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「お前と第一王子との婚約が決まりそうだ」
少し疲れた顔で帰ってきた父に告げられた言葉を理解するのに、少し時間がかかった。
「こん、やく」
「あぁ。デビュタントもまだだからとなんとか先伸ばそうとしたが出来なかった」
「第一王子って、どんな方だったかしら」
呆然と呟きながら、幼い頃に決まった婚約者だなんて後に真実の愛で振られる悪役令嬢みたい、と思う。
「……私もまだ会ったことがない。ほとんど自室に籠っておられるからな」
「あら、そう」
絞り出された声は苦々しく、表情には出ていないものの「王族と言えど、どこの馬の骨かもわからん奴に娘を差し出すことになるとは」という副音声が聞こえてきそうだ。
「まだ口約束だ。正式な書類は実際に二人を合わせてからになる」
「会って嫌だったら断っていいと?」
「……あぁ」
何があったかは知らないが、ずいぶん憔悴した様子に首を傾げる。娘が第一王子の妻になれば、外縁として相応の地位に付けるはずなのに。
……あぁ、そういうこと。
この場にいない母を思い浮かべて心の内で苦笑する。
「そうね。それなら、またその時に考えるわ。お話はそれだけかしら?」
にっこり笑って首を傾げる。私の言葉に頷いて「寝る前にすまないね」と言う父に一度首を振って退室する。
自室までのそこそこ長い廊下を無言で渡り切り、部屋に入ってベッドにうつ伏せになって――
「だからここは何の世界なの!」
外に漏れないギリギリの声を枕に吸わせた。
私は転生者だ。物心ついた時からふわふわとあるはずのない記憶を持っていた。その記憶があまりにぼんやりしたものだったから、つられて私もぼんやりしていた。けれど年を重ねるにつけてはっきりした記憶になり、私の輪郭をくっきりと作り上げていった。今世の私に自我が芽生える前から記憶があるため、現在の自我はほぼ前世の私だ。




