてましたか。潜入出来たわけではないんですって』




 薄目を開けて嫌な顔をする鏡花は、廊下にそんな声を拾ってぴくりとする。同時にこの部屋の唯一の出入り口である正面ドアのノブが回ったのに気付き、寝た振りをした。




「何じゃ、つまらん。今回の件を担当した役立たずを、後で連れてこい」


「ですから、こうして幹部の一人は攫ってこれたんですって。話を聞いて下さいよ、ボス」




 二人の足音を拾うと同時に、部屋の電気がついた。瞼を閉じていたから良いものの、薄目を開けていたらきっと顔の表情が動いただろう。声の程度からは一人は中年、一人は青年、両者とも男性と知れた。寝た振りを続ける鏡花の顔に、掛かる影。




「ふぅむ。こいつが…」


「DH≪No.6 キョウカ≫ですね。ロボの操縦者なので、幹部内でも生身の戦闘力は皆無ですよ。一緒に居たらしい≪No.9 プラチナ≫って女の子なんか、ESPって超能力使ってきますから、こいつで良かったんですって」




 恐らくボスらしい中年に続いて、側近らしい青年がしみじみと言う。戦闘力皆無と、図星を突かれて腹立たしかったが、何とか鏡花も表情を変えずに済んだようだ。

 しかし、奇妙だなと鏡花は思った。電子社会において最強の武器となる≪感応力≫持ちの幹部だとナンバーで知っているはずなのに、彼らの情報の中に≪感応力≫の情報がないようなのだ。DH社のマッドに存在を知られない技術があるのに、持っている情報が稚拙すぎないかと彼女は感じた。SRECを落としたのなら、SRECからでも情報の吸い上げがあっていそうだというのにだ。




 ―――それとも、SRECは完全には乗っ取られていない?




 弱っていたとしても正義の会社、まぁ、あり得る話ではある。それならそれで、何故SRECが片を付けないのかという考えも浮かんでくるが、内部のごたごたとDHへの対応で、それどころではなかったのも知っているので、この考えは保留だ。考えを整理したく、早く興味を失ってどっかへ行かないかなと思っていた鏡花だったが、ばしゃっと冷たい水を被せられて、びくりとしてしまった。




「気がついたか、女」




 重たいバケツの音なんか全く聞こえなかったのにと、忌々しく思いながら目を開けると、眩しさの逆光に浮かぶ、海賊の船長みたいなひげ面のおっさんが見える。背は案外低めだが、肩なんか盛り上がった筋肉で体格良く、横幅が太い。太っているわけではなくて、筋肉で横幅が太い。ぽたぽたと顔に掛かる水に瞬きすれば、「すみませんねぇ」と思っても居ないだろう声音で、ハンカチで顔を拭われた。見れば、短く太いひげ面の海賊船長とは対照的に細く長い青年がいる。彼に起こされて座り、鏡花は二人を半眼で見た。




「で、あんた達、誰……いや、あのロビー前に居座ってる奴らでしょ」


「そうです。新生DHとでも呼んでください。もうすぐそうなる予定ですし」




 細く長い青年がそう言ってにこにこと、何だか馬鹿にされているように感じる笑顔で言った。この人、セリフといい動作といい、やられ役の悪役っぽくて、職業病の鏡花はちょっと気になる。あんまり絆されたらダメだと鏡花は彼を見ないようにし、ひげ面の海賊船船長みたいな”ボス”を見た。




「分かっているだろうが、お前は人質だ。だが安心しろ。お前たちのボスが持つ、『絶対禁制ロストプロヒビットの箱』が手に入ったら解放してやるよぉ」




 「がはは」と大口を開けて笑い声を響かせるひげ面を眺めつつ、鏡花は首を傾げた。




「その何とかの箱って何?」


「おや、幹部なのに知らないんですか。これぐらいの黒い箱らしいんですがね、何でも莫大なエネルギーを秘めているとかで、うちのボスが欲しがってるんですよ。ホント迷惑ですよねぇ」




 新しい玩具を欲しがる駄々っ子みたいに自分の所のボスについて感想を言い、さらに胡散臭がる鏡花に、「確かな筋からの情報ですよ。まぁ、蛇の道は蛇ってね」とにこにこ続けた。それにしても、『これぐらいの黒い箱』と言われて、鏡花は暗黒神の持っていた黒いキューブを思い出したが、あれはきっと死神さんの鎌と一緒で、ほとんど存在がイコールのモノだろうと考える。とすれば、彼らは完全に絵に描いた餅を求めているとしか思えず、鏡花は微妙な顔をした。




「まぁ、こっちが箱が手に入るのが先か、そちらが降伏してくれるのが先かって所ですねぇ。敵対しつつも取り込めそうだった正義の会社と幹部一人では、まだ降伏してくださいませんかね?」




 知った事かと言いたい所を黙っていると、青年はさらににこにこと「僕達も沢山お客様をお迎えしていましてね。もう少しで強情なSRECとも手が組めそうなんですよ。そうすれば、DH社を乗っ取る事も可能なんじゃないかなぁなんて思ってましてね」なんて言った。暗にSREC側の人質も集めていたと言われても、鏡花の顔に変化はない。




「おや、驚かない?」


「バカね。こっちも良く良く知っているSRECのメンバーが貴方達に居たとして、今みたいにDH社こっちがのんびり構えているわけないでしょうが。腐っても正義の味方なんだし、三流悪役と手を組むに至ってないのはわかりきってたわよ」


「ふぅん。ま、そうですね」




 悪役のセリフに悪役として触発されたか、うっかり皮肉を言ってしまい、鏡花はぱっと支えを失って倒れた。「いてっ」と呻くと、”三流”のセリフに激昂するボスを青年が「まぁまぁ。負け惜しみですって」と適当な宥め方をしている。




「それよりボス。今後、この人どうします?」


「ふん。箱が手に入るまでここに転がしておけ。こんなへなちょこ、ワシがDH≪No.1≫になったら、真っ先にクビだ」




 何を言われても大して動じなかった鏡花が、不吉な”クビ”の二文字には心臓に悪いと言わんばかりに顔を歪めるのを、ひげ面は「ふふん」と高笑いして、青年はにたにたと可笑しそうに笑った。苦虫を噛み締めた顔で睨みつければ、それ以上用はない様子の二人で、しかし、ボスが踵を返そうとした時、青年が「ねぇ、ボス」と声をかけて変わった。




「この人寒そうですし、そんなに僕の仕事もないし、僕がお世話しますよ。イイでしょ」


「モノ好きだな」


「ま、ね。同僚になるかもしれませんし、媚売っとかないと」




 あはっと明るく言った青年に、ひげ面は再度「そいつはクビだ」と言って鏡花をビビらせた後、どうでもいいのか「好きにしろ」と部屋から出ていった。しんとした部屋に、しかし変な存在が残っていて鏡花は嫌そうな、面倒そうな顔で青年を見る。




「どういうつもりよ」


「いえね。僕、ボスの元で結構頑張って働いてるんですけど、まともに女の子と話す機会って少ないんですよー。なんせ同僚は悪役でボンテージの熟女といえば聞こえの良いボスの奥さんですし、SRECの子ってゆるふわ系多い割にメンヘラっぽいじゃないですか。その点貴女なんか、そこそこ冷静で年食ってて、自意識過剰からセクハラって言わなさそうな感じが良いなって」


「セクハラとは言わないけど、ぶん殴りたいわ。朝まで」




 めたくたに言われて、鏡花の顔が引き攣った。けれどそれにも「情熱的ですね」なんてからかうような事を言われて、さらに青筋が立ちそうに思っただけだったが。ふんっと鼻息を吐いて、鏡花はさらに彼を胡散臭く見上げる。




「大体、あの”ボス”よりあんたがそうだって言われた方が納得するわ。あんたが今回の仕掛け人なわけ?」


「いやいや。あれでボスってば結構頼りになるんだよ。僕は、まぁ、参謀気取っているけどね」




 組織の在り方はそれぞれだ。言葉通りに受け取るつもりもないが、今は考えないでおこうと鏡花は頷いた。そして急に寒気を感じてくしゃみする。そう言えば全身濡れたままだったとさらにうんざりして、青年を見上げた。




「で、世話してくれるんでしょう。未来の同僚さん。とりあえず、着替え、くれる?」


「あぁ、イイですね、この構図。ぞっくぞくしますよ」




 床に伏せたまま見上げるように言えば、そう返答がきた。無言で見つめ合う事しばし、相手が良い性格とわかり、鏡花は早々に興味を失って楽な姿勢になる。服が張り付いて不快感が増したが、この変態に頼むには癪だと我慢した。




「あれ、寒くないんですか? もう少しおねだりしてくださいよ」


「うっさい変態。死ね」




 「Boo」とでも言いそうな青年に吐き捨て、鏡花は無理矢理体の向きを変える。夜が深まったか、先程より寒さを感じて、無駄な体力は使うまいと黙る鏡花だったが、ごそごそと体をまさぐられて流石に無視できなくなった。




「んなっ、何…!?」


「何って、サイズ図ってるんですよ。あ、結構腰に肉ついてますね。支給服に大きめサイズあったかなぁ」




 散々失礼だと思っていたが、なおも失礼な事を言われて鏡花は叫び散らしたくなった。けれど、腰のライン、丁度くすぐったい所に手が触れて息を詰める。手を引っ込めて、青年。




「あはは。感じちゃいました?」


「ぶっ殺すぞ、この変態…」




 怒りで幾分か低くなった声で、鏡花は言った。「うわぁ、こわーぃ」とぶりっ子の返答が来て、さらに怒りで胸が熱くなる。我慢の限界と力任せに起き上がり、背後を振り返った鏡花は、また唐突に差し出された服を見て目を白黒させた。




「驚いたでしょう。さっきの水もなんですが、僕、色々作れる体質なんですよ。さ、どうぞ」




 確かに、先程もバケツなんて持っていなかったし、予備の服なんてのも持っていなかった。きょとんとして見上げる鏡花に、「間抜け面」なんて笑って、青年は「あ」としゃがみこむ。「何よ」と気持ち後ろに身を引いた鏡花に、にこにこと明るく笑った彼は「そういえば、縛られてるんでしたっけね。仕方ないから、僕が脱がせてあげますよ」とまたとんでもない事を言って、鏡花に蹴りとばされた。


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